“酸素ステーション頼み”政治の空気に医療現場の苦言「苦肉の策であり、歯車の一つに過ぎない。決定打でも何でもない」
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 自宅療養中だった新型コロナウイルス感染症の患者が死亡するケースが相次ぎ報じられている。千葉県柏市で、感染して自宅療養中だった妊婦(30代)の救急搬送先が見つからず自宅で早産、その後、赤ちゃんの死亡が確認された問題は、日本中に衝撃が広がっている。

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 まず、現下の感染状況について神奈川県医療危機対策総括官の阿南英明医師は「やっぱりデルタ株は今までと比べ物にならない。去年からのウイルス、今年のお正月まで戦ってきたウイルスとは別物だと思ってほしい」と話す。

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 「この1年半で、医療は加速度的に対応力を増してきた。年末年始のいわゆる第3波もものすごく苦しかったが、医療というのは病院がゴールなので、様々な政策を展開し、患者さんが倍くらい出ても何とか耐えられるようにと、体制を作ってきた。自宅・宿泊療養の方のところにも、地域の医師会の先生方、あるいは訪問看護ステーションを入れて手厚く診るということもやっているし、その間に位置する酸素ステーションによって、病院に行く手前のところも手厚くしていく。そのようにして、患者さんを悪化させないようにしてきた。しかし、今の患者さんの増加の勢いは、それを超えて際限なく増えている。これは相当きつい。

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 新生児死亡のニュースは非常に辛く、苦しい。医療は分野ごとに特性があるので、小児や産婦人科といった領域についても別のパターンの仕組み、受け皿を作って走らせるということを一応はやっている。しかし、もともとは患者さんが増えてきたら社会経済活動の抑制をし、山をピークアウトさせるというのが戦略だったのが、感染性がものすごく強くなってしまったために、緊急事態宣言の発出地域をどんどん増やしても患者さんが減っていかない。やはりこれまでのやり方では患者さんを減らす方向にはいかないんだ、これでは太刀打ちできない、支えきれないと、現場の皆が肌感をもって感じているという構図だ。

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 やはりデルタ株は去年戦ってきたものの倍の感染性があるので、正直、マスクをしていてもうつってしまったというケースが出てきてしまっている。今は飲食店の時短営業などで抑えようとしているが、人と人とが近い関係にある限り、どうしてもうつってしまうのが感染症だ。例えば通勤・通学の状況を見ると、去年の春の緊急事態宣言の時と光景が違うのではないだろうか。皆さんも我慢に我慢を重ね、とても辛いと思うが、“マスクはしないよりにしたほうがいいし、これがあれば大丈夫だったよね”という感覚ではないということを受け止め、対策を打っていかないといけない」。

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 番組には「時間があったのに、なぜ病床数が増やせないのか」との質問も寄せられた。

 阿南氏は「神奈川ではこれまでの倍を用意し、そのために一般医療の延期を行った。手を尽くし、前よりもずいぶん多くの病院にご参画いただけるようにもなった。そしてこの3カ月間、実は他の医療は停止に追い込まれていて、例えば関節が痛くてしょうがない変形性関節症などで人工関節を入れる手術などは、申し訳ないが延期させてもらっている。夏休みに合わせて検査、手術のために入院を予定していたお子さんにも延期させてもらっている。そうやって空いた病床、医療スタッフを少しでも回してコロナ対応ができるようにしている。皆さんとしては、もっと膨らませて欲しいと思うかもしれないが、残念ながら医療には専門性もあるし、全ての医療機関が感染症に対応できるわけではない。中小規模の民間病院には常勤で働いている先生が少なく、夜は外から当直に来てもらって回している病院も多い。そういうところに感染症の患者さんを無理やり入れてしまうことで、むしろ他の方にうつしてしまうことも考えられる」と説明した。

■「酸素ステーションは歯車の一つであることを理解することが重要」

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 阿南氏が話す通り、神奈川県では全国に先駆け、2月から酸素ステーションの施設を稼働させていた。呼吸に異変が出た自宅療養者を受け入れ、酸素を投与するための施設だ。よこはま看護専門学校の長岡美穂校長は「自宅で酸素投与されないで、亡くなる患者さんも散見されているので、そういった意味では一時救護でも酸素投与するというのは意義がある」と話す。一方、阿南氏は「苦渋の選択、最後の保険として取っておいたもので、解決策としての決定打でも何でもない」と警鐘を鳴らす。

