「薬の副作用で髪が抜けてきてちょっと恐怖なんで、動画でも撮っとこうかなと思って」。カメラに向かって、赤い毛髪を見せる池川バズーカさん(32)。去年9月、会社の健康診断で肺に“影”が見つかり、再検査の結果、左肺上部に約2cmの腫瘍を発見。さらにリンパ節に転移していることも判明した。「特に自覚症状もなかったので、“がんかもしれない”と言われた時も、“マジで?本当に言ってんの”という感じだった」。
・【映像】がん患者がYouTubeで発信する理由は?社会や個人の中に残る"偏見と誤解"
YouTubeでがんについて調べていくうちに、自分と同じAYA世代(15~39歳)の患者が全体に占める割合が少ないことを知り、“めっちゃレアキャラじゃん”と感じた池川さんは、自分の闘病生活を発信することにした。
ポップなBGMと、「めっちゃ髪が抜けからってビビって刈ったんだけど。刈んなくてよかったんじゃね説がちょっとある」という明るい語り口。見た人たちからは「くすっと笑えるし、元気をもらえる動画」「応援してる!一緒に戦っていきましょう」といった声が届くようになった。去年12月に手術を、そして4度の抗がん剤治療を行った結果、先日の検査でも再発・転移は見られず、仕事に完全復帰して通常の生活を送っている。
そんな池川さんががんになって直面したのが、社会の理解度の低さだった。今や国民の2人に1人が罹る、“国民病”といっても過言ではない病であるにも関わらず、自分自身、知識が無かったことを実感したと明かした。
■「一緒に考えられる人、場所が欲しかった」
「がん=死というイメージが強くあると思う。実際、2人に1人が生涯のうちで一度はがんに罹り、そのうち3人に1人が亡くなっている。しかし、裏を返れば3人に2人は生きているということだし、仕事に復帰した人もたくさんいる。それなのに、“あの人はもうダメだ”というレッテル貼りがあると感じている」。
長谷川一男さん(50)は11年前、激しい咳が収まらないことから受診、そこで医師から肺がんの“ステージ4”で、余命10カ月ぐらいだとの宣告を受けた。フリーランスで、妻子を抱えていたことから経済的に厳しくなることが予想されたが、 周囲からの支援や、がん保険に加入していたこともあり、治療に専念することにした。
結果、宣告されていた余命を超える月日が経った。5年後には患者や家族がつながる場所を作りたいとの思いから、肺がん患者の会「ワンステップ」を立ち上げた。
「私の場合、死亡数が1位の肺がんに罹ったということもあり、医師からは“1日1日を大切にしてください。長谷川さん、これはそういう病気だ”と言われた。単純に辛い。なぜ俺が、一体これからどうやって生きればいいんだろう、という思いにかられた。そういったことを一緒に考えられる人、場所が自分自身も必要だと思っていたから。」
現在では、治療法などについての動画を作成、YouTubeでも発信している。「一度目の緊急事態宣言が発出された時、皆さんにも得体のしれない何かがやってきた、不安をコントロールできない、という感覚があったと思う。それに加えて、“あなたの命はだいたい1年経つと半分くらいの方が亡くなっている”と言われる。その上、自分自身がそうだったが、生き死にを左右する治療法について、“A、B、Cどれですか?”と言われても分からない。そういうときにどう考えればいいか、そんなような動画を作っている」。
■青木さやか「私にも知識不足、偏見があった」
がんサバイバーの一人でもあるタレントの青木さやかも、「がんと言っても様々な種類があるし、ステージも違う。私の場合、本当に初期で見つかっているので、池川さんや長谷川さんとは意識も違ったと思う。でも、知識が全くなかったということもあり、自分ががんに罹っていると聞いた時の衝は、やっぱりすごく大きいものがあった」と振り返る。
「そして、心配されるから親には言いたくないと思ったし、他の人にもほとんど伝えなかった。でも、それは自分自身に偏見があったからかもしれない。どう思われるんだろうとか、“がんの家系だから”といった不安があったが、実際にはみなさん優しくして下さった。がんに罹って思ったことは、病気そのものよりも、再発するかもしれないという不安の大きさだ。実際に再発したこともあって、またそうなるかもしれないという不安がある。今はいかに不安な時間を少なくするかということで、忙しくしているという部分がある」。
■生活習慣、遺伝…数々の偏見や誤解、受診控えに注意
日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之医師も、「かなりの数の方ががんに罹るわりには、職場でなかなか言えない。“あの人はダメだ、だから仕事は回さない”と、レッテルを貼ったり、偏見に基づいた扱いを受けてしまうこともある。しかし、実際には本当に仕事ができなくなる人というのは少ない。
また、生活習慣が原因でがんになるというケースは3割以下で、大部分は突然変異が原因だ。それでも“あの人は生活習慣が良くないルーズな人だ。健診を受けなかった怠惰な人だ”と見られてしまうこともある。さらに言えば、青木さんの言われた“がん家系”という話だが、実は遺伝するがんというのは実は非常に少ない。ある特定の遺伝子を持った親から子にがん引き継がれるというもので、全体の5%程度だといわれている。だから家族にがんがいるから遺伝したのではないかと直ちに考えてしまうのは間違っている」。
そうした現状も踏まえ、勝俣医師は「これまでは患者さんご自身が積極的に発信するということは少なかった。しかし池川さんや長谷川さんのように、リアルな話を発信するというのは、我々医療者が言うよりも非常に大切なことだと思う。ただし、“私の経験はこうだった”ということが、他の患者さんにも当てはまるかどうかは分からない。その点は注意する必要がある」と話した。
昨今ではコロナの影響でがん検診控えが進んで、受診者が前年比で3割も減っているというデータもある。勝俣医師は「検診控えと共に重要なのが、しこりや出血など、がんの症状の疑いがあるにも関わらず受診せずに放置した結果、進行がんになってしまったという事例も報告がある」と警鐘を鳴らした。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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