全てのメディアが“上質なこたつ記事”を目指すべき時代に? ロンブー田村淳、しらべぇ編集長、中川淳一郎、佐々木俊尚と考える
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 テレビ番組やネット上の情報だけを集めて執筆していることから、“こたつに入りながらでも手軽に書ける”と揶揄されがちな“こたつ記事”。個人やネットメディアだけでなく、近年では大手新聞社も配信。ポータルサイトやニュースアプリを通じて拡散しているが、「発言が切り取られた」などとしてトラブルになることも少なくない。

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 22日の『ABEMA Prime』では、この“こたつ記事”からメディア業界が抱える問題を考えた。

■「道半ばだった」田村淳に編集長がお詫び

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 お笑いコンビ・ロンドンブーツ1号2号の田村淳も、かねてから“こたつ記事”による発言の切り取りに苦言を呈してきた一人だ。今月3日、ネットメディア「ニュースサイトしらべぇ」が、前日に放送された『あちこちオードリー』(テレビ東京)に出演した際の発言を引用、『田村淳、「政治家をやりたい」と明言し視聴者興奮 「初めて聞けた」』と銘打って記事を配信。

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 これに対し田村が自身のTwitterで踊らされないよう呼びかけると、「しらべぇ」側はリプライの形で謝罪、記事を削除した。さらに田村は「声を上げ続けないと、こういう文化というのはなくならない」「原因を突き詰めないと、対策を練ることもできない」として、編集長のタカハシマコト氏に面会を申し込んだのだった。

 「記事にしてもらってありがたい部分もあるんだけど、(自分の意図とは)違う記事が流通してしまった時に声を上げなかったら、やりたいようにやられてしまう世の中になってしまう。今回は謝罪もいただいたけど、なんでこういうふうになっちゃうのかな、というお話ができたらいいなと思った。今回の記事については、ああいう見出しで出すのなら、どうしてそういう発言に至ったのか、読者に対してもっと補足が必要だったと思う」。

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 1日に約50本の記事を配信する「しらべぇ」。そのうち10本強が取材をしない、いわゆる「こたつ記事」で、12人ほどの外部ライターが執筆しているという。問題となった記事の編集を担当したというタカハシ氏は「見出しについては、“いつかは”は除くべきではなかったし、“明言”というキーワードは入れるべきではなかった」と、原稿チェックが甘かったとの認識を示し、「記事を読み終わった後、例えば“この番組をTVerで見てみたいな”と思ってもらえるかな、という、“上質なこたつ記事”を目指すことを徹底したいと思っていたが、今回はそれができなかった。道半ばだと思う」と陳謝。

 その上でタカハシ氏は「本当に残念なことだが、準備をし、話を聞き、テープ起こしをして…と、大変な思いをして1日がかりで作るインタビュー記事では、PV(閲覧数)がなかなか取れない。反対に、一番読まれる、つまり読者が読みたがっているのが、実はSNSやテレビ番組を元にした“こたつ記事”という実態がある」と説明。すると田村は「皆が求めるからと言って、そっち側に流れてしまうのは、視聴率が取れるからとテレビ局が不倫報道ばかりやってしまうことと一緒だよね?。そういうテレビに加担しているという意味では、自戒の念を込めて言うけれど、本当にきちんとした取材をしているものもあるのに、全てが信用ならないよな、と見られてしまうのはもったいないなと思う」と話した。

■「プライドや誇りがある。テレビ業界を盛り上げる役割も担っている」

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 一方、これまで10年にわたり約3000本もの“こたつ記事”を執筆・編集してきたという芸能ニュースサイトの編集長を務める清水氏(仮名)は「プライドや誇りがある。テレビ離れが起きていると言われる中で、ネットニュースを見る人はメチャメチャ増えているんだから、“こたつ記事”を通して番組の概要を理解してもらう、エンタメ業界、テレビ業界を盛り上げる役割を担っているとも思う」と訴える。

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「それがここ数年、切り取りが極端な記事や、信頼性に欠ける記事が増えていると感じている。私の場合、同じ言葉であっても温度感、印象、受け取られ方がすごく変わってしまうので、テレビ番組から情報を抜き取る、あるいは切り取って書く際には、その時の雰囲気というか“場のノリ”も含めてしっかり文章で届けられるよう、強く意識している。現在はとても丁寧に、気遣いをして記事を書いてくれる30~50代の専業主婦の方10人と一緒にサイトを運営しているが、トラブルや問題が起きる以前にヒューマンエラーを防ぐため、マニュアルを作り、全員で記事をチェックし、デリケートに取り扱うようにしている」。

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 会社員として働きながら副業としてキャンプ用品や健康食品に関する記事を執筆している寒川陽介氏は「私の場合も、9割くらいは取材をせずに書いているので、それらは“こたつ記事”と言われるものになる。しかし“こたつ記事”という言葉自体、今回のことで初めて聞いた」と話す。

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 「本業もあるので休みはないが、書くこと自体はゲームしながらお金をいただいているような感覚がある。それでも、正しく伝わるかどうかを一番に考えているし、経験を踏まえて、“こういう人にお奨めだろうな”“こういう風に使うんだろうな”などと想像し、表現の温度感にも気をつけながら記事を作っている。もちろんウソの情報があると全ての記事の信頼性が失われてしまうので、たとえ公式の情報であったとしても“本当かな?”と疑問に思った点は排除しながら、クライアントさん、お客さんに届けようとしているのが、私の“こたつ記事”だ」。

■『Yahoo!ニュース』『LINE NEWS』が“悪質こたつ”を排除すれば解決?

