【識者コラム】チームの若返りや采配の精度維持は森保監督の続投ならでは

 森保監督率いる日本代表は3月24日にウルグアイ代表と対戦し、前半に1点を先行されたが、後半に西村拓真のゴールで同点に追いつき、そのまま1-1のタイスコアで試合を終えた。

 試合後、ネット上にはファンから「試合がつまらない」という声があったという。また、すでに「森保一監督限界説」なるものが流れているらしい。批判に晒されるのが代表監督の常とはいえ、あまりに極端な意見ではないだろうか。

 まず、「試合がつまらない」という意見については、当然だと思う。森保監督は「花より実を取る」監督だからだ。強豪国相手に素晴らしい攻撃から3点を奪ったが、4点取られて負けてしまった、というのは森保監督の戦い方ではない。

 それに日本代表チームに求められるのは、何より「勝利」。だからこそ、カタール・ワールドカップ(W杯)でドイツやスペインに勝った試合が称賛を集めたのだ。

 また、たしかにこの試合ではいくつもの問題点があった。だが問題点がないゲームはないし、まして新しくチームを作り上げようとしている最初のゲームで、ぎこちない部分があっても当然だと言えるだろう。

 何より今回のゲームの中では森保監督が現時点での問題点を解決しようとする意図は十分に汲み取れた。その点について検証しておこう。

■1:チームの若返りを図る

 2022年のカタールW杯初戦のドイツ戦で日本の先発DF陣は酒井宏樹(32歳)、板倉滉(25歳)、吉田麻也(34歳)、長友佑都(36歳)。そして今回のウルグアイ戦は、菅原由勢(22歳)、板倉滉(26歳)、瀬古歩夢(22歳)、伊藤洋輝(23歳)。平均年齢は31.75歳から23.25歳と、8歳以上も若返った。

 思い切った選手起用だが、これが奏功すれば次回、次々回のW杯までの骨格を作ることができる。しかも現時点なら、不安がある試合についてはベテランをワンポイントで使えばいいという状況でもある。

 守備の組織作りは進めなければならないが、この時点で大胆に試すというのは、目の前の勝利よりも大切なことになるだろう。

■2:ボールを保持して主導権を握る

 ウルグアイ戦での日本のボール保持率は53.5%と相手を上回ることができた。もちろんウルグアイのコンディションと、ウルグアイ自身も新チームの立ち上げであること、プレースタイルなどを考慮しなければならないが、ゲームを支配しようという意図は伝わってきた。

 慎重にボールを保持しようとした結果、上田綺世の鋭い動き出しにパスが出せないという問題点はあった。もっとも、試合後に選手たちが明かしたように、濡れたピッチと濡れると滑りやすいボールという条件がもっとよければ、さらに落ち着いてボールが回せたかもしれない。

コロンビア戦ではさらなるテストと成果、勝利が必要

■3:戦術のオプションを作る

 ウルグアイ戦で日本はサイドバック(SB)をインサイドに動かし、両翼の選手に角度の付いたボールを供給しようとした。両ウイングの突破力を生かそうとした時に、これまでのボランチ、両センターバックからの配球以外のオプションを作ろうとしていた。

 伊東純也は「パスを受ける位置が低かったりして、SBが中に入った時に効果的に受けられていなかった」という問題点の解決方法を自ら示したが、新たな戦術とともにその修正を試合中に行えるようになっているというチームの成熟度も見えてきた。

■4:采配の精度を維持する

 森保監督の采配の精度の高さはカタールW杯で明らかになった。それまではどの時間帯で交代させるか、誰から誰に交代させるか、パターンナイズされているように見えていたが、すべては本番での起用方法を探るための方策だった。

 では、この日の采配はどうだったか。後半16分に伊東純也、上田綺世を投入し、そこからすぐに2人のワンツーでゴールに迫ることが出来た。また後半29分に投入された西村拓真はその1分後に同点ゴールを奪っている。

 そして、この4点が新生日本代表の初戦でできたというのは、監督を代えなかったことのメリットだ。もしも新しい外国人監督がきて采配を振るうことになっていたら、まずは選手を自分の目で見て、自分の戦術の基本を伝えることだけで終わっていたはずだ。今回も全員が集合してから試合までは3日間しかなかったのだから。

「限界論」を唱える人は、この3日間でもっと多くのことができたと考えているのかもしれない。たしかにその可能性はあるのだろうが、実際に成果を出した人が言わなければ机上の空論にもなりかねないだろう。

 もちろんこの成果だけをもってして「よし」とは言えない。次のコロンビア戦ではさらなるテストと成果と「勝利」が求められる。(森雅史 / Masafumi Mori)