15歳以下へのコロナワクチン接種「集団免疫の達成のためにも広げていく必要。データに基づいた情報発信で保護者のデマ・陰謀論対策を」
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 埼玉県志木市は市内の高校3年生と中学3年生に対しワクチン接種券を優先的に発送することを決めた。受験を控えた生徒に対して夏休み中に接種を終え、充実した生活を送ってもらうのが狙いだという。接種されるファイザー製ワクチンは2月の承認時には対象年齢は16歳以上だったものの、5月末には安全性等が確認されたとして12歳以上に引き下げられている。

 一方、茨木県水戸市の大規模接種会場では本来18歳以上が対象のモデルナ社製ワクチンを16歳の男子生徒に接種するミスが発生。県保健福祉部は「予約サイト上では予約が可能であったこと、また県に提出する名簿作成時に年齢確認が不十分だった」と説明、健康状態に異常はないとしている。

・【映像】子どものワクチン接種どう進めるべき?15歳以下が集団免疫のカギになる?

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 変異型ウイルスが拡大、子どもたちへの感染も増加する中、若年層へのワクチン接種について私たちはどのように考えればいいのだろうか。Twitterアカウント“手を洗う救急医Taka”としても知られる、新型コロナワクチン公共情報タスクフォース副代表理事で CoV-Navi副代表の木下喬弘医師に話を聞いた。

■「集団免疫の達成のためにも15歳以下に広げていく必要」

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 まずワクチン接種の順番や、それによる集団免疫の獲得について、木下医師は次のように説明する。

 「ワクチン接種のメリットとデメリットの開きは高齢者で非常に大きく、年齢が低くなるにつれて少し詰まって来る。だからこそ高齢者、そして成人に打っていくという戦略になる。そして子どもにも打てるくらい供給量に余裕が出てきた段階で考える、ということだと思う。日本小児科学会も言っていたことだが、それまでは大人たちがしっかり打って子どもたちを守るということをしないといけないという考え方だ。

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 実を言うと、僕も子どもは打たなくていいと最近まで思っていた。実際、イスラエルでは成人の約80%が接種を終えた結果、“2日連続で新規感染者ゼロ”になるほど感染が抑えられていた。しかしデルタという厄介な変異ウイルスが出てきたことにより、感染が再拡大している。ニュースを見ていて重い気持ちになったが、ワクチンの発症予防効果は64%という数字が出ている以上、集団免疫の達成のためにも接種を15歳以下に広げていく必要があると思う」。

 一方で、若年層は大人に比べて副反応が出やすいというデータも出ている。

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 「ファイザー、モデルナの両方について6カ月~11歳までを対象に試験をしていて、結果はまだわからないが、大人とそんなに大きく変わらないのではないかと予想している。また、ファイザー製ワクチンに関しては少なくとも12~15歳について大人と同じように有効性・安全性が確認されたということなので、この年齢層に関しては“メリットがデメリットを上回る”と言っていい。

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 アメリカでの12~15歳の承認が取れた試験は16~25歳を比較しているが、副反応の発生率は概ね3%くらいしか変わらず、基本的には大人とそんなに変わらないということが分かってきた。懸念があるとすれば、心筋炎というのが、39歳以下の男性で5万~10万接種に1回くらい起きているということだ。

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 ただ、アメリカのCDC(疾病対策センター)は非常に透明性が高く、分かったことをすぐに表に出す。ただ英語ということもあり、それらを日本のメディアがどれだけ報道できているか、という問題もある。心筋炎についても、経過のわかっている人は8割くらいが軽症で、集中治療室に入っている人はごくわずかだ。ほとんどが退院しているし、何か深刻な副反応が子どもたちの間で起きているということではないとご理解いただいて大丈夫と思う」。

■“データに基づいた個人のエピソード”を語るということ

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 文部科学省は12歳以上の生徒について「現時点では学校での集団接種は推奨しない」との姿勢を示しており、先月22日の会見で萩生田文科相は「受ける人と受けない人の差別化に繋がり、いじめに繋がることが心配される」と指摘している。ただ、ワクチン接種には今も強い忌避感を抱いたり、デマや陰謀論を信じたりしている大人も少なくない中、子どもへの対応が保護者の判断や家庭環境に左右されてしまうという課題も残る。

 木下医師は「日本は“ワクチンは有効である、あるいは安全である”と考えている人の割合が、調査した世界149カ国の中でも最も低いレベルだったという研究もある(Lancet. 2020;396:898-908)。子どもの自己決定権はいつから与えられるのかということも含め、ワクチン全般において非常に重要な問題だ。

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 幼少期のうちは接種しないという考え方の大人に育てられた結果、麻疹などに罹って重症化してしまうケースもある。一方で、子宮頸がんを予防するHPVワクチンの場合、思春期の女の子たちに様々な症状が出たことで安全性に疑問を持つ人が増え、結果として接種されなくなってしまったという経緯がある。

 リスクの見積もりは個人によって差があるし、接種するかしないかも個人の選択だが、それが正しい情報に基づいているのであれば尊重すべき。ただし不妊になるとか、遺伝子組み換えが起きるといった不正確な情報が出回っていることも確かだ。僕たちは“MICE(money、ideology、compromise、ego)モデル”と呼んでいるが、自然食品を売って数十億円以上の売り上げを上げている人、政府のやっていることにとにかく反対する人、他と違うことを言って注目されて目立ちたい人などが、誤情報を流していると考えている」。

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 その上で木下医師は、公的機関の情報発信の必要性を強調する。

 「今回のワクチン接種について文部科学省は接種する人としない人が可視化されるような仕組みの中ではやめましょうという考えだが、やはり決定権を持つ大人に対して正確な情報を届けていくということが極めて重要だ。その点では、米CDCと日本の厚生労働省の言いぶりには大きな違いがある。CDCが“ワクチンは有効で安全だ”と明言している一方、厚生労働省は頑張って情報提供はしているものの、“自分で判断して決めてください”というような形のものが多い。

 確かに接種から10年、20年経った後に起きることを見た人はいないので長期的な副反応についてはまだ分からないが、メカニズム的には非常に考えにくい。というのも、歴史的にワクチンの副反応はほぼ全て6~8週間以内に起こっているし、今回もその期間は十分に観察をしている。また、mRNAワクチンが人の遺伝子を組み替えるということはありえないというのは生物学の一定の知識があればわかることだ。一言でいうと、“データに基づかない個人のエピソード”を出すのではなく、“データに基づいた個人のエピソード”を語るということだと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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