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 ライター・ネットニュース編集者として草創期からウェブメディアに携わってきた中川淳一郎氏は「私は2006年ごろから“こたつ記事”を始めた“元祖”だ。新聞や通信社が牛耳る中、J-CASTニュースや私のやっていたサイトなど、新興のネットメディアがどんどん立ち上がっていた時期だった。ただ、取材費も無ければギャラも払えないということで、“芸能人のブログを元に記事を書けばいいじゃないか”という手法が出てきた。J-CASTニュースの“テレビウォッチ”というコーナーも、“テレビ番組を見て書けばいいじゃないか”ということで出てきた手法だと思う」と説明する。

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 『しらべぇ』のタカハシ君は大学でも博報堂でも同期だが、彼の言う、“渾身の記事”は読まれないのに、テレビ、ラジオ、ブログを元にした記事のPVは凄まじく、儲かってしまうという悩みは皆が抱えているものだ。私もきちんと取材する記事も作らなければいけないと思い直して、2010年に小学館と一緒に『NEWSポストセブン』を作ったが、やっぱりこの“過当競争”に身を置くのが嫌になって、ニュースサイトの編集者を去年、辞めてしまった。

 見てもらえばわかるが、“松本人志がワイドナショーで…”“張本勲が喝!”みたいな“こたつ記事”がアクセスランキングの上位に来ている。配信元もポータルサイトも、PVが稼げてウハウハだ。健康情報なら“根拠あるんですか?”“医師のコメント取ってますか?”と言われても、芸能系の“こたつ記事”はドル箱だし、全く何も言われない。だからはっきり言えば、『Yahoo!ニュース』や『LINE NEWS』がテレビ番組を見て作っただけの記事を全て排除すれば、この問題は終わると思う」。

■「自分で調べればいいじゃないか、アレクサじゃねえんだよと思った」

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 記者会見を開くこともある倉持麟太郎弁護士は「永田町界隈にいると、政治家の会見を録音しながら、ずっとキーボードを打っている記者たちがいる。きっとデスクに言われ、カギ括弧の中身を埋めるために来ているのだろうが、他に何かを調べたり、何か伝えようとしたり、やることはないのかと見ていて思う。私が担当するグローバルダイニング社の訴訟の会見では、“東京都に何店舗あるんですか”と聞いてきた記者がいた。会見時間の30分は貴重な公共財なんだから、自分で調べればいいじゃないか。アレクサじゃねえんだよと思った。

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 私たちを時間や場所の制約から解放し、会えない人、知らない事について媒介してくれるのが報道の存在意義だと思うし、そのためには調査や取材が必要だ。しかし、もはや大手メディアも含め、“総こたつ化”しているのではないかと感じている。加えて、ロイターの国際比較を見ると、日本は政治・経済の話題よりも、芸能・スポーツの話題を見る比率も高い。そこにマーケット、お金の問題が出てくるのだと思う」と指摘。

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 元毎日新聞記者でジャーナリストの佐々木俊尚氏も「マスメディアの人は“こたつ記事”と言って笑い話にするかもしれないが、そうではないと思う。書き起こしを“こたつ”と言ってバカにしていればいいというのは、浅はかでダメなメディア論だと思うし、侮蔑的に語るべき話ではない」と警鐘を鳴らす。

 「取材しないことをバカにする人もいるが、ラジオで喋った内容を報じたり、記者会見に行ってひたすらカタカタとキーボードをタイプしたりしているだけの新聞社・テレビ局の記者も山ほどいるのではないか。 例えば『ログミー』という、記者会見や講演の内容をそのまま文字起こしして配信しているサービスもあるし、事件記者として地べたを這うような取材をしていた人間からすると、ただ会見に行ってるだけのヤツが、偉そうに“こたつ記事”をバカにできるのかと思う」。

■「“上質なこたつ記事”かどうかが問われる時代になる」

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 さらに佐々木氏は、今後“こたつ記事”問題はメディア業界全体の課題になってくるとの見方を示した。

 「僕はジャーナリズムの現場で30年以上やってきたが、ネットメディアの時代になってからの原稿料の低下は目を覆わんばかりだ。フリーになった後のリーマンショックの頃までは、『週刊現代』や『週刊ポスト』、あるいは僕がいた『サンデー毎日』などに原稿を書くと1ページあたり4~5万円、4ページの原稿を書けば20万ぐらいになった。その上、取材費は別だった。論壇誌の最高峰と言われる『文藝春秋』にルポの連載をしたこともあるが、1回30万円で、取材費も使い放題だった。

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 それがウェブメディアに書く場合、僕でも1本1~2万円だ。その結果、フリーのジャーナリストになろうと思う人が減り、新人が全く育ってこない。だから週刊誌ジャーナリズムも『週刊文春』『週刊新潮』のような一部の雑誌にしか残らず、崩壊寸前だ。こういう状況はテレビ局や新聞社で正社員をやっている人には分からないと思うが、新聞社だって収益が減り、取材費や給料が減らされた結果、“我々もこたつ記事を書くしかないか”みたいなことを記者が言っているのが実態だ。

 実際、“超エリート”の新聞社だった『朝日新聞』にも、最近は東大生の志望者がいなくなっていると言われている。今回は『しらべぇ』の芸能モノの記事だが、将来的にはメディア全体を揺るがすテーマになると思う。結局、最大の問題はPVだ。読まれれば読まれるだけお金が儲かる一方、そのPVの中身に目が向いていないという構造がある。

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 やはり取材に行こうが行くまいが、いい記事が評価され、お金になるというメディア業界にしないと人材も育たない。大切なのは、書くにあたって哲学や世界があるのか、理念が込められているかということだと思うし、喋った内容を切り取ったり捻じ曲げたりして自社の都合のいい発言にしてしまうことの方が問題だ。その意味では、“上質なこたつ記事”かどうかが問われる時代になるだろう」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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