森友学園をめぐる財務省による文書改ざん問題で、職員が改ざんの過程を記録した文書「赤木ファイル」が国会でも開示された。
2017年に公文書改ざんに関与させられ、翌年に自殺した近畿財務局職員の赤木俊夫さん(当時54歳)が残したとされる「赤木ファイル」。24日、国会内で非公開による質疑が行われた。野党側は、改ざんについて「当時の安倍総理や菅官房長官に相談したのではないか」と指摘したが、財務省側は「定かではない」と述べ、明確には答えなかった。
518ページにわたる「赤木ファイル」には何が記されていたのか。テレビ朝日経済部・財務省担当の梶川幸司記者が伝える。
■“虚偽”答弁から組織をあげての記録“改ざん”へ…
「赤木ファイル」とされる一連の文書は、改ざんを担うことになってしまった近畿財務局の職員・赤木俊夫さんが当時書き残した「備忘記録」、東京・霞が関にある本省の理財局と近畿財務局との間で交わされたメール37通、そして改ざんする前と後の文書などが収められています。
一連の問題は今から5年前、財務省の出先機関である近畿財務局が森友学園に対し、大阪府豊中市にある国有地を鑑定価格から8億円も値引きして売り払ったことに始まります。この翌年、売却額が非公開だったことを不審に思った地元の市会議員が裁判に訴えたことで、8億円の値引きが表面化。さらに、この土地に開校する予定だった小学校の名誉校長に一時、安倍前総理の妻・昭恵夫人がついていたことがわかって、瞬く間に国会最大の焦点となりました。
当然、野党は「土地の取引に総理周辺が関与してのではないか」と追及しましたが、2017年2月の予算委員会で、当時の安倍総理から「私や妻が関係していたということになれば総理も国会議員も辞める」という答弁が飛び出しました。
国有財産を管理している財務省の理財局で当時、理財局長を務めていたのが佐川宣寿氏。佐川氏は国会で、森友学園との交渉にまつわる記録は「廃棄している」「残っていない」と言い切りましたが、実際には記録は残っていました。いわば“虚偽”の答弁だったわけですが、さらに組織をあげて記録そのものを改ざんするよう主導していくことになります。
■“改ざんのスタート”を裏付ける2017年2月26日のメール
「赤木ファイル」は500ページにも及ぶものなんですが、その中でも特筆すべきはメールなんです。これは今回初めて明らかになったものです。
これは2017年2月26日のメールで、安倍前総理が「私や妻が関係していたら総理も国会議員も辞める」と答弁して9日後のものになります。差出人は本省の理財局国有財産審理室の係長、管理職ではないので名前はマスキングされ黒塗りとなっています。宛先は、赤木さんら当時の近畿財務局の担当者です。
本省からのメールでは、「現時点で削除した方がよいと思われる箇所があります」とした上で、「当該箇所をマーキングしておきましたので、認識を共有させていただくためにも調書等を修正・差し替えするとともに、修正後の文書を本省にメール送付いただけますでしょうか」と念を押し、さらに「できる限り早急に対応願います」と記されています。
本省の指示を受ける形で、森友学園の契約にまつわる文書の一部を削除していきます。例えば2014年6月、籠池被告が昭恵夫人を現場に連れていき、「いい土地ですから、前に進めてください」と話したことや、籠池夫妻と夫人との写真を見せられた、といった記述がごっそり消されることになりました。
赤木さんは翌日、メールで「ご指示に従い、内容を確認して、大幅にカットさせていただきました」と返信しました。2017年2月26日が“改ざんのスタート”だったことが、「赤木ファイル」によって裏付けられた格好です。
■「本省の職員に強く抗議した」にじみ出る赤木さんの怒り、本省との温度差
この後、メールで何度もやりとりが続くわけですが、赤木さんは本省の指示を受けながらも返信で「疑問が残る」と反発していました。一方、本省の職員からは「局長から国会答弁を踏まえた上で作成するよう指示があった」と、佐川の局長命令だということをメールで示しながら念を押して、改ざんの範囲がどんどん広がっていくことになります。
赤木さんは改ざん後、自ら作成した「備忘記録」というメモを残しているんです。この中には、「すでに決裁済みの調書を修正することは問題があり、行うべきではないと本省の職員に強く抗議した」、また「佐川局長からの指示の詳細が説明されず、趣旨が不明確なまま、本省からその都度メールで投げ込まれてくるのが実態」と書かれています。改ざんを強いられた怒りがにじみ出ていると言えます。
2017年2月16日、改ざんが行われる前段階のメールなんですが、野党議員からの資料要求に対して本省の職員は「議員に持っていくつもりはまったくない」「仮に物を出せと言われたら、近畿に探させていますがなかなか…と引き取る」と言っていて、文末では「ことが終わったらおごりますと伝えてください」と記しています。国会軽視であるのみならず、現場の思いも顧みない、本省と出先機関の格差や温度差が強くうかがえるメールもファイルの中に残されていました。
