これがトップレベルの戦いだ。プロ将棋界唯一の団体戦「第4回ABEMAトーナメント」予選Eリーグ第2試合、チーム渡辺とチーム斎藤の対戦が7月11日に放送され、斎藤慎太郎八段(28)が渡辺明名人(棋王、王将、37)に141手で勝利した。チームとしてはスコア2-5で敗れたが、リーダー対決では意地の勝利。最後は長手数の詰み筋を、数秒しかない持ち時間の中で発見する、卓越した終盤力で激戦を制した。
斎藤八段と渡辺名人といえば、先ごろまで行われていた名人戦七番勝負と同じカード。シリーズは初の名人獲得を目指した斎藤八段が、“現役最強”とも呼ばれる渡辺名人に1勝4敗で返り討ちにあう格好となった。正統派で粘り強い斎藤八段に、作戦家で高いレベルでバランスが整った渡辺名人。対局前からも視聴者のコメントが盛り上がったように、好勝負が期待された。
ファンの思いに盤上で応えられるのが一流の証しだ。斎藤八段の先手番で始まった一局は、両者雁木に構えてからのじっくりとした将棋に。この試合の第1局で早指しを意識し、積極的に前に出すぎたところを近藤誠也七段(24)に咎められた斎藤八段は「序盤からゆっくりやることにしました」と、時間の消費も気にせず自然体で指し進めた。ただ相手もタイトル通算29期を誇る超一流。中盤まで難しい攻防が、形勢互角のまま進行していった。
終盤に入り、半歩抜け出したのが斎藤八段。持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールでは、残り1秒で指せば5秒足して残り6秒に増える“6秒将棋”状態になる。渡辺名人の粘りにより、6秒将棋の連続を余儀なくされた斎藤八段だが、ここで光ったのが詰将棋で鍛えた終盤力だ。「ずっと6秒将棋はきついんですけど、その方が自分の戦いができると判断した」というとおり、最後は自分の力を信じて選択を繰り返すと、長手数の詰み筋を発見。解説していた青嶋未来六段(26)も「ハイレベルな将棋。斎藤八段も最後の詰みが長手数でも、しっかりと詰まし切った。見事です」と絶賛するように、大熱戦で勝利をつかんだ。
タイトル戦級のハイレベルな攻防に、視聴者からも「名勝負だった」「すごいものを見た」「さすがの詰将棋力」と絶賛コメントの嵐。敗れた渡辺名人も、チームメイトの元に帰ると「負けてもね、こういう将棋を指さないといけないんですよ。ははは」と笑ってみせた。常々、トップ棋士になるほど「ファンの方に楽しんでいただける将棋を」というコメントを残すことが増えるが、現在の将棋界をリードする2人が、まさに名局と呼べるものを作り上げた。
◆第4回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名漏れした棋士がトーナメントを実施、上位3人が15チーム目を結成した。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選、本戦トーナメント通じて、5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)