プレミアリーグの台風の目となるブライトンの中心選手
イングランド・プレミアリーグに昇格して6シーズン目を迎えているブライトンは、クラブ史上最高順位で終えた昨季の勢いそのままに、今季も開幕から好調を維持している。智将グレアム・ポッターが浸透させたポゼッションサッカーの完成度は高く、ビッグ6相手にもボールを保持し、華麗なパスワークでDFを崩してゴールに迫る姿が見られるほどであった。
しかし、6節終了後にトーマス・トゥヘルの後任を探していたチェルシーによってポッターが引き抜かれるという緊急事態が発生した。コーチングスタッフも引き抜かれてしまったことでクラブは後任探しに奔走し、最終的には昨季途中までシャフタール・ドネツクを率いていたイタリア人指揮官ロベルト・デ・ゼルビを招聘した。
デ・ゼルビはポッターと同じくポゼッションサッカーに拘りを持つ監督として知られており、ポッターの作り上げたサッカーを引き継ぐだけでなく、新たなステージに進化させることを期待されている。
ポッターが率いていたころまでのトロサールは、ウイングバックでの起用が多いのが特徴的だった。大外にポジションを取ることで幅を確保しつつ、ボールを持てばドリブルでの仕掛けで相手の脅威になっていた。またボックス内に飛び込んで自らゴールを決めることもあるなど、チャンスメーカーからフィニッシャーまで様々な役割をこなしていた。デ・ゼルビ体制でも立ち位置に大きな変化はないことが予想され、チームの攻撃の中心選手としてのプレーに期待がかかる。
育成の名門・ゲンクから羽ばたいたベルギーリーグ最高のアタッカー
トロサールはベルギー代表GKティボー・クルトワやベルギー代表MFケビン・デ・ブルイネらを輩出し、「育成の名門」と呼ばれているゲンクの下部組織出身の選手だ。2012年5月12日のゲント戦でトップデビューを飾ったが、継続的に出場機会を得ることができなかったため、その後は2部へのローン移籍を繰り返している。
2013年1月に加入したロンメルでは公式戦13試合で7得点を記録した。その後ローン移籍したウェステルローでもインパクトを残すと、14年夏にロンメルへ再ローン。ここで41試合17得点と大活躍したことで評価され、翌年には1部のルーヴェンへとレンタル移籍をしている。1部の舞台で31試合9得点と結果を残したことで、ゲンクへと復帰した。
初年度から52試合9得点6アシストを記録するなど、ゲンク復帰以降は攻撃の中心選手としてプレーしていた。翌年は負傷によって出場試合数が大幅に減ったが、出場した試合では常に相手の脅威になるなど前年の活躍がマグレではないことを証明した。2018/19シーズンには47試合22得点11アシストという圧巻の成績を残し、リーグ優勝の原動力となっている。自身もベルギーリーグ最高のアタッカーとして評価され、国外のクラブからの関心も囁かれるようになった。
2019年夏には自身初の海外挑戦を決断。移籍先はプレミアリーグの中堅クラブであるブライトンで、獲得に費やされた移籍金は2000万ポンド(約32億円)と言われている。ブライトンでも即座にレギュラーを獲得すると、得意のドリブルでチームの崩しの切り札として貢献している。ポッターの下でオフザボールや状況判断の改善や、主戦場としていたサイドだけでなく中央でのプレーを経験することでプレーの幅を広げるなどといった成長も経験した。2021/22シーズンの終盤には決定的な仕事を連発し、クラブ史上最高順位でのフィニッシュの立役者の一人になっている。
ドリブル突破からのチャンスメイクが強力な武器
高いボールテクニックとアジリティを武器としており、ドリブルで相手守備陣を切り裂くアタッカーだ。細かなボールタッチで相手の重心を揺さぶり、逆を突いて抜き去るドリブルを得意とするほか、狭いスペースであっても巧みにボールを隠して奪われないキープ力も持ち合わせている。
本職はサイドアタッカーだがブライトンではトップ下や2トップの一角として起用されることもある。どのポジションであっても行うプレーは変わらず、足元にボールを呼び込み、飛び込んでくるDFを剝がしてのチャンスメイクや、カットインシュートでゴールを脅かす存在だ。
以前は状況判断や守備強度が課題とされていたがブライトン加入後は大きく改善されている。球離れの悪さから生まれる不用意なボールロストの回数も減り、守備強度に関してもウイングバックでの起用に耐えられるレベルまで向上している。
ベルギー代表期待のスーパーサブ
2020年9月5日にベルギー代表デビューを果たしている。序列も決して高いとは言えず、そのため国際大会の経験は浅い。昨夏に行われたユーロ(欧州選手権)でもわずか1試合の出場に留まっている。
一方で直近のUEFAネーションズリーグでは6試合全てに出場するなど、以前と比較すると序列を上げている。スタメン出場こそ2試合ながら6月9日のポーランド戦では2得点を記録しており、スーパーサブとしての立ち位置を確立しつつある。しかし、スタメン奪取のハードルは同ポジションのライバルが代表のエースであるエデン・アザールということもあってかなり高い。だが、アザールはレアル・マドリードで苦しんでおり、コンディション次第では2022 FIFAワールドカップ カタール(カタールW杯)での活躍の可能性もあるだろう。
(文・加藤亮汰)