来日中のIOC=国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長が広島を、ジョン・コーツ副会長が長崎を訪問することが発表された。大会組織委員会の橋本聖子会長、遠藤利明副会長がそれぞれ同行、橋本会長は「オリンピック・パラリンピックの根本原則はやはり平和であるので、国内外に平和を訴えていただければありがたいなと私は思っている」とコメントしている。
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すでに2回のワクチン接種、さらに来日後3日間の隔離を終えているバッハ会長だが、広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長は「コロナで多くの人が亡くなる中 開催前提の訪問は歓迎できない コロナも五輪も関係ない時 改めて訪問を」、「東京五輪の中止を求める広島連絡会」からも「五輪正当化のため訪れるように映る 被爆者への冒涜だ 核兵器廃絶に取り組んできたわけでもない人に訪れてほしくない」と反対の声も上がっている。
緊急事態宣言が発出されている東京都では、都民に対し不要不急の外出や旅行・帰省の自粛が求められている。また、ワクチンの2回接種を終えていればいい、ということが明確に示されているわけでもない。そんな中、平和のためであれば、バッハ会長を例外として扱っていいのだろうか、と疑問視する意見も少なくない。
『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側』の著書もあるフリーランス記者で元毎日新聞記者の後藤逸郎氏は「7月16日というのは、IOCが世界に休戦を呼びかける“オリンピック休戦”の初日でもある。そこに合わせ、世界で最初に原子爆弾の被害を受けた場所に行った、ということを掲げたいのだろう」と話す。
「IOCは昔からノーベル平和賞を狙っていたし、元会長のサマランチ氏(1980年~2001年まで会長を務める)も広告代理店を雇って賞取り運動をしたのではないか報じられたこともある。バッハさんも韓国と北朝鮮の共同チームを作ったし、オリンピックが平和の祭典であることを最大限に生かそうとして行動しているのは否定できないと思う。
バッハさんもコーツさんも新幹線や飛行機を借り切って移動するので、彼らの訪問によって感染が広がる可能性は低いだろう。しかし日本人は、緊急事態宣言下であってもオリンピックだったら何をやってもいいという、矛盾したメッセージを受け取っている。政府も“オリンピックは別腹”と言っているように感じるし、行くなら次の機会に行けばいいんじゃないか」。
一方、オンラインサロン『田端大学』を主宰する田端信太郎氏は「海外の人からしたら、東京~広島間の距離感なんてわからないだろうし、来日したついでに行こうと思うこともあるだろうし、究極的には民間人である以上、止めることはできないはずだ。資料館を見たいと言っている人に対して、“またの機会に”というならわかる。しかし、“来るな”というのはおかしいのではないか。
そして、そもそもオリンピックというのは国威発揚に使われてきたもの。例えば1936年のベルリン大会はナチス・ドイツの一大プロパガンダに使われた。“平和の祭典だから”と言って批判している人たちやメディアは、“そういうことについてドイツ出身者としてどう思っているんですか”という質問を見つけてみたらいいと思う。そこが視野が狭いと思うし、バッハ会長が間違っているという議論よりも、緊急事態宣言を出したことが間違っているという議論をすべきではないか」。
また、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「バッハ会長のことを応援しているわけではないが、別に広島でステージに立ったりするわけでもないし、そんなに大騒ぎする話なのだろうか。平和のために表敬訪問だし、子どもの修学旅行と同じレベルの扱いを求めるのが公平だというのは過剰ではないか。五輪のことについてはとにかく反対したいという、すさまじいばかりの熱情も感じる」と苦言を呈する。
「もちろんワクチンを2回接種しているからといって、100%感染しない、100%重症化しない、というわけではない。しかし感染防止、感染拡大抑止の効果があることは確かだし、2回接種したら行動制限を外しましょうというのは世界的な流れだ。日本でもワクチンパスポートの議論もされているし、いずれはそうなる。それなのに。“ワクチンを2回打ったからといって行くとはなんだ”と感情だけで批判し、行動制限を求めてしまうと、また空気による抑圧が生まれてしまうと思う。
加えて、対外的にどう見えるかも冷静に考えた方がいい。IOCの会長が広島の平和祈念公園に行くことを日本人は総じて反対しているという事態を、世界の人たちは見るだろうか。オリンピックがプロパガンダで、商業主義なのは間違いないが、それでも“平和のための祭典”という建前は大事にしていかないと切ないし、一生懸命やっているアスリートたちに申し訳ない。観光地としても平和都市としても広島・長崎をアピールするチャンスにもなるんだから、それを最大限に活かせばいいのではないか」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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