
K-1・Krush戦線の魅力の一つは、次々に新鋭が台頭し、激しい新陳代謝が起きることだ。トップ選手の座は絶対ではなく、いつ若い選手に地位を奪われるか分からない。
そんな厳しい戦場で生き残ってきたのが朝久泰央だ。18勝7敗という戦績は決して突出したものではないが、着実に結果を残してきた。兄の裕貴も同じ舞台で活躍、兄弟ともに父の道場で「朝久空手」の鍛錬を積む。この2年間は無敗、昨年3月には当時チャンピオンだった林健太にも勝っている。7.17福岡大会でのライト級王座挑戦は、ファン待望と言ってよかった。
朝久が挑んだのは、林を下してベルトを巻いたゴンナパー・ウィラサクレック。パワフルな攻撃を持ち味とするムエタイ戦士だ。独特のテクニックもあるだけに、ムエタイは日本人選手にとって“鬼門”というイメージもある。
だが朝久にとっては相性がよかったかもしれない。空手ベースの朝久は、多彩な蹴りを使いこなす選手。K-1ではパンチによるKOを狙う選手が多いが、足技も朝久の魅力になっている。ゴンナパー戦でも、上段への前蹴りやボディへのヒザといった攻撃が効果を発揮した。ファイトスタイルに幅があるからこそ、チャンピオンに対抗できたと言えるだろう。
その上で、パンチをまとめる場面もあった朝久。「殺すつもり」で打っていたという。本戦3ラウンドはドロー、延長も判定2-1という大接戦となったが、最後の最後でジャッジの支持をものにした。地元から新王者の誕生。福岡大会は劇的かつ最高のエンディングを迎えた。朝久もさすがに喜びを爆発させたが、それだけでもない。
「ベルトを獲ってからスタートとか、そんなぬるい気持ちでいたわけではないので」
闘いに向かう意識が違うということだろう。6連勝で掴んだ王座挑戦、その道のりは決して平坦ではなかった。力でのし上がってきたという自負がある。さまざまな団体があるものの「同じ階級では相手にならない。やりたいヤツがいるなら全員ぶちのめしたいと思います」と自信を隠さない朝久。K-1でのライト級の試合はタイトルマッチ、そしてスーパーファイト(ワンマッチ)では文字通り夢の対決を実現させたいという。具体的には上の階級の選手との対戦だ。
朝久は以前から、階級が上の選手にも勝つ、そのつもりで闘っていると明言してきた。スポーツというだけでなく武道、武術の思考だ。
「本気でヘビー級までやっつけようと思ってます」
目指すは「全団体、全階級統一」とも。また地方在住の選手として、同じ九州のファイターの知名度を上げたい、地方大会を充実させてK-1をさらに大きくしたいという野望もある。ファイトスタイルだけでなく選手としての“目線”も並の選手とは違う。この超硬派な個性派が、K-1の新たな顔の1人だ。




