すでに「ドーハの奇跡」とも呼ばれ始めている一戦を経験し、サッカー日本代表の選手たちはそれぞれに感じたものがあったことだろう。

 2大会前のワールドカップ王者であるドイツ代表を逆転で打ち破ったことで、何かをつかみかけている。そんな選手の1人が、MF田中碧だ。

「『もっと上手くなりたいなあ』という純粋な気持ちを、サッカーをして久々に感じました。それはすごく新鮮だったし、心地いいというか、少年に戻ったような感覚。嬉しかったなと」

 ワールドクラスの選手ばかりが揃うドイツ代表に勝つのは、決して簡単ではなかった。前半は圧倒的に支配され、PKで失点も喫した。後半は4バックから3バックへのシステム変更や選手交代などでやや持ち直したものの、全体を通してみれば日本代表が主導権を握った時間帯はごくわずか。2-1というスコアは、確かに「奇跡」に近いものだったと言えるだろう。

 勝ったことで感じられるものがたくさんある。負けた時に得られるものより、勝った時に得られるものの方がはるかに多いのだ。田中がピッチ上で体感したドイツ代表のレベルやクオリティが、さらなる成長への意欲を強く刺激している。

「ああいう舞台でもっと何かやりたいな、と。前半は圧倒的にボールを握られましたけど、ドイツ相手に圧倒的にボールを握れるチームにしたいと思うし、個人としてもとんでもない選手になりたいなと感じたので。

上を目指してはいるものの、あまりそういうものを感じることはなくて、久々にそういう気持ちにさせられた。自分としてもそういう感情になるんだという驚きもあった。今はワクワクしています」

 初めてのワールドカップの最初の試合に臨むにあたって感じていた重圧から解放されたこともあってか、田中の言葉には晴れやかなエネルギーが溢れていた。

「ワールドカップという舞台がそういう気持ちにさせてくれたのかもしれないし、ドイツ代表という相手だからそういう気持ちになったかは、わからない。けど、今までにはない感情であったのかなと思います」と、新たな発見を心の底から楽しんでいる少年のような輝き。どれも前向きで、その場にいたからこそ出てくる言葉ばかりだ。

「(ドイツ代表は)上手いし、強い。対等に戦えたかというと、そうではない。(勝利という)結果はもちろんありましたけど、もっと対等にやり合えるようにならなければいけない。勝つ負けるではなく、内容のところで、自分がしたいことを思い切りぶつけて、それでどう返ってくるか、というところまでいかなきゃいけないなと。今すぐに行けるわけではない。1年後にあり得るのかはわからないですけど、それをずっと目指し続けてやらなきゃいけないなと感じています」

 チームとしても個人としても、ドイツ代表のレベルに達したい。今はブンデスリーガ2部でプレーしているが、カテゴリを上げて、1部リーグの舞台でドイツ代表選手たちと対等に戦いたいという野心もさらに大きくなったのではないだろうか。

 まだ見ぬ高みに到達するために。必要なものは「全部」。欲張りかもしれないが、ワールドカップのピッチで感じた差を埋め、超えていくためには何事にも貪欲になる他ない。

「フィジカルも、技術も、頭の中も、全部必要だと思います。結局、サッカーはフィジカルが5、6割を占めると思うので、そこの底上げは間違いなく必要。そのフィジカル状況での技術と頭というのは、より高いものが求められると思います」

 ドイツ代表の基準を体感したことで、目指す場所はより明確になった。「もっと上手くなりたい」という心の底からの欲求を前に進み、階段をのぼるためのエネルギーに変えて、田中は「とんでもない選手」というまだ見ぬ境地を追い求めていく。

(取材:元川悦子、文・構成:編集部)

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