東京オリンピックで見えてきた課題 トランスジェンダーの選手への批判、テストステロンの値で選手が失格になるケースも
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 ジェンダーに関する課題も改めて浮き彫りになった東京オリンピック。トランスジェンダー選手出場の是非の問題も、その一つだ。

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 男性から女性へ性別変更した重量挙げ女子のニュージーランド代表、ローレル・ハッバード選手は、オリンピック史上初めて自認する性別で出場したトランスジェンダー選手となった。ところがこれに違和感を表明する意見や、批判的な意見が寄せられ、一部の女性選手からは不満の声もあがったという。

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 大会組織委員会のジェンダーアドバイザーも務めるオリンピアンの井本直歩子氏は「私が現役だったのはもう20年ぐらい前で、その後は人権を守るための国際機関で働いてきたので参考になるかどうかは分からないが」とした上で、「やはりどこかで線は引かなければ、男性も女性も一緒になってしまうし、そこは専門家が議論して決めるところではあると思う。生物学的には男女差を区別することがほぼ不可能であるという前提と誰も排除するべきではないという理解の下で議論が重ねられ、ルールが決まったのであれば、それは受け入れて、同じ土俵でしっかり戦うしかないと思う」とコメント。

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 IOCのスポーツと活動的社会委員会委員を務めるオリンピアンの有森裕子氏は「和訳されたルールブックも作られているので、ぜひ皆さんが情報を取りに行くようになってほしいし、開催国だけでなく、世界中の人が注目し全ての人が注目するタイミングでもあるので、メディアも含めて情報を出していくきっかけになったとも思う」と話す。

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 また、「日本スポーツとジェンダー学会」会長で、大会組織委員会の理事も務める中京大学の來田享子教授は「様々な見解を持つ人々が集まり、賛否両論を戦わせながら世の中を良くしていくんだというのがオリンピックの意義だ。他の選手についても問題になっていたが、そういう中で選手個人に対して批判が向けられ、傷つくというのは良くない」とした上で、次のように提言した。

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「実はこの問題がルール化されたのは2004年で、もう15年以上が経っている。つまりスポーツ界の中では議論がなされてきた問題だが、やはり日本はこの問題にあまり関心を持ってこなかったし、スポーツ組織がトランスジェンダーのアスリートたちに道を開くための動きがなかなか出てこなかった。だからこそ一般の人にも伝わらなかったのだと思う。ジェンダー平等はスタートラインだが、正直言って、日本は遅すぎるということを認識し、スポーツ組織は情報、根拠のようなものをしっかりと出して行くというものが大事かなと思う」。

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 今大会では一部の選手に対し男性ホルモンの一種である「テストステロン」の検査が行われ、基準値を超えた場合は一部の種目で参加資格を制限したことで、陸上女子400mに参加予定だったナミビア代表の選手2人が出場NGになってしまうということも起きた。

 來田氏は「“あなたの体を医学的に変えてくれれば出ていいですよ”というふうに対処しているということだ。これは私たちがずっと“ドーピングはいけないよ”ということを言ってきたのと大いに矛盾する考え方を含んでしまっている」と話す。

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 「血中のテストステロンの基準のベースになっているのは、第二次性徴を迎える前の男性の上限値だ。それを踏まえれば、一応は平等な状態で戦えるだろうという考え方だ。しかし難しいのは、女性の平均値よりも少ない男性もいるし、逆に男性の平均値よりも高い女性もいる。アメリカで690人くらいのトップアスリートを対象にデータを取ったところ、かなりばらつきがあったという結果も出ている。

 つまり、とりあえずはテストステロン、筋肉の量でいきましょうというのが現在地だが、スポーツはそれだけで決まるわけでもない。骨格の大きさや骨盤の形状が違えば疲労の度合いやケガの仕方も違ってくるかもしれない。さらに言えばメンタルや、経済的に豊かな国とそうでない国とでは、環境も全く違う。つまり、私たちはたくさんある不公平の中の一方には目をつぶり、もう一方には不公平なんじゃないかと一生懸命言っているのが現実だということだ。これからも科学的なデータを積み重ね、公平ってなんだろう?みんながスポーツを楽しめる条件はどうすれば作れるだろうか?とポジティブに考えていくことが重要で、最初から排除の議論になってしまうと、決して豊かなスポーツの世界にはならないと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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