10代のメダリストに注目が集まった東京オリンピック…報道、SNS、スポンサーが与えるプレッシャーも課題に 池谷幸雄&安藤美姫も告白
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 メダルラッシュに沸いた東京オリンピックは、13歳で金メダルを獲得したスケートボード女子の西矢椛選手を始め、8人の10代メダリストたちに注目が集まった大会でもあった。その一方、人々やメディアからの期待が重圧となっていることについて顧みられる機会はあまりない。SNS時代、選手たちにとって、その影響は一層大きなものとなっているのではないだろうか。

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 アスリートのメンタルヘルスを専門とする山本宏明医師は「指導者や親の期待を察して、それに応えるために無理してしまうことも多々ある。しかし第二次性徴を迎え、体も心も大きく変化する年代なので、抱えきれないプレッシャーや重圧がかかった結果、練習に行こうとすると吐き気や過換気発作が止まらなくなったりするケースもある」と話す。

 18日の『ABEMA Prime』では、この問題について池谷幸雄さん、安藤美姫さんとともに考えた。

■10代で“プロ化”…アスリートを取り巻く環境の変化

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 国の強化指定選手として半年後に迫った北京冬季オリンピックへの出場が期待され、8社のスポンサーから支援を受けているプロスノーボーダーの森井姫明麗さん(14)も、「サポートしてくれる方々の期待に応えようと思って、自分に対してプレッシャーをかけてしまうときもある。結果が出なかったとき、すごく応援してくださっていたのにすごく申し訳ないな、次は絶対に優勝しようというプレッシャーに変わっちゃう」と明かす。

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 そんな森井さんを支えているのが家族の存在だ。「会議みたいな感じで家族には全部話している」。シーズン中は母親が付きっきりサポートする他、同じプロスノーボーダーとして活動する兄にもアドバイスをもらっている。

 しかし、ジュニアアスリートの育成を行うJACAPの吉田慎司代表によれば、「親が先行して習い事をさせることで、子どもが受身になっていることもある。伸び悩んでいるけれど、親に怒られるから練習しないといけないという子どもたちも多く見てきた」と、親の関わり方の重要性を指摘した。

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 東京大会で銅メダルを獲得した村上茉愛選手も指導した池谷幸雄さんは、「体操も小さいころからやらなければいけないというのはあるが、スケートと同様、あまり無理なことを小さいうちからやらせてはいけないということで年齢制限が設けられている。体操では僕が中学生のときに16歳の世界チャンピオンが出て、“俺たちと変わらない年齢でも優勝できるんだ”と思ったことがあるが、16歳以下はオリンピックには出られなかった。一方で、ゴルフやオリンピックの新種目の場合は若い選手がどんどん出てきて、ピークも早くなってきているので、早いうちから初めて、どんどん強化をするという時代になってきているし、そのための環境も整ってきている」と話す。

 「また、森井さんの場合、すでに14歳でプロということだが、日本でも若い子にスポンサーが付くようになり、どんどんプロ化してきているということもある。僕の場合はアマチュアだったので、応援してくれる親や周りの人を意識するくらいだったが、スポンサーが付いて多額のお金が動いていることが分かるようになると、成績が取れなかったら…という怖さが出てくると思う。そういう面でも、時代が変わってきていると感じる」。

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 同じく10代から世界を舞台に活躍してきたフィギュアスケート元世界女王の安藤美姫さんも、「体操やスケートの場合は体への負担が大きい競技なので小さいうちは無理をさせないという面があるが、一方で若ければ若いほど新しいものにチャレンジできるし、ルールの改正にも柔軟に対応していける。体が成長すればするほど、ルール改正についていくのがやっとだ」と指摘した。

■マスメディアの取材も強いプレッシャーに

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 目隠し状態で縄跳びをしながらリフティングする動画がスペイン・バルセロナのSNSで紹介されたことから海外でも注目を集め、“西宮のメッシ”として数多くの取材が舞い込んだサッカー選手の山崎翔空くん(10)は「失敗したプレーが映るのが嫌だ」と話し、知名度が高まるにつれて周りの期待を強く意識するようになったことを明かした。

 18歳でオリンピックに初出場(ソウル大会)、銅メダルを獲得した池谷さんは、「僕は高3で初めてオリンピックに出たが、これが初めての世界大会でもあった。だからどんなものなのか、自分が何番になるのかも分からなかったし、高校生だから、失敗してもしょうがないと周りが思ってくれるかなという感じで、むしろ楽しみの方が大きかった。それが逆に良かったんだと思う。むしろ、“これを通れば史上初の高校生オリンピック男子体操選手だ”ということで取材を受けていた予選の時のほうがプレッシャーで苦しかった」と振り返る。

