プラモデルの情報などを扱う人気雑誌『月刊ホビージャパン』の編集者が転売を容認するかのようなツイートをして批判を浴びていた問題。版元のホビージャパン社は25日、ホームページ上で謝罪文を掲載、「商品の転売や買い占め行為は容認しない」との見解を示した。さらに翌26日には編集者を退職処分、常務取締役や編集長ら3人を降格処分にしたことを明らかにした。
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■「実は私も転売ヤーから泣く泣く購入したこともある」
ガンプラファン歴35年だという大和大学の立花晃准教授(社会学)は、これまで費やしてきた金額について「高級車が1台か2台は買えるのではというぐらいはある。いや、もっとかもしれない。家族からは冷たい目で見られている」と苦笑。今回の騒動について、次のように話す。
「品不足になっていた背景には、コロナ禍での巣ごもり需要もある。パズルやプラモデルなど手作業で時間のかかる趣味が非常に売れるようになった中でガンプラにも目が付けられ、新たに参入してきた層に従来のファンが押し出されるという構造ができた。その結果、本当に欲しかった人に行き渡ってないという状況が生まれてしまっていた。
非常に話しづらいことだが、実は私も“転売ヤー”から泣く泣く購入したこともあるし、そういうショップで買ったこともある。やはりマニアが入手する手段としては、残念ながら一つの選択肢であることは事実だ。ただ、転売といっても古物商の資格を持った人がちゃんと目利きをするようなところで売買されるケースもあれば、ガンプラの知識もないまま“せどり”と呼ばれる大量転売のためだけに発売日に並ぶ“せどらー”“転売ヤー”のケースもある。マニアとしてのファン心理に立てば、後者は非常に反感を買う行為だ。
近年では海外、例えば隣国から組織的に買いに来られる方も増えているし、iPhoneの発売日のように、2日前から並ぶということがおもちゃ業界でも出てきていて、ちょっとやそっと頑張ったぐらいでは買えない状況になってきていた。一方、ファンの側も黙ってはいない。例えばファンからするとそれほど価値のない、高騰するようなタイプではない商品について、実はすごく価値があるんだというフェイク情報を流し、それに飛びついた転売ヤーに大量に買わせ、在庫をたぶつかせるという“逆襲”もあった。私も爽快な気分になったが(笑)、それくらい恨まれているということだ」。
では、メーカーが市場への供給量を増やすという可能性はないのだろうか。
「転売は推奨しないというのがバンダイの公式見解だが、彼らはマーケティングに長けているので、生産数を絞って射幸心を煽り、市場を過熱化させる。そしてそこに投入するというビジネスモデルでやってきた。一方で、『たまごっち』が1個100万円で売られるなど加熱しすぎたことで増産したが、結果的にみんなの興味がポケモンなどに移ってしまい、大量の在庫を抱えるということもあった。ガンプラについても、もしかしたらコロナ後にそのような事態になると考えているのかもしれない。ただ、販売を抽選方式にしないのは不思議だ。今週も、『プレミアムバンダイ』という直販サイトが秒で落ちてしまい、第1次受注、2次受注が終わって、11月の商品が来年の4月にならないと手元に届かないところまでいっている」。
■退職処分は“オーバー切腹”に思えるが、それほど批判がショックだったのだろう
こうした状況を踏まえ、立花准教授は問題視された「転売を憎んでいる人たちは、買えなかった欲しいキットが高く売られてるのが面白くないだけだよね?頑張って買えばいいのでは?頑張れなくて買えなかったんだから、頑張って買った人からマージン払って買うのって普通なのでは」というツイートや、処分の内容についてどう見ているのだろうか。
「私も熱心な『ホビージャパン』の読者の一人なので、このツイートをした編集者のアカウントも初期のころから追いかけてきた。“簡単に買える状況が当たり前だと消費者に思ってほしくない”という問題提起に関しては、実は正しい部分もあると思っている。我々も定価で買えることだけがすべてではないと思っているし、“適性な価格”というものも、一定程度はあると思う。
だから当初はいわゆる“キャンセル・カルチャー”の一環としてファンが矛先を向けた事案なのかなと思っていたが、処分内容を見ると、今回はオーバーキルならぬ“オーバー切腹”みたいな状態だ。私も謹慎や減俸くらいだと思っていたので、非常に驚いた。『5ちゃんねる』『ふたば☆ちゃんねる』にもスレが20本、30本と立っている状況で、かなり攻撃的だった人たちでさえ、この厳しい対応にドン引きしている。
ただ、メーカーや雑誌、レビュアーサイト、YouTuberによる“マッチポンプ”で値段が釣り上がっていると感じるときもあるし、やはりホビーの楽しさとかプラモデルを作るテクニックを伝えてきた老舗の『ホビージャパン』としては、その“マッチポンプ”の一翼を担っていると思われたことが非常にショックだったのではないか。
これは宝塚歌劇団やAKB48のモデルとも通じると思うが、『ホビージャパン』には読者と意見交換しながら一緒にバンダイ製品を開発していくコーナーなど、ある種の貨幣経済の外側やコミケを研究している私からすると、“感情の交換”があった。しかし近年はおしゃれな誌面になり、ライトユーザーを意識しだした。結果、従来のコアなファンとの大きなずれが生じ、今回のことで“裏切られた”という感情が沸き起こったのではないかと分析している」。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「メーカーの判断も転売ヤーの行為も、資本主義の市場原理に基づいたものだ。しかし物を買うという経済行為の合理性の外にある“思い”のようなものもある。例えば“高級ブランドを着ていることが素敵”とか“高級車に乗っているのが偉い”みたいな“記号消費”が消滅する一方、ユニクロのように“機能”でものを選んだり、友人のブランドや物語のある企業から選ぶ“応援消費”が出てきた。
ガンプラに関しても、作る側と売る側と買う側が一緒に文化を作っていこう、みんなで盛り上げていこうという気持ちの象徴としてカネとモノの交換があるのだろうし、そういう世界では、徹底的な市場原理や合理性を持ち込むと反感を買うことになる。目利きの人がブックオフに行って1冊100円の本の中から本当は3000円の価値のあるものを掘り出してきて、それを古書店に売って儲けたとする。これは本の知識と、本に対する愛がなければできないことで、転売ヤーが買い占めて値段を吊り上げるのとは違う。その意味では、メーカーが品薄にして焦燥感を煽るのは短期的なマーケティングとしては正しくても、ファンとメーカーの持続的な関係を考えると違うのかもしれない」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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