サーファーにとって20フィート(約6メートル)級の波に乗るのは究極の夢だろう。誰もがもっとスキルを上げて、いい波を自在に乗りこなしたいと思っているはず。そんなサーファーが最終的に行き着く先は、フィジーのクラウドブレイク、カリフォルニアのマーベリックス、マウイのジョーズ、ペルーのプンタ・デ・ロボス、フランスのベルハラといった、巨大な波がブレイクする世界中のスポットだ。
その猛威は、まさにモンスター。恐れるなという方が無理だ。百戦錬磨のサーファーだって毎回、恐怖と戦って、決死の思いで挑みかかるのだから。だが、それを乗り越えテイクオフした先には、他では絶対に味わえないようなスリルと喜びが待っている。
一度ポイント・オブ・ノー・リターン(引き返せない地点)まで来てしまえば、あとは技術よりも勇気。頭を下にして、まるで永遠に落下し続けるような波の背に乗り、そして立ち上がる。やがて頭も体も極度の集中状態に入るので、不安や恐怖はいつの間にか置き去りだ。これまでの経験と直感の全てが動員されて、自分はただただ波に乗るためだけの存在になってゆく。
もちろん、最高のライドには様々な条件が必要だ。最高の波やタイミング、自身のコンディション、メンタル。全てが揃ったとき、そのサーファーは奇跡のようなライドを体験することができる。それはきっと、一生忘れられない濃密な時間だ。まるで富も名声も何もないたった一人の男が、世界一の美女と濃密なセックスをしたかのような。とても言葉で言い表すことのできない体験なのだ。そして乗り終えた後は、まるで離脱症状のようにその波を恋しく思うだろう。一度体験したら簡単には身体から抜けなくなってしまう、それほどまでに強烈なのだ。
でも、失敗したときはどうなる? おそらく極度の集中力ゆえ、とても時間が長く感じられるだろう。巨大な波の腹の中もみくちゃにされながら「どこで間違った? どうすれば成功していた? やばい、飲み込まれる! 死ぬ!?」と、様々な思考が一斉に押し寄せるはずだ。それでも溺れたり死ぬことはない。サーファー人生の全てがこの瞬間のためにあったのだと思えるからだ。ここでも経験の全てを総動員して、冷静になり水面へと浮上する。そして生還したとき、きっと次の波のことを考え、今度はどうやって挑みかかってやろう、と想像しているはず。なぜならその先には、必ず一生に一度の奇跡があるからだ。サーフィンを極めた先には20フィート級の波との、歓喜に満ちた濃密な時間が待っている。
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