なぜタイムリープものは青春時代に戻るのか?作品として必然である3つの理由
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 時間を超え、過去に戻る――いわゆる「タイムリープ」と呼ばれる事象。このタイムリープを素材として取り扱うアニメやコミック、小説は多く、定番ジャンルの1つとして広く認知されています。筒井康隆氏の小説『時をかける少女』や、最近では和久井健氏によるコミック『東京卍リベンジャーズ』などが代表的な作品です。

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 とはいえ、一口に「タイムリープもの」と言っても、その内容は細分化されます。タイムリープ能力の扱い1つを見ても、「自分の意思で自由に使用できる」「特定の条件で使用できる/制限がある」「自分の意思と無関係に発動する」などさまざまです。傾向としては、能力として自由に使える幅が大きい場合は、何らかの目的達成のための手段として利用するストーリー展開が多く、自らの意思によらない場合、リープ先での人生模様にスポットが当たるという作劇が多く見られます。

 SFにもサスペンスにもなりえるし、はたまた人生ドラマとしても展開できるという多様性を持ったジャンルですが、1つの特徴として「タイムリープ先が青春時代である」ことが多いことが挙げられます。

 なぜ青春時代に飛ぶのか? 結論から提示すると、「“過去に戻って青春をやり直す”というストーリー構成が、受け手側の大多数の共感を得られるから」です。これはもちろんメタフィクション上の理由、都合であり、受け手とは読者、視聴者を指します。乱暴に言ってしまうと、「多くの人が“青春時代をやり直したい”と思っている」のです。

 「そんなことはない。十分満足できる青春時代だった」という方ももちろんいらっしゃるでしょう。ですが100%、まったく迷いなく断言できる人間というのは、意外と少ないのではないでしょうか。程度の大小はあれ、普遍的な感情として理解されうるものではありますし、循環論法になりますが、そういう心性がまったくのマイノリティであるならば、青春時代にタイムリープする作品がここまで世に著されることもないでしょう。

 この「やり直したい」という思考には、いくつかのより具体的な感情があります。今回はそのうちの3つを列挙するとともに、タイムリープものの作品の中でどう解消されているかの実例として、現在放送中のTVアニメ『ぼくたちのリメイク』内のエピソードを紐解いていきます。

 第一に挙げたいのは「心残り」です。どんなに充実した青春時代を送った人間でも、やはり1つや2つの心残りはあるものです。人生の岐路を決める重大な選択から、「あの人に告白しておけばよかった」というような恋愛ごと、などなど。『ぼくリメ』においては、主人公・恭也の心残りは「進路」でした。

 もの作りに惹かれ、芸大を受験したものの一般の大学を選び、10年の時を過ごした恭也。過去に戻った彼が選択したのは、「芸大に入る」という道でした。二度目の青春時代において後悔のない選択肢を選んだ恭也は、タイトルの通り自らの人生を「リメイク」していきます。その選択ののちに広がる彼の人生が、一度目よりも幸福であるかどうかは物語の顛末を待たねばなりませんが、少なくとも心残りを解消できたという点において、幸せと言える状況だと感じます。

 第二は「羨望」。自身のひたむきさや情熱、周囲の人間関係の豊潤さにおいて、青春時代が一番だった――という思いです。これはタイムリープものに限らず、青春時代を舞台とする作品が数多く世にあることからも見て取れるでしょう。『ぼくリメ』においても、青春の輝きがまざまざと描かれています。

 芸大に入った恭也は、シェアハウスで同回生3人と共同生活を送ることになります。うち2人は女の子、しかも美少女。私には10回リメイクしても引き当てる自信のないシチュエーションです。ラブな方面での充実ぶりのほかにも、4人でチームを組み課題制作に挑んだり、同居人・ナナコの学祭ステージを全力でサポートしたりなど、キラキラとまぶしいエピソードの数々が展開します。

 そして第三の感情は「“強くてニューゲーム”したい」です。今の知識や経験があれば、もっと青春時代は輝いていたはず――という思い。「過去に戻る」という点であれば成立する要素に見えますので、「青春時代に戻る」という理由としては弱いのでは? と感じられるかもしれません。

 ですが、たとえば幼稚園時代に戻っても、環境的にそれらを活かすことは難しいでしょう。逆に40歳から30歳に戻った場合でも、「ちょっとデキるやつ」くらいのプラス要因にしかならない状況が想像できます。人生経験を十全に活用できる舞台として、やはり青春時代は一番適切なのです。余談ですが、この「“強くてニューゲーム”したい」という志向を満たす作品ジャンルが、同じく流行の「異世界転生」ものです。

 翻って『ぼくリメ』を見ると、これもまたやはり満たしている要素でした。タイムリープ前の恭也は、ゲームのディレクターとして社会人生活を送っていました。この経験が芸大生活で活 かされる描写がたびたび挿入されています。具体的には、「乏しい素材でムービーを作り上げた経験から、静止画メイン で課題の映像を制作する」「主題歌のMIX作業を自前でやった時に得たノウハウで、ナナコの歌の音程調整を行う」など。大学生では持ちえない知識や経験で問題を解決していく展開は、「強くてニューゲーム」の王道とも言えるもので、良質なカタルシスを感じました。

 このように分析すると、やはり時を超えて戻る先が青春時代であるのは、物語として非常に適切であることがうかがえました。それだけ青春時代が輝かしいものである、ということの証左なのかもしれません。

 残念ながら現実において、青春の時を過ぎてしまった私たちがタイムリープすることは叶いません(もしできる方がいらっしゃいましたら、ぜひ青春時代へ飛ぶことをおすすめします)。戻りえぬからこそ美しいと割り切って、一抹の寂寥を感じながら懐かしむ。「青春は終わらない」と信じて、今をめいっぱい楽しむ。あるいは『ぼくリメ』のような作品に触れて、理想の青春を追体験する――青春との付き合い方は、きっと人それぞれなのでしょう。

■TVアニメ『ぼくたちのリメイク』

公式サイト:https://bokurema.com/

公式Twitter:https://twitter.com/bokurema_anime

(C)木緒なち・KADOKAWA/ぼくたちのリメイク製作委員会

テキスト/桜森柚木

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