11月20日に開幕するFIFAワールドカップカタール2022。ベルギー、クロアチア、カナダ、モロッコが同居するグループEを展望する。

本命◎:ベルギー
対抗◯:クロアチア
3番手▲:カナダ
蓮下△:モロッコ

ベルギーとクロアチアが軸。ジャイアントキリングは起こるのか?

前回の準優勝国クロアチアと3位のベルギーが入ったことで注目を集めるが、順当ならこの2カ国が抜ける公算が極めて高い。北中米カリブ海予選でアメリカやメキシコを差し置いて首位突破を果たしたカナダがひょっとしたら穴を開けるかもしれないが、何しろ世界の舞台で経験値が足りないので、一角を崩すようなら大きなサプライズになる。

モロッコはアフリカ予選で突破に導いたヴァヒド・ハリルホジッチ氏が、日本代表を率いていた前回に続き、直前で解任されてしまった影響は大きい。元モロッコ代表DFのワリド・レクラギ監督が後任を引き受けたが、経験も実績も不足しており、かなり心許ない。ハリル解任に伴い代表復帰を果たしたMFハキム・ツィエク(チェルシー)やDFノゼア・マズラウィ(バイエルン・ミュンヘン)と言ったビッグネームはいるが、いきなりクロアチア、次いでベルギーと続くので、3試合目を待たずに敗退が決まってしまうリスクも少なからずある。

逆に言えば初戦でもしクロアチア相手にジャイアントキリングをやってのければ、一気に乗っていくポテンシャルも秘めている。4-1-4-1をベースに、アンカーのソフィアン・アムラバト(フィオレンティーナ)が攻撃にガイドラインを与え、ティエクが前線のワイドでアクセントになる。そこサイドバックからマズラウィや超攻撃的なアクラフ・ハキミ(パリ・サンジェルマン)が攻め上がれば、厚みのある攻撃になる。

それでもチームとしての構成力ではズラトコ・ダリッチ監督が前回から引き続き率いるクロアチアが断然上だ。司令塔のルカ・モドリッチ(レアル・モドリッチ)は37歳にして健在どころか、前回以上に生き生きしている感すらある。今回のW杯は欧州主要リーグ戦中断期間に行われるので、それだけ準備に与えられる時間は短いが、選手個人のコンディションは比較的良いことが予想される。クロアチアはモドリッチをはじめとして、ディフェンスリーダーの33歳DFデヤン・ロヴレン(ゼニト・サンクトペテルブルク)、左サイドアタッカーのイバン・ペリシッチ(トッテナム)など、主力に年齢の高い選手が多い。その意味ではシーズン中の開催はありがたいかも知れない。

おそらくモロッコのフィロソフィを考えても、徹底してクロアチアの良さを消すような戦術は取ってこない。組織的な構成力だけでなく、ゲーム運びもクロアチアの経験が上回るはず。ただ、モロッコは一発を秘めるタレントが多く、良い位置で直接FKのチャンスを得れば、ティエクなどキックの名手が揃うので、できれば早い時間に先制点を奪って、そうした一発の落とし穴にはまるリスクを回避していきたい。

初優勝が期待されるベルギーにとってカナダは侮れない相手だ。同国の女子代表で評価を高めたジョン・ハードマン監督がエネルギッシュなムービング・フットボールを作り上げており、バイエルン・ミュンヘンでは俊足の左サイドバックとして名を上げたアルフォンソ・デイヴィスが、カナダでは3-4-1-2のトップ下として、オフェンスリーダーを担っているのは興味深い。ベルギーは中盤の戦術マスターであるケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)を中心に幅広いパスワークから局面で個の打開力も織り交ぜてくる。カナダにとっては、ベルギーを相手にまともにやり合うのは厳しいが、粘り強く戦いながら機を見てアタッカーの走力を前面に押し出して、ディフェンス陣の平均年齢が高めのベルギーに反転攻勢をかけたい。

3戦目のベルギーvsクロアチアはグループステージ屈指の好カード

2試合目はベルギーとモロッコ、クリアチアとカナダが対戦するので、順当な結果が続くと、2試合でこの組の決着が付いてしまう可能性もかなりある。ただ、個人能力の高いモロッコ、運動量と攻撃陣のスピードが自慢のカナダが、それぞれの強みを発揮して、ここで勝ち点1でももぎ取ることができれば突破の希望も出てくる。3試合目はベルギーとクロアチアの試合がグループステージ屈指のカードとして注目を浴びるだろう。

ベストメンバー激突を想定するなら、やはりモドリッチとデ・フライネというワールドクラスの司令塔対決が最大級に見所で、世界レベルでも規格外のベルギーFWロメル・ルカク(インテル)と急成長中のCBヨシュコ・バルディオル(ライプティヒ)の対戦など、ポジションで当たるマッチアップ面白いが、接戦になってくれば交代カードも重要性を帯びてくる。

ただ、両国が先の2試合ですでに突破を決めているのか、まだ決まっていないのかで3試合目の重要性も、選手起用も変わってくるかもしれない。もう一つの3試合目カードであるカナダとモロッコが突破の可能性を残していれば、勝った側がベルギーとクロアチアの負けた側を逆転して突破というケースも考えられるグループだ。

文・河治良幸
 

写真:ロイター/アフロ