殺人未遂容疑で逮捕された対馬悠介容疑者が警察の調べに対し「大量に人を殺せるから電車を選んだ。誰でもよかった。大量に人を殺したいと思った」と供述。
さらに「電車内を見回して、勝ち組っぽい女性を見つけ狙った」「サークルなどで小バカにする態度を取られたり、出会い系サイトで知り合ってデートしたら途中で断られたり」「6年くらい前から、幸せそうな女性を見ると、殺してやりたいという気持ちが芽生えていた」と話していることから、これが女性に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)、フェミサイド(男性による、女性であることを理由にした殺人)である可能性を指摘する声も多い。
ジャーナリストの堀潤氏は「今回の事件を機に“フェミサイド”について目が向くのは良いことだと思うが、事件を起こした動機や自死の理由などを一つ要因だけに結びつけて語るのは良くないと考えている。というのも、僕自身が失敗したことがあるからだ」と話す。
「秋葉原通り魔事件が起きた時、僕は現場に駆けつけ、後に死刑判決がくだされた加藤智大という男性について様々なリポートを出した。ただ、その時の切り口は、彼がネット上で疎外感を感じていたから、居場所がなくなったから、非正規雇用、派遣の問題があったから、格差があったから、ということで取材を重ねた。一方、その後も丁寧に取材を続けている月刊『創』の篠田博之編集長が彼との面会で聞いたのは、“いや、そんなことが原因じゃないんだ”ということだった。
ただ、そうしたことは篠田さんのメディア以外ではあまり語られていないこともあって、我々による華々しい報道で付いてしまった“格差社会が生んだ事件なんだ”というイメージは今も払拭できていないと思う。今回の事件についても、こうして報道に関わっている僕たちメディアは、事件を起こした加害者や死刑囚のその後に向き合い続ける篠田編集長のように、裁判の中で彼がどんな言葉を紡ぐのか、本当はどうだったのか、というところまでちゃんと付き合えないといけないんじゃないか。
また、供述として出てくる言葉が、非常にスラスラとした一文になっている。こういう脚本のような文章というのは、“こうなんじゃないのか?こうなんだろ?”“じゃあこういうふうな意味なんだな?”という取り調べの中で出てきた言葉を警察がまとめて発表したものが、そのまま報道として出てくる。この、作られた言葉だけを見て語る危うさもあると思う」。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「供述の内容はこれからも出てくるだろうし、被害者には男性がいるということも報じられているので、これがフェミサイドなのかどうかは慎重に議論した方がいい。ただし事件が起きた電車という空間の中では日常的に痴漢が行われているわけで、男性から見えているものと、女性から見えているものには違いがあるということは認識すべきだろう。その意味では、今回の議論を機に、フェミサイドという女性を標的にした犯罪があるということを、みんなが知るべきだと思う」とコメント。
また、「今回の事件の背景がどうだったかは別として、男女や人種などの格差を是正するためのアファーマティブ・アクションを導入していきましょうという中では、これまで優遇をされていた側に“被害者意識”を覚えてしまう人が出てくるという構造もあると思う。
例えば企業が役員の半分を女性にしましょうと決めたときに、“俺、いけるかも”と思っていた役員候補の男性社員が女性に対して被害者意識や恨みを抱くということは考えられる。“俺が差別をしてきたわけじゃないし、俺は俺で頑張って生きてきたのに、なぜ逆転させられちゃうんだ…”と。
歴史的な背景を学んでいればちょっと変わってくるのかもしれないが、やはりフェアではない状況をフェアにしようとするその瞬間には、逆にアンフェアじゃないか、という思いが生まれてしまうということも知っておいたほうがいいと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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