アジア最大級の格闘技イベントONE Championshipが、新たな一歩を踏み出す。9月3日、シンガポールで開催される『ONE:EMPOWER』だ。この大会では女子アトム級ワールドGPが開幕、大会のマッチメイクが全て女子カードとなる。ONE史上初の女子大会だ。
この重要な大会、トーナメントに「交替試合」つまりリザーブマッチ枠で出場するのが山口芽生だ。日本を代表する女子MMAのベテラン。ONEでも数々の激闘を展開、今回はジュリー・メザバルバと対戦する。
大会に先立つ公開練習では、ボクシングの名トレーナーである野木丈司氏とのミット打ちを披露。空手をベースとしつつ寝技でのフィニッシュが多い山口だが、今年2月から本格的なボクシングの練習に取り組んできたという。現在38歳、しかし彼女にとって「年齢はただの数字」だ。常に自分に成長を課している。
ミット打ちでは、遠い間合いから踏み込んでインファイトという動きが目立った。これにはパンチで勝つというだけでなく、その先、いい形でテイクダウンにつなげるという目的もある。
「やっぱり総合格闘技は立っているところから始まるので。ちゃんと打撃ができないと試合が作れないんです。これまではそこに自信を持ってやれていなかった。ラッキーでテイクダウンできたな、一本取れたなっていう。その不安を減らして、自分の形に持っていきたい。遠い間合いからでもしっかり打撃を出して、(パンチで)ダメージを与えてからテイクダウンできれば」
当初の試合オファーは3月。そこから5月に決まったがコロナ禍で延期となり、9月に正式決定した。だいぶ待たされたことになるが、結果としてボクシングの練習に取り組む時間が増えたわけだ。女子選手の層が薄く、大会数も少ない時期から試合をしてきただけに、試合が決まらず焦ることもなかった。
「ONEで定期的に試合をするようになるまで、いろいろなことがあったので。そういう経験があるからポジティブに捉えることができます。ONEで試合させてもらうのはもの凄く贅沢な時間ですね」
今回のトーナメント、日本から本戦に出場するのは平田樹。新世代の若い選手だ。現在の女子MMAの充実ぶりを、山口も歓迎している。リザーブだからモチベーションが下がるということもない。
「トーナメントは怪我人が出るかもしれないし、コロナの状況もあるので。いつ欠場者が出るか分からないですから。リザーバーというのは考えず、いつでもいけるように準備してきました」
ONEにとって初の女子大会だが、山口はDEEP JEWELSなど女子イベントでキャリアを積んできた。その山口から見ても、今回は新たな意味があるという。
「女子のパワー、技術が上がって男子に見劣りしない試合が増えてます。(男子と一緒の大会で)自然に女子がメインということもある。だから以前の女子だけの大会とは違いますね。女子の試合は視聴率が取れる、女子の試合は面白い。そういう状況での大会だと思います」
同じ9月には、RIZINで浜崎朱加vs藤野恵実のベテラン対決が組まれている。同世代、同時代を生き抜いてきた“同志”とも言える選手たちだ。
「いろんな思いがありますね。藤野さんとはずっと練習してきたし。浜崎さんとも。2人とも試合してますし。ここまできたら、みんなとことん、できるところまでやろうぜっていう気持ちです。別の団体ですけど自分の試合から繋げられたら」
パイオニアたち、ベテランたちが積み重ねてきた歴史の上に“今”がある。ONE初の女子大会という記念すべき舞台だからこそ、現在進行形の実力とともに“歴史の重み”も、山口にとって追い風になるはずだ。
文/橋本宗洋
写真/ONE Championship