都内のある建物の一室で、ベトナム人に向けた日本語の授業が行われている。
先生「日本語はどうですか」
生徒「日本語は難しいです」
先生「何が一番難しいですか?」
生徒「漢字が一番難しいです」
「日越ともいき支援会」では、新型コロナの影響などで職を失い、住む場所がなくなってしまったベトナム人を保護、支援している。現在は25人ほどのベトナム人が、この場所で共同生活を送っている。
50年ほど前からこの取り組みを行い、行き場をなくしたベトナム人たちの最後の砦のような存在となっている「日越ともいき支援会」。代表を務める吉水さんは「新型コロナの影響で施設を訪ねてくるベトナム人が増えてきている」と話す。
「今までは職を失ったり、家を失ったりする子はいなかった。新型コロナの感染拡大が広がってからは、職を失って、家を失う子たちが続出した。その子たちが『家がない、助けてください』と私の携帯電話に連絡があって、保護しています」(吉水さん)
日々、吉水さんのもとに寄せられる悲痛な声。さらに、こうした状況に追い打ちをかけるかのように、行き場を失った彼らを支援するはずの監理団体の業務が、新型コロナで滞っているという。
「新型コロナで予期せぬ出来事がたくさん起こっている。監理団体さん自体も、すごく今大変な状況だと思う。でも、監理団体さんの手伝いがないと、在留資格の変更ができにくいことが多い。なかなか本人たちだけでは、特定活動や中長期滞在ビザへの変更はできないので、そこで困っている子たちはたくさんいます」(吉水さん)
通常、技能実習生として日本にやってくる外国人は、母国の送り出し機関と日本の監理団体による支援を受け、日本の企業で働けるようになる。実習生たちは監理団体から住む場所や通訳の手配、さらには在留資格変更の手続きなどの支援を受けるが、新型コロナの影響により、監理団体からの支援を満足に受けられない技能実習生も多い。
逆境の中、働き口を失ってもなお「日本で働き続けたい」。ベトナム出身のドアンさん(28歳)は、そんな思いを持って日本語を学んでいる。
「私は日本で仕事したいです。日本で長く仕事をしたいです」(ドアンさん)
ドアンさんは、およそ3年前に来日。自動車製造関連の会社で技能実習生として働いていた。しかし、新型コロナの影響を受けた会社は、事業規模縮小を余儀なくされ、ドアンさんは先月解雇されてしまった。住んでいた会社の寮に住めなくなり、働く先も住む場所も失ったドアンさんは、日越ともいき支援会にやってきた。
「日本語はちょっと難しい。文字の意味を訳するのがとても難しいです。似たような形をしているものが多くて……」(ドアンさん)
まだまだ慣れない日本語。それでも母国で暮らす家族のために「日本で働いてお金を稼ぎたい」「お金に余裕ができたら、両親の老後のために仕送りしたい」と話す。
一方で、彼らには厳しい現実もある。彼らは実習生として来日する際、送り出し機関に多額の手数料を払っている。まずはその借金を返さないといけないため、職を失ってもベトナムに帰れないという。
「保護したときは、家と職を失ってものすごいつらそうな顔をしてくるんだけど、ここに来るとみんなが前向きに勉強したり、再就職のために面接をしたり、前向きに心も変わっていくんです。入国する前にベトナムで多額の借金が残っていて、第一にそれを返さなければならないの。(返し終わったあとは)家族に楽をさせてあげたいって彼らは言います」(吉水さん)
現在、国は働く先がなくなってしまった外国人に対し、在留資格の変更や別の職種への就業を認めるなど、一定の策を講じているが、吉水さんは「まだまだ措置が行き届いてない」とした上で「外国人が頼ることができる機関を作ってほしい」と話す。
「やはり我々のような民間がやるのではなく、国できちっとサポートする場所が早くできるといいなと思っています。困っているベトナム人の子たちが連絡を取れる場所が国としてあって、それで連絡を取ってきた子に関しては住むところを提供する。それをいち早くしてあげて、その子がお金を失っているのか、生活に困っているのか帰国したいのか、再就職を希望してるのか。やはり一人ひとり背景が違うので、聞き取りをした上で、希望通りの支援をする機関を作ってほしいとすごく思います」(吉水さん)
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