いつもとは真逆の展開だった。6月29、30日に行われたお~いお茶杯王位戦七番勝負の第1局。藤井聡太王位(棋聖、18)は豊島将之竜王(叡王、31)に104手で敗れた。両者とも持ち時間8時間のうち、1時間40分ほど残しての早い決着が、藤井王位の完敗だったことを物語っている。解説を務めた棋士からは「足をつかまれているようにぎこちない」「見たことがない一方的な負け」といったコメントが次々と出るほどだ。まだ七番勝負は始まったばかりではあるが、通算でも1勝7敗と大きく負け越す“天敵”に、なぜこれほど苦戦が続くのか。
第1局は、藤井王位が先手番から最近、研究を進めていると言われる相掛かりを選択。豊島竜王がこれを受けて立つ格好となった。序盤こそ互角に進んだが、1日目の終盤、お互い端の攻め合いになったところでは、徐々に豊島竜王がペースを掴みつつあったと言われている。明けて2日目、細かいポイントで少しずつ差を広げられると、逆転のきっかけすらつかめない敗戦に。ABEMAの中継で解説を務めていた大橋貴洸六段(28)も「この一局は豊島竜王の快勝と言っていい。藤井王位の力を出させずに、かなり完璧な内容でした。藤井王位が有利な局面はなかったんじゃないでしょうか」と語った。
明確な悪手があったわけでもない。大橋六段によれば「どこが悪くて負けになったのか見えにくい。明確な敗因がない」一局だったという。実はこの言葉、藤井王位に負けた相手が、よくインタビューで口にするものだ。「気がついたら悪くなっていた」「どこで形勢を損ねたかわからない」。こんな感じだ。はっきりと課題がわかれば対策も立てやすいが、細かいところでの差で引き離されたとすれば、さらに一手一手に神経質にならざるを得ない。
同じくABEMAで解説していた深浦康市九段(49)は、1勝7敗という極端な成績について、両者の棋風で説明した。「藤井さんは四段当初から、詰将棋という強みを活かして、終盤ぎりぎりでも寄せ切るスキルがある。また相手が無理攻めと見ると受け潰しのように、受けに回るレパートリーの広さもある」と高く評価した。ただし、序盤から積極的に仕掛けてくる豊島竜王に対してはどうか。「豊島さんは高い技術でどんどん来る。前のめりに主導権を握りに行って、まとめるうまさを持っている。藤井さんには、まだその耐性がないかもしれない」。藤井王位の受けのレベルは高い。ただ、豊島竜王が序盤からかけてくる超ハイレベルのプレッシャーを受け止められているか。互角で中盤、終盤に持ち込めれば、ねじり合いは臨むところだが、序盤で許したリードをすぐに返してくれるほど、豊島竜王は甘くない。それが「序盤・中盤・終盤、隙がない」と言われる所以だ。
7月13、14日に行われる第2局。今度は豊島竜王が先手番で、戦型選択を含めさらに積極的に主導権を取りに来ることが予想される。完敗を糧に、今度こそしっかり受け止めてから反撃のチャンスを掴むか、それとも先に走ることを許さず先行して攻めに出るか。叡王戦五番勝負と合わせて“十二番勝負”とも呼ばれる2人の対決。早くも大きなターニングポイントがやってきた。
(ABEMA/将棋チャンネルより)