王者・バイエルンからドルトムントに加入

ズーレが所属するドルトムントは、ドイツ・ブンデスリーガの強豪だ。今夏、昨季まで監督を務めたマルコ・ローゼの解任を発表し、後任として招へいされたのは2020-2021シーズン途中から半年ほどチームを指揮し、DFBポカール優勝を成し遂げた名将エディン・テルジッチだった。新体制に切り替わり、バイエルン・ミュンヘンの連覇阻止を目標にして臨んだ今季だったが、現在のリーグ順位は5位とやや苦戦気味。それでも10月8日に行われたバイエルンとの直接対決では、アントニー・モデストのアディショナルタイム弾で勝ち点1をもぎ取るといった粘り強さを見せた。格下相手の取りこぼしが少なくなれば、リーグ優勝の可能性も出てきそうだ。

ズーレは今夏、5シーズンを過ごしたバイエルンを離れ、フリーでドルトムントに加入した。開幕当初はケガで出遅れたが完治後は徐々にチームにフィットし、現在はセンターバックと右サイドバックの二つのポジションでレギュラーとして起用されている。昨季まで不安定さが見られたドルトムントの最終ラインだが、今季はズーレの加入もあり安定感が増している印象だ。

2度の大きなケガを乗り越えブンデスリーガのクラブで躍動

ドイツのフランクフルトに生を享けたズーレは3歳年上の兄と一緒にサッカーを始めると、11歳でアイントラハト・フランクフルトの下部組織に加入。その後はダルムシュタットを経てホッフェンハイムのユースに渡った。さらにU-16からドイツの世代別代表に選ばれ続けるなど、世代屈指のタレントとして知られるようになり、2013年5月には17歳の若さでトップチームデビューを飾った。

その翌年となる2013-2014シーズンにはセンターバックのレギュラーポジションを確保し、リーグ戦25試合に出場。プロキャリアを順調に歩み始めたように見えたが、2014年の年末に前十字靭帯断裂の大ケガをしてしまう。半年以上の離脱を経て復帰を果たすと2015-2016シーズンにはキャリアハイとなる33試合に出場し、不振に陥り残留争いに巻き込まれたチームにおいて、個人としての評価を大きく上げた一年となった。

またこのシーズン途中には、世界屈指の若手指揮官として知られ、現在はバイエルンを率いるユリアン・ナーゲルスマンがホッフェンハイムの監督に就任した。ナーゲルスマンはズーレの才能を高く評価する一方で、ビルドアップが課題だと指摘。するとナーゲルスマンの徹底した指導もあってズーレのビルドアップは大きく改善し、攻守に渡って貢献できるセンターバックへと進化を遂げた。ナーゲルスマン体制のホッフェンハイムは2016-2017シーズンにリーグ戦4位と大躍進を遂げ、ズーレもその立役者の一人に。国内外のビッグクラブから注目を集めるようになり、2017年にはバイエルンへの移籍が決定した。

ドイツ代表でもコンビを組んでいたマッツ・フンメルス、ジェローム・ボアテングとのローテーションで、バイエルンでの加入初年度にリーグ戦27試合に出場したズーレにとって、さらなる飛躍を遂げたのが2018-2019シーズンだ。大きく期待される中で絶対的なレギュラーとしてシーズンを戦い抜くとDFリーダーとしての地位を盤石なものにし、バイエルンにおける最終ラインの世代交代を印象付けた。

バイエルンに加入してから常に安定したパフォーマンスを見せ、今後10年はチームのDFラインを支えていくかに思われたズーレだが、2019-2020シーズンの序盤に再び前十字靭帯の断裂に見舞われ、このケガが後のキャリアに大きな影響を与えることになる。戦線を離脱していた約10カ月の間にボアテングが復調を果たしレギュラーに返り咲くと、オーストリア代表DFダビド・アラバのセンターバックコンバートや2019年夏に加入したフランス代表DFリュカ・エルナンデスの台頭もあり、チーム内でのズーレの序列は低下。復帰後もなかなか負傷前のようなパフォーマンスを取り戻すことができず、ドルトムントへの移籍を決断した。

圧倒的なパワーと対人守備を得意とするセンターバック

恵まれた体格を持ち、圧倒的なパワーを活かした対人守備を得意とするセンターバック。アジリティには欠けるもののトップスピードはかなり速く、速さ自慢のアタッカー相手に追いついてボールを奪うシーンもちらほら。空中戦にも強く、当たり負けすることはほぼないと言える。

攻撃参加もズーレの魅力だ。ナーゲルスマンに鍛えられた高精度のパスでビルドアップを行う。また最終ラインからドリブルを開始してボールを持ち上がり、目が覚めるような強烈なミドルシュートを放つ積極性も持ち合わせている。

一方、試合中に突然集中力が切れてしまい、自身のマークを見失ったりボールウォッチャーになったりして失点の原因をつくってしまうことが多々あるのは弱点か。

カタールW杯ではドイツ代表のディフェンスリーダーを担う

2016年8月にドイツ代表デビューを飾った。2018 FIFA ワールドカップ ロシア (ロシアW杯)でチームが惨敗した後にレギュラーを獲得するも、自身の怪我やフンメルスの代表復帰もあってUEFA EURO 2020はわずか17分の出場に留まった。

その後は再びレギュラーに返り咲いて多くの公式戦に出場している。現監督のハンス=ディーター・フリックからの信頼は厚く、FIFA ワールドカップ カタール2022(カタールW杯)ではDFリーダーとして活躍するズーレの姿が見られそうだ。

(文・加藤亮汰)