一度決裁した文書を都合が悪くなったから事後的に書き換える、つまり改ざんするというのは、行政機関としてあってはならないこと。公文書作成の基本として、公務員が最初に叩き込まれることなんです。公務員にとって極めてリスクの高い行為で、現場が抵抗したのも当然のことと言えます。結果として、赤木さんらは14の文書で300カ所以上の改ざんを強いられることになりました。
■「赤木ファイル」なぜ今開示? 「もっと早く開示すればよかった」と言う財務省幹部も
赤木さんの妻・雅子さんが去年3月、国と佐川氏を相手取って損害賠償訴訟を提起しました。赤木さんの当時の上司が雅子さんに、「改ざんの経緯が全部書いてある」という「赤木ファイル」の存在を明かしていたことから、原告側は精神的苦痛を立証するため、「赤木ファイル」を裁判の証拠として提出するよう求めたわけです。
財務省は当初、裁判に影響しないので回答する必要がないとして、「赤木ファイル」が存在するかどうかさえ明らかにしてきませんでした。しかし、大阪地裁が3月になって国に提出するよう促したところ、それまでの姿勢を一転し「存在する」と認め、開示することになったわけです。
結果として、不誠実な印象を与えたことは否めません。麻生財務大臣は22日の記者会見で、「裁判所の訴訟指揮に真摯に対応してきた」と述べましたが、財務省幹部のひとりは「もっと早く開示すればよかった。時間をかけると疑いが増す。いいことは何もなかった」と述べています。また、ある幹部は「マスキングも、名前も含めて全部出してもよかったんじゃないか」ということまで言っていました。ただ、この幹部も含めて、省内では財務省が2018年にまとめた「調査報告書」を大きく覆すような、新しい事実はなかったと受け止めています。
というのも、「赤木ファイル」には確かに改ざんのプロセスが赤裸々に記されていますが、佐川氏が具体的にどのような指示を出したのか。さらには、なぜ改ざんに及んだのか、その動機が書いてあるわけではないからです。
財務省の調査報告書では、当時の理財局の幹部が「国会審議が相当程度紛糾するのではないかと懸念し、それを回避する目的で改ざんを進めた」と総括しています。ただ、改ざんはとても重い行為で、バレたらただでは済まないわけなんです。現在の理財局の中堅幹部は「様々な案件で政治家が接触してくることはよくあること。それが書いてあったとして、適正に国有地の売り払いができているのなら、なぜ消す必要があったのかわからない」と述べています。国会答弁も、後で誤りがわかって訂正することは決して珍しいことではありません。
佐川氏は改ざんが明るみになった後の2018年3月27日、国会で証人喚問を受けます。安倍前総理や秘書官からの指示は「なかった」と述べましたが、改ざんの動機などについて「刑事訴追を受ける恐れがある」と、50回近くにわたって答弁を拒否しました。この日以降、佐川氏が公に姿を見せることはなく、「なぜ」の部分は語られないままとなっています。
妻・雅子さんは、赤木さんが自殺に至った真相を知りたいと強く訴えています。遺族として当然のことだと思います。ただ、森友問題をどのように受け止めるかは、人それぞれ様々な考え方があると思います。
■「佐川氏が改ざんに誠実に向き合い、自ら説明を尽くすこと。それが問題解決には不可欠」
私は去年から、13年ぶりに霞が関の現場に戻って財務省をメインに取材していますが、痛感するのは“総理官邸の力が非常に強くなった”ということなんです。財務省は省庁の中の省庁として、かつては霞が関で存在感を見せていましたが、今や予算編成でさえ、政策の意思決定の主導権は完全に総理官邸に移っています。
平成の時代に進められた官邸主導の政治改革の結果、例えば、中央省庁の高級幹部の人事を一元的に決める「内閣人事局」の創設など、総理官邸が制度の上で、仕組みの上で強くなったからなんです。この構図はこの後誰が総理になっても、誰が官房長官になっても変わりません。
それだけに、改ざんを主導した佐川氏が当時何を考えていたのか。総理官邸への過剰な忖度、自らの出世をにらんだ保身や野心があったのかどうか。この点を正確に究明することは非常に大事なことだと思います。今の官邸と霞が関をめぐる制度や仕組みに大きな問題があるとするならば、そこを考えていくひとつの材料になるんじゃないか。その意味でも、なぜ改ざんが行われたかを知ることはとても大事なことだと考えています。
財務省は調査を尽くして処分もしたし、大阪地検特捜部による捜査でも不起訴になっているとして、再調査は必要ないとの姿勢を崩していません。一方、「赤木ファイル」を証拠採用した大阪地裁で今後、佐川氏の証人尋問が行われる可能性もあります。
いずれにしても、佐川氏が改ざんという行いに誠実に向き合い、自ら説明を尽くし、一連の経緯を解明すること、私はそれが問題の最終的な解決のために不可欠なのではないかと考えます。