新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが議論を呼んでいる。
同法では感染症を1~5類などに分類しており、入院や就業制限など、それぞれに実施できる措置等を定めている。新型コロナウイルスについてはこれまでSARSや結核など同じ2類相当としてきたが、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げることについて厚生労働省の内部で議論されていることが明らかになった。
加藤官房長官は10日、「新たな科学的知見なども踏まえながら不断に見直しが行われていることが求められている」と発言している。
去年から5類への引き下げを主張してきた元厚生労働省医系技官で作家の木村盛世医師は「むしろこれを行わない限り、日本は今の状況から抜け出せない」と主張する。
「感染症というのは、逃げれば逃げるほど追ってくる。そして残念ながら、私たちと新型コロナウイルス感染症との付き合いは、それほど短い期間で終わるものではない。コロナだけに特化したり、“ゼロコロナ”を目指したりするような政策を続けていては、それ以外のところで命を落とす人が山ほど出てくる。
主に政府の分科会や日本医師会が懸念を示したことで今に至っているが、医療現場や保健所等としては、“正直もうやっていられなくなった”ということだろう。
新型コロナウイルスというのはコロナウイルスの中でもSARSやMERSなど、2類相当するような致死性が非常に高いものではなく、むしろ季節性の通常のコロナウイルスに近い、いわば“新しいタイプの風邪のウイルス”だということがわかってきている。通常の風邪になるまでにはさらに時間がかかるだろうが、致死性を鑑みれば5類相当というのが多くの専門家の意見だし、より早い段階で引き下げが行われるべきだった」。
引き下げ論の背景にあるのは、感染拡大に伴う医療提供体制のひっ迫だ。2類相当では無症状者も含めた入院勧告や外出自粛の要請、都道府県による経過報告、感染経路の調査などの措置が講じられるため、医療現場や保健所にとって大きな負担となっているのだ。木村医師も現状の対応について、「2類相当よりもっと高い、1類相当だ」との見方を示す。
「感染者数が増えてくれば、全てを把握しなければならない保健所が回らなくなってしまう。また、医療機関でも防護服に身を包んで陰圧室という特別な部屋で診ることが原則になっているし、患者を移動させる際にはいちいち消毒をし、濃厚接触者をチェックしなければならない。さらに医療従事者に感染が起きた場合、周囲の医療従事者が仕事ができなくなるというくらい、ピリピリした感じになっていて、もし一例でも院内感染が起これば、社会から叩かれてしまう心配もある。
そもそも新型コロナウイルスは65歳以上の高齢者が重症化しやすいことがわかっているが、その多くはワクチン接種を済ませた状況だ。一方、医療現場のメインになってきているのが高齢者に比べて重症化リスクはかなり低い30~50代だ。それでも2類相当では原則入院にということになっているため、軽症者がベッドを埋めてしまっている。また、開業医の団体であるところの医師会所属の医師の多くがコロナ対応を拒んでいることもあり、一部の医療機関に負担が集中、病床数も医療従事者も限られて重症者が入院できない、非常に困った状況になっている。
だからこそ軽症者は原則的に自宅対応とし、そのために医師会の協力を得て訪問看護ステーションや開業医に診てもらうという政府の方針は極めて真っ当だし、合理的な判断だ。日本では在宅医療が十分に進んでいるし、厚生労働省も進めてきている。酸素投与や薬剤投与もできる。本来はそういうことをオールジャパン、医療総動員でやらなければいけない状況なのに、2類相当にしている限り診られない」。
ワクチン接種は進んできているが、デルタ株への置き換えが進んでいることもまた事実だ。これについても木村医師は「確かに感染力は明らかに強く、水ぼうそう程度だとも言われている。感染力が強ければ感染者は増えるので、それだけ医療機関にも負担がかかる。海外の知見も踏まえれば、やはり重装備をして陰圧室はやり過ぎだろうと思うし、入院が必要な水ぼうそうも5類相当だ」と話した。
木村医師の話を受け、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「インドでは数百万人が死んでいるかもしれないという報道もあるので、決してコロナのことを軽視してはいけないと思う。また、感染力の高いデルタ株が蔓延して20~50代の患者が増えてくると、死者数は少なくても、自宅療養では苦しいのにベッドが空かないという中等症の患者が増えることになる。
その意味では民間のクリニックでも対応できるよう5類相当に引き下げることも必要だろうが、結果的に社会に“軽い病気だろう”というような空気感が生まれてしまう懸念もある。コロナの危険性をちゃんと認識しつつ、同時に柔軟な医療体制を取るというバランスだと思うが、これは日本人が一番苦手とするところだ。すぐに極論で片付けようとする人もたくさんいるので、非常に難しい局面になってきている」とコメント。
慶應義塾大学の若新雄純特任准教授は「5類相当のインフルエンザの場合、普通の風邪よりは辛いし、中には亡くなる方だっている。だから会社も無理して出社するな、学校も出席停止だ、という付き合い方になっている。一方で、インフルエンザが広まっているからといって緊急事態宣言を出したり、飲食店を閉めたりしなければいけないわけではなかった。
つまり、マジでヤバいウイルスが蔓延している、感染しても診てもらえる場所が限られているから“かからないようにしてください”という社会から、そこそこ恐れるような距離感は保ちつつ、上手くやり過ごせる社会を作っていく必要があるのではないか。だから5類相当に下げるという話も、ごく一部の医療機関以外でも診てもらえる状態に変えようという話であって、軽視しているわけではなく、新しい可能性について語っているだけなのに、“お前は風邪と同じだと言った、コロナ軽視派だな”みたいな感じでまとめられてしまう」と話した。
改めて木村医師は「残念ながら、私たちはコロナと付き合っていかなければならないし、一時的に人の流れを止めたところで、後からまた広がってくる。それは致し方ないことだ。そういう中で、いかに社会を通常に戻すかが極めて重要なことだと思う。このまま経済状態が悪化すれば、失業率が上昇、自殺者数もさらに増加することになる。日本社会はそういう部分にも目を向けていかないといけないと思う」と訴えていた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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