授業、運動会、いじめ…コロナ禍の1年で変わる児童と担任教師の関係~長野市の教室から~
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 「6年生になってやっと学校に行けると思ったけど、またこうなるからちょっと悲しい」「また休校になっちゃって残念です」。

・【映像】テレメンタリー『コロナは「学び」を変えた』

 その日は突然やってきた。去年4月9日、長野市の小学校で2週間の臨時休校が伝えられた。新型コロナウイルスの感染拡大で3月が休校になり、再開してわずか5日後のことだった。

 休校は延長され、5月末までになった。短くなった学校生活で“密”を避けながら、できる限り、いつも通りの学びを重ねる。コロナ禍で揺れた、教師と子どもたちの1年を追った。

■「学びたいって気持ちをもっともっと、盛り上げるような授業を作らないといけない」

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 長野市立鍋屋田小学校は、中心市街地にある1904年設立の伝統校だ。児童数はおよそ200人。「大変です。まあでも仕事なので。子どもがかわいそう」。そう話すのは、6年生の担任・石井孝道教諭(54)だ。登校できない児童に代わり、保護者に宿題を手渡す。ただ、学習が子どもだけで進めていけるか、不安は募る。

 去年5月、学校は改革に乗り出した。「今までのように45分の授業で教科書を終わらせるという発想から、ちょっと離れてもらいたい」と提言したのは、田川昌彦校長。授業時間を45分から35分に短縮し、代わりに「自学の時間」を設けた。再び休校になる事態に備えて、個人で勉強できる力を高めようという試みだ。

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 一方、教員サイドからは「自学自習大事だけども、やっぱり伝えるべきことを伝えられる時間の確保が欲しいです」「これから自主学習をやっていくっていうこと、こっちが手を入れる時間も当然いると思う」との懸念の声が。石井先生も、「45分のサイクルが身に染みてるので、学びたいって気持ちをもっともっと、盛り上げるような授業を作らないといけない、それも35分の中で…」と頭を悩ませる。

 6月、授業が再開した。効果的な改革案が見いだせない中、まずは学習の状況が気になる児童を中心に個別指導していく。以前教壇に立っていた中学校で、成績が足りずに不本意な進学をする生徒を見てきた石井教諭。先頭に立ってキッチリ教えたいタイプで、中学で困らないようにと宿題を増やし自学の時間は指導に力を入れる。

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 アドバイスを受けていた湯本真凛さんは算数が苦手。授業が短くなり宿題が増えたことに戸惑っていた。「授業でやってない分を家で取り戻せてるかって言ったら、それはちょっと違って。6年生になったから、これくらいは増えてしょうがないのかなって感情を押し殺しています」。

 「こういう言葉がけで自立した学習者になる?こうしたことをしてあげれば自立した学習者になれる?自分で勉強する?わかんない。一生懸命考えるけど、なかなか出てこないなあ。どうしよう、困ったなあ、というのが本当です」と石井教諭はため息をついた。

■「制限の中でも目いっぱいできた運動会だったかなあと思います」

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 夏休みがやってきた。秋の運動会に向け、児童がリモートで話し合う。中心になるのは児童会長の岩崎唯人君だ。学校はコロナ禍で課題を乗り越える力を付けてほしいと、感染対策を徹底した運動会のメニューを子どもたちに考えてもらうことにした。

 児童だけのリモート会議で「できないことを考えるより、できることをできるようにしたい」。そう話すメンバーに岩崎君は「来る時間帯の人を分けるために、色の違うカードを事前に配っておいてそれを首にかけて観客に来てもらうとか…」とアイデアを出す。

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 2学期が始まり、メンバーはクラスの意見もまとめ、「開会式と閉会式は、最初から1m以上離れて大きく広がった隊形で始めます」と職員会議で発表した。そして、「大玉送りも『密』になってしまう競技なので、大玉転がしにして間隔をあけることで、密にならずに大玉を運ぶことができます」など、新しい競技も含めて20の提案をした。

 「君たちは運動会でどんな競技をやりたいと思うの?」と石井教諭は投げかけると、「色々調べたら玉入れをソーシャルディスタンスとして場所を指定して投げるっていうのもあって、それもいいかなと思ってます」と岩崎君。すると石井教諭は「本当に困ってるの。ぜひこれからもアイディアをください。よろしくお願いします。素晴らしい発表でした」とコメントした。

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 学校は提案の多くを採用。10月、運動会が開催された。ひときわ大きな声を出す応援団長はマウスシールドを着用。頭の上で送る恒例の「大玉送り」は玉を落とすまいと密集するのを避けるため、地面を転がすことにした。「制限の中でも目いっぱいできた運動会だったかなあと思います」と岩崎君。自信につながった運動会になった。

