カタール・ワールドカップのグループリーグ初戦で日本代表は4度優勝のドイツを相手にリードを許しながら、終盤怒涛の追い上げで2-1の逆転に成功した。

 歴史的な逆転勝利に沸いた日本に対して、ドイツはまさかの敗退に意気消沈。次戦スペインに勝利できないと2大会連続となるグループリーグ敗退となる可能性が高い。ドイツ人ジャーナリストは日本戦をどのように見たのだろうか。ブンデスリーガ公式サイトで記者として活躍するカロル・ヘアマンに話を訊いた。

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――日本対ドイツの結果について、率直な印象を教えてください。

「日本が難しい相手になるというのは、試合前からわかっていた。多くの選手がブンデスリーガでプレーしているし、激しい試合になるだろうと予想していた。ドイツが負ける可能性だってあるとは思っていた。ただ、改めて試合展開を考えると、序盤からかなり一方的な流れをドイツが作れていたし、試合の主導権を握っていたので、こうした試合結果になったことには驚いている。

 正直、10回対戦したら8回はドイツが勝つような試合展開だったと思う。全体的にもっと互角な戦いを想像していたし、それだけにあの試合展開であの試合結果になったことに驚いている」
 

――たしかに65分頃まではドイツが優勢でしたし、多くの専門家が口にしていたように、あれだけチャンスがありながら2点目が取れなかったのが問題だったというのはあるのではないかと思います。一方でドイツが1点リードしていたのは変わらないので、あそこで無理をせずにもう少しゲームをコントロールして、守備への比重を高めてカウンター狙いに切り替えるという選択肢を取る必要もあったのでしょうか?

「2点目を決めるのが重要だったというのは間違いない。十分なチャンスはあった。数字で見たら、ドイツは全てのデータで大きく上回っていた。シュート数は26本対12本だし、ボール保持率は75%。日本は序盤にゴールがオフサイドとなったカウンターからの場面以外はゴール前に持ち込めていなかった。だからこそ2点目を決めなければならなかった。

 個人的にターニングポイントとなったのは(イルカイ)ギュンドアンの途中交代だと思う。そこから守備と攻撃に問題を抱えるようになってしまった。パスの出口が無くなってしまった。チームとしての構造が乱れ、その直後に日本のチャンスが生まれたことにもつながっている」

――ギュンドアン交代が問題になったというのは話題に上がっていますが、それでもピッチ上には多くの経験豊富な選手が残っています。チャンピオンズリーグでいつもプレーしている選手ばかりです。ギュンドアンが交代した後、流れがいまいい感じではないというのに気づいて、自分たちで修正してというのはできなかったのでしょうか?

「例えば落ち着けるためにボールを自分たちでキープし続けることはもちろん重要だ。でも持ち続けることは簡単ではないし、堂安(律)、浅野(拓磨)というスピードがあり危険な選手が途中で入ってきた時間帯でもあった。ただ正直、浅野があそこまでのプレーを見せるとは思ってもいなかった。ケガで長期離脱していてブンデスリーガでも復帰できなかった。それがワールドカップで突然出場して、あんなすごいプレーを見せるとは。

 いずれにしてもドイツサイドにとっても簡単な時間帯ではないのはわかるが、それでも日本にプレスをかけ続けることが重要だった。彼らに余裕をもってボールを持たせてはいけなかった。ドイツは守備に問題を抱えている状態だった。(ヨシュア)キミッヒや(ジャマル)ムシアラというボールを持てる選手がいた。本来、(ニコ)シュロッターベックや(ニクラス)ジューレだって、ビルドアップで上手くパスを回せる選手だが、起点がなくなったことで不安定になってしまったのは否めない。それだけに交代選手で構造が乱れたという事実は残る。

 あと、ムシアラは私からしたらドイツで一番優れた選手。交代させるべきではなかった。ゴールを決めるのは時間の問題というところだったと思うんだ」

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――これまではドイツサイドからの視点でしたが、日本のパフォーマンスについてはいかがですか? とくに印象に残ったところは?

「試合全体的にみてまず言えるのは、60分過ぎまでのチームパフォーマンスにはがっかりさせられたというのはある。でもそこから終盤へのパフォーマンスは素晴らしかった。スピードのある選手を両サイドに配置して突破を図り、ドイツの選手間にあるスペースに入り込んで起点を作り、1-1になる前にもビックチャンスがあった。

 日本はドイツの弱点を意識的に狙ってきていたという印象がある。ドイツの弱点は両サイドバックのポジション。1点目は外からうまく中に運ばれて崩されての失点。2点目も素早いFKからサイドを生かしての得点だった。もちろんドイツのミスがいくつも重なったという側面もある。ジューレ、シュロッターベック、ノイアーそれぞれにミスがあった」


――ドイツのメンタリティについてはどう思われますか? ここ最近の国際舞台で難しい試合や展開が続いています。強い時代のドイツというのは難しい状況でこそ、我慢強く、あきらめず、解決策を見出して、結果に結びつけるというのがあったと思いますが、1-2となったあとに同点へ持ち込む手段はほかにまったくなかったのでしょうか?

「2失点目を喫してからはそこまで時間がなかったというのは痛かった。(ユスファ)ムココと(ニクラス)フュルクルクという2人のフォワードを投入したのは理にかなっているし、空中戦でも武器になる二人だ。正直、吉田(麻也)が弱点になると思っていた。シャルケではかなり苦しんでいるし、そこを突いていければとチャンスは作れると思っていたのだが。

 ただメンタリティに関してはいまでも優れていると思う。7選手がバイエルンでプレーしている。彼らはいつでも強靭なメンタリティで数々のタイトルを獲得している。ギュンドアンはマンチェスター・シティでキャプテンを務めているし、(カイ)ハベルツや(アントニオ)リューディガーだってチェルシーでチャンピオンズリーグに勝っている。

 日本に負けたことでチームが追い込まれているのは確かだ。次のスペイン戦に勝たなければならない。引き分けでもグループリーグ敗退を意味する。スペインはドイツにとって苦手な相手だ。でも可能性はある。パフォーマンスのすべてが悪かったわけではない。日本戦で60分までのプレーを見たら、3-0で勝っていてもまったく不思議じゃなかった。スペインに勝利するチャンスはある。試合全てが悪かったわけではない。希望を持てるパフォーマンスだったのは間違いない」

取材・文●中野吉之伴