負けてもなお、その熱い“貴族”の戦いぶりは、ファンの胸を熱くした。プロ将棋界唯一の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」予選Dリーグ第2試合、チーム永瀬とチーム天彦の対戦が6月19日に放送され、チーム天彦はスコア1-5で敗戦。第1試合と合わせて2連敗となり、予選敗退が決定した。リーダー佐藤天彦九段(33)は2戦2敗と結果はついてこなかったが、敗れた2局は197手、187手といずれも長手数の大熱戦。ファンからは「これは最高に面白い」「なんで毎回こうなるんだ」と感動の声が寄せられることとなった。
その雰囲気、ファッションセンスなどから“貴族”の愛称でファンに親しまれる佐藤九段。ただそのイメージとは裏腹に、持ち時間5分・1手指すごとに5秒加算という超早指しで戦うこの大会では、終盤まで諦めず熱く戦う姿が印象深かった。昨年大会でも、渡辺明名人(棋王、王将、37)と持将棋にまでもつれ込んだ一局は、棋士が選んだベストバウトにもなった。
第1試合では1勝2敗と負けが先行し、なんとか自分の力でチームを上昇気流に乗せたいと臨んだのは第4局。永瀬拓矢王座(28)とのリーダー対決だった。かつては長くVS(1対1の練習対局)で研究を重ねた間柄。手の内を知り尽くした同士の一局は、佐藤九段が後手番から三間飛車に穴熊を採用。永瀬王座も居飛車穴熊とし相穴熊に。お互いしっかりガートを固めてからの勝負になった。積極的に攻めに出た佐藤九段に対し、優勢になってからもがっちり守り崩さない永瀬王座。197手に及ぶ熱戦は、佐藤九段の攻めが届かず投了となった。
続く出番は第6局。前回大会で3局も指した増田六段との戦いになった。後手番から相掛かりの出だしになると、またも先にリードを奪われ苦しい展開が続いた。ただ、リーダー、そして名人3期の実力者としてもこのままあっさりは終われない。勝負手を次々繰り出し「必敗になってからも、そこから若干怪しさが出てきた」と振り返るほど混戦に持ち込む驚異の粘り。しかし惜しくも軍配は増田六段に。187手で投了を告げた。
個人2連敗、そしてチームの予選敗退について佐藤九段は「このルールの厳しさを感じましたし、個人成績でもふるわなかった」と悔やんだが、激闘に続く激闘にファンはその心を奪われた。「これは最高に面白い」「やっぱ名局製造機」「天彦先生すごい」と終盤の叩き合い、ねじり合いを存分に堪能できたと感謝のコメントが溢れた。普段は涼しげに、戦う時は情熱的に。このギャップはきっと来年大会でも目の当たりにできる。
◆第4回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名漏れした棋士がトーナメントを実施、上位3人が15チーム目を結成した。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)