■「俺と子どもの心の距離が離れていたということ」

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 しかしこの時、クラスは深刻な問題を抱えていた。「きたない」「気色悪い」「かげ口や、バイキンあつかいをしている」…。6年1組ではいじめが起きていた。子どもたちが書いたアンケートには、一部の児童に対する言葉の暴力の状況がつづられていた。さらに「気付いているはずの先生たちに動く様子がないことが一番おかしい(ありえない)」と、教員たちへの批判もあった。学校はクラス全員に面談を実施したが、原因は判明しなかった。

 解決に向け児童だけで話し合いたいとの提案を受け、石井教諭は別の部屋で待つことになった。「話し合い頑張ってね、って言ってきました。どんな話し合いになるか、内容になるかは司会次第なので。一応、信用はしてるんですけどね…」「悲しさ半分、うれしさ半分。悲しいのは、俺と子どもの心の距離が離れていたということ。それは事実なので。もう一つは、自分たちで動き始めたい、先生がいなくても大丈夫だよって言える、考えている子どもたちもいるということで」。

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 以前のように仲のいいクラスにするため、全員で努力する。子どもたちが出した結論だ。司会を務めた森耀太君は、話し合いに先生がいなければ、自由な発言が生まれ、いじめを解決できると考えた。「話し合う力が伸びてると思ったから、きっと子どもたちだけで話し合ってもなんとかなるって思いました」。

 担任とクラスへの問題意識もあった森君。「先生が勉強の方に行っちゃって、子どもたちのところをあんまり見られなかったのと、自分中心の考えで行動してしまう人が増えた」。

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 その日の夜、石井教諭は「どんなに忙しくて、一番は子どもの姿を見ないといけない、子どもに合わせてちゃんとやらないといけない、そこができなかった俺ダメですね。教員失格かもしれないです。うんと短い時間で何とかしなきゃっていう、自分自身の思い上がりだと思います。それが子どもの姿を見えなくしていたと思います」と反省を口にした。

 石井教諭は子どもとの向き合い方を変えた。見守ることに徹し、任せることを優先することにした。「先生、自分たちで大人に頼らずに考えていってほしいっていう思いを持っていたと思うので。サポートはしてくれるんですけど、自分たちで考えるサポートをしてくれていました」と岩崎君。

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 授業も変わった。算数の時間では、「中学生からの挑戦問題。謎の中学生より。いよいよ卒業まで2カ月を切った6年生諸君、中学に向けた準備は進んでいるかな」と計算や図形の問題をグループに出し、全員が理解することを目標にした。算数が苦手で、1学期は授業の短縮と宿題の量に戸惑っていた湯本真凛さんも、とても積極的になった。

■「たくましく生きたっていう経験を生かして、これからも前に」

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 いじめの問題は事実関係に食い違いもあって、解決はしていない。ただ、クラス全員、仲良くすることが目標だ。話し合いで席を外してから3カ月。見守り重視の指導の裏に、ぬぐえない疎外感もあった。この日は児童たちと一緒に、だるまさんがころんだで遊んだ。

 「“先生ちょっとおっかない“でもあるんだけど、でも一緒に遊ぼうって誘ってもらえた。仲間として認めてもらえた、そんな嬉しさがあって楽しかったです」と石井教諭。

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 卒業まで1カ月。校長との面談で、この1年を振り返った。「子どもたちが主体的に動き出すことがたくさんあったなというふうに思っています」と切り出すと、「子どもの見方とか、接し方みたいなものなんかこう、変わってきましたか?」と校長。

 「変わってきたと思います。こちらの指示ではなく、引っ張るのではなく、子どもたちが歩み出すのをちゃんと見てあげて、待ってあげることが大切。高みには達せないですが、でも、学び続けないといけないと思います」。

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 卒業式が始まった。最後の学活は密を避けて体育館になった。「常に願っていたことです。子どもたちにいつもの卒業生以上の経験をしてほしい、成長をしてほしい。子どもたちはいつもとは違う年を、とても頑張って私が期待する以上に成長してくれました。10回目の卒業生ですが、君たちが最高の卒業生です。ほんとだよ。頑張ったね」と語りかけた。

 「コロナ禍でたくましく生きたっていう経験を生かして、これからも前に、どんな状況でも進んでいきたいなって思います」と岩崎君。森君も「できないって思われてたけど、それをどうにかできるように考えることができたので、中学校でもそういう力を持ってるので頑張りたいと思います」と意気込む。

授業、運動会、いじめ…コロナ禍の1年で変わる児童と担任教師の関係~長野市の教室から~

  子どもたちを送り出して9日後の3月26日。石井教諭が荷物をまとめていた。4月から別の小学校に勤務することになったのだ。「日本中の先生たち頑張ったと思うし、日本中の子どもたち頑張ったと思うので。苦しい思いもしたけど、それでも前に進んだのが今年1年、私もその中の一人。1億人分の一人として、次へまた向かいたいと思います」。

 荷物を抱えた石井教諭、「じゃあ、ありがとうございました。帰ります。お元気でお過ごしください。元気でやります。失礼します」。新たな「学び」がまた、始まる。(長野朝日放送制作 テレメンタリーコロナは「学び」を変えた』より)

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