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 サッカー解説者のセルジオ越後氏は、特定の選手を過剰に持ち上げる報道について警鐘を鳴らす。「例えばテレビは視聴率だから、あんまり試合に出ていないとか、勝っていないとかでも、人気があればいいと。あるいは、ただ海外に行ったからとか、所属したチームが名門だとか。そこでプレーしてはじめてスターになるはずなのに、看板を利用するメディアの“スター制度”で作られていく選手たちもいる」。

 安藤さんは「私の場合、プレッシャー以上に周りの環境の変化に戸惑ってしまった。きっかけは、14歳のときに世界で初めて“4回転”を飛んだことでギネスに認定されたこと。英語で“Miki Ando , congratulations”みたいに言われたけど、何を言っているのか全くわからなかった。むしろ自分の名前が大声でコールされたので、“何かやらかしたのかな”というメンタルになったくらい」と明かす。

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 その上で安藤さんは「池谷さんはすごく幸せだと思う」と話し、次のように語った。

 「私も池谷さんと同じく高3で初めてのオリンピック(トリノ大会)を迎えたが、若いとか、スカートが短いといったことの方がフィーチャーされた。毎日のようにカメラの方が茂みに隠れていたし、競技に集中できなくなった。でもオリンピックで結果を残せなかったことで“終わった”と報じられ、そういう取材もピタッと止まった。マスメディアの方々は私を応援してくれていたのではなく、ただ私が若かったから注目していたんだというメンタルに変わった。そして、今は連盟が(選手宛の)手紙を開封しているが、当時は全て開封せずに家に届いていた。ネガティブなものもたくさん届いた。

 そういう最悪の経験から、自分が信じる人以外、応援してくれる人たちのことでさえ、信じられなくなってしまった。そこから、まず自分に集中することと、自分を守ること。フィギュアスケートが好きという気持ち、そしてもう一度返り咲くためには何が必要かということを考えて行く中で、距離感がすごく変わったと思う。メンタル面が変わったということもあり、20代になって迎えたバンクーバーオリンピックでは全く緊張せず、気持ちいいだけだった」。

■SNS時代、応援の声との距離の取り方もアスリートの課題に

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 SNSが普及したことで人々の声が直接アスリートに届くようになった結果、東京大会では誹謗中傷の問題も大きくクローズアップされた。

 池谷さんは「僕の頃の応援メッセージはFAXの束が選手村にガバッと届いていた。おそらく渡す前に“アンチ”は取り除いていただろうし、全く目にすることはなく、ただ応援してもらって嬉しいとしか思っていなかった。そもそもアンチも喜んで受け入れるようなタイプだったし、オリンピックがどういうものかも分かっていなかったので、“ベン・ジョンソンがいた!カール・ルイスがいる!”という感じだった。その意味ではラッキーだったと思う」と話す。

 「今はアンチも見られるし、そもそも情報が多すぎる。オリンピックに出るということがどういう影響をもたらすのか、それを若い選手たちが知った上で出るというのは、プレッシャーにつながると思う。一方で、取材をしてもらえなければ情報は出せないし、応援してももらえない。そういう意味では、選手としての自分を宣伝できるSNSがあるのは素晴らしいことだ。そういうところも含め、指導をしていかなければいけないと思う」。

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 安藤さんは「私が10代頃と今とでは、また大きく違う。SNSが盛んになった時代では、そういう流れについていけるか・ついていけないかというのも問題になってきていると思うし、メディアとの距離感がすごく重要になってきていると思う。注目されたいと思ってその競技に打ち込んでいる選手はいいが、競技が本当に好きだからやっているという選手もいる。そういう方々は辛いところもあると思う」と慮る。

 「ただ、何事も時代の流れに乗っていろいろ変化するのが当然だと思う。その意味では、私も自分のことを犠牲者だとは思っていない。TwitterやInstagramは“応援してくれてありがとうございます”という感謝を伝えられる手段ではあると思うし、そもそもやらない人もいる。そういうところから選手の性格も垣間見えると思うし、むしろSNSを通じて、そのアスリートとメディアや応援してくださる方々との距離感が測りやすくなる、という考え方もできるのではないか。

 そして私たちが10代のころよりも今のアスリートの方がトップで戦う意識の持ち方はすごく洗練されてきていると思う。それはメディアが報じてくれているからということもある。プレッシャーを感じたら、小さい頃の競技が好きだという気持ちを思い出すと気が楽になって、いい意味で力が抜けて自分らしいパフォーマンスができるのではないかと思う。失敗をしたからといって、スポンサー、家族、トレーナー、コーチが離れていくわけではない。重く考えずに頑張ってほしいと思う」。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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