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「私は救急災害医療に携わって来たので、これは災害時の応急救護所の発想だ。大地震、大津波が来て、病院がメチャクチャになってしまっていたり、街が破壊されて救急車も動けなかったりした場合、けがをした人や、病気で重症の患者さんの中には、病院で救命処置が受けられなければ命を奪われてしまうこともある。そういう時には、現場に救護所を作り、点滴をする、酸素を吸わせる、管を入れるといったワンポイントの治療を行い、命をつなげるための最低限の医療を提供することになる。それにより、1時間、2時間、あるいは半日と、搬送されるまでの時間を稼ぐわけだ。

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 今もまさに病棟や救急車がいっぱいになり、コロナの患者さんを運び込めない。そして肺炎で酸素が足らなくなってしまう低酸素で命を落としてしまう。ならば酸素を投与して、病院に運び込むまでの時間稼ぎをする。そういうクッション、つなぎの場所として酸素ステーションを設置したらいいのでは?と1月に構想した。しかし準備はしても、開設はしなかった。なぜなら、酸素ステーションは異常事態の時の保険であって、こんなものは稼働させない方がいいと思っていたからだ。医療者としては、やっぱり病院で治療を受けさせるべきだと思っている。だから何としても病床を大きくする、あるいは地域の医療を厚くすることで支えていきたい。そうやって第3波、4波を乗り切って来た。しかし今回はとうとう酸素ステーションを使わざるを得ないところまで追い込まれてしまった」。

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 一方、菅総理は13日、酸素ステーションの開設を進めると表明。東京都の小池都知事も18日、早ければ来週にも渋谷区に130床ほどでの施設を開設させることを明らかにしており、都ではさらに2カ所の増設も予定している。しかし阿南氏は、「酸素ステーションは夢の仕組みで、これがあればもう大丈夫だと捉えられてしまっては困る」と釘を刺す。

 「繰り返すが、本当は我々も使いたくない、使わざるを得ないから使っているということだ。その間、手前の自宅宿泊療養、そして後ろの医療をいかに頑張って広げるのか、厚くするのか。神奈川県の場合、訪問看護ステーション、地域の医師会の先生方で一定以上のリスクの患者さんを診ていただいていて、酸素濃縮機も医師会ごとに配置をし、自宅でどうしても酸素が必要となった場合に使えるよう、地域療養モデルというものを展開している。他にも、全ては申し上げられないくらい色んなことをやっているし、酸素ステーションはそういう全体の歯車の一つであることを理解して発信することが重要だ。

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 神奈川県では10日ほど前から酸素ステーションが稼働していていて、ご飯も食べられないくらい苦しかった人が飲み物やご飯を摂れるようになり、命が繋がったという方もいる。しかし根本的な治療は病院でやった方がいいし、病床の逼迫により2日、3日と滞在するケースも出てきている。加えて、医療人材を確保するのがすごく大変だ。酸素ステーションには24時間、医師や看護師にいてもらわなければならない。勤務時間で言えば8時間の3倍なわけで、それだけの人材を県内で集めるのは大変だ。本当に苦渋の選択、苦肉の策だということを考えていただきたい」。

■短期間、欧米のロックダウン並みの徹底したシャットアウトをすれば…

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 また、視聴者からの「ロックダウンが必要ではないか」との質問に阿南氏は、「徹底してやるということならば、短期間、欧米のロックダウン並みの徹底したシャットアウトをし、会社や街、電車を止めれば感染する道が絶たれ、患者さんは減少に転じるはずだ。例えばテレビ局もテレ朝系だったらこの曜日、日テレ系はこの曜日というようにして出勤を止める。それぐらいのことをするということだ。だらだらと中途半端なことをやるから、緊急事態宣言が延びていってしまう。もちろん再開すると再び感染者数は増えてしまうが、時間を稼ぎ、その間に一人でも多くの人がワクチンを打つ、という戦略ではないだろうか」と話した。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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