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 去年、自主廃業した中小企業はおよそ3万。なんと、その内49%が黒字経営だったという。多くの客に愛され、儲かっているにも関わらず、後継者不足を理由に廃業を選択してしまう中小企業が今、急増しているというのだ。19日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、この"黒字廃業"に迫った。

■老舗カレー店「体力的にあと5年で無理だろうな」

 群馬県高崎市にある老舗カレー専門店「カリーのからゐ屋」。地元住民から愛される人気店で、13種のスパイスと鶏ガラスープをアレンジした、こだわりの「インド風スープカレー」が自慢だ。しかし、店主の宮内信正さん(74)は「体力的にあと5年で無理だろうなと自分では思っている。しょうがない」と漏らす。

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 「寂しいです。自分が継ぎたいくらいです、教えてください」という常連の若者もいるが、毎朝8時から行う150人分のカレーの仕込みなど、体力的に店を続けることが厳しくなってきていると感じているのだ。宮内さんには娘もいるが、継がせる気はないという。

■創業から150年、造り酒屋の女将「後継者が現れなかった」

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 千葉県のある造り酒屋も、来年幕を降ろす中小企業のひとつだ。創業から150年、天然の湧き水を使用した昔ながらの製法で酒を作り続け、安定した経営を続けてきた。匿名を条件に取材に応じてくれた女将(74)は廃業を決めた理由について、5代目だった夫が他界したこと、3人いる息子がすでに他の仕事に就いており、後継者が現れなかったことを挙げる。「嫁として続けられなかったという申し訳なさはある」と残念そうに話していた。

■あの岡野工業社長「何も未練はない」

 墨田区にある岡野工業は従業員3人の小さな町工場ながら、世界に名の知られる、年商8億円の優良企業だ。30もの特許を持っており、大手自動車メーカーの部品製造を受注する。13年前には大手医療メーカーから依頼され、蚊が血を吸うための口器と同じ太さ3ミクロンの注射針を開発。「痛くない注射針」として、赤ちゃんや糖尿病患者のインシュリン注射などに使われている。この注射針をつくれるのは、世界でも岡野工業だけだという。

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 小泉総理も視察に訪れた、日本が誇るものづくりの技術を持つ岡野工業も、後継者問題に直面している。岡野雅行氏社長には2人の娘がいるが、ものづくりには興味がないという。誰かに継がせる予定もなく、現在84歳の岡野社長が85歳になった段階で廃業することを決めた。

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 岡野社長は「跡取りがいないってのは悔しいよね。でもやりたいこと全部やった。何も未練はない。あとは趣味の車に乗って」と笑う。「技術屋、職人って、ほとんどいなくなるだろうね。だってうちの近所でもみんな辞めてっちゃうんだ」。

■「子どもに継がせるのは酷だと考える経営者も多い」

 中小企業とは、「中小企業基本法」の定義によると資本金の額または出資の総額が3億円以下、常時使用する従業員数300人以下(このいずれかを満たす会社および個人)となっている。また、後継者問題に関する企業の帝国データバンクによる実態調査では66.1%の企業が「後継者がいない」と答えているという。

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 後継者問題に詳しい株式会社ストライクの荒井邦彦氏は「20年前は事業承継・後継者といえば8割が身内だったのが、今は6割まで下がっている。黒字でも銀行から借り入れる場合があり、社長が連帯保証人になっているところが大多数。その状態で会社を子どもに継がせるのは酷だと考える経営者も多い」と指摘する。

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 岡野工業がある墨田区の「産業活力再生基礎調査」によると、現在500社が廃業を検討しているという調査結果が出ている。その流れに歯止めをかけようと、後継者を育てる活動を行う「フロンティアすみだ塾」では、現役のやり手経営者を講師に招き、講義やグループワークで経営者としてのノウハウを伝えている。

 塾生のひとり、田中康雄さんの実家は、大正5年創業の年商数億円の衣料品メーカーだ。現在4代目社長を務める父・康裕さんは、できれば3年後には康雄さんに社長の座を譲りたいと考えているというが「モノをつくる大変さを伝えるのがなかなか難しい。モノを作るというのは、その商品に心を込めること。それを分かってくれてるかな」と不安も漏らす。

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 康雄さんは月に2度ほど、車で3時間かけて福島県にある自社工場を訪れる。業界歴30年を超える工場長をはじめ、製造現場の先輩たちと信頼関係を築くのも後継者として重要な仕事のひとつだと考えている。「その歴史を背負うわけですから、変えられない部分だってあるわけで、やっぱり継ぐのがかなり重みとしてのしかかるときはある」と話す。

■岡野社長「大学出てからじゃもう遅い」

 町工場で働く職人や地方の中小企業が後継者不足に悩む背景には、大学全入時代が到来したこともあるようだ。つまり、大学に入り大企業を目指すというレールが当たり前になり、日本経済を支えてきた中小企業や町工場を担おうとする若者が少なくなったというのだ。

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 岡野社長も「今の教育じゃ無理。昔は中卒で職人になったから。大学出てからじゃもう遅い。学問で飯食うんじゃないんだから。修学旅行で"見学に来たい"っていう子は、学校が大嫌いで、学校からも"お前は来んな"って言われてる生徒たちなの。優秀な奴はお台場とかに行っちゃう(笑)。でも、みんなやる気は十分だったね。見た瞬間に"おじさん、これ1日に何本できんの?どのくらい売り上げるの?"って。"お前、税務署か?"って(笑)。でも、育成するのは難しい。教える技術を持ってほかに出ちゃう、じゃあ教えないほうがいいじゃないとなる。昔は学校出て、20歳までは年季奉公。その後はフリーエージェント。でも今だと、みんな技術を持って逃げていくからね。教える気にならないよ」と話す。

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 取材に当たった慶応大学特任准教授の若新雄純氏は「作るところで発明が起き、新しいものが生まれている。ものづくりの現場に人気があって若者が集まれば、その中で後継者も見つかる可能性がある。でも、"大学を出た後は現場ではなく、上流の仕事に就くのがいい"というトレンドで何十年もの間来てしまった」と指摘する。

■「新しいものが生み出せない社会になってしまう可能性」

 経済産業省・中小企業庁の試算によると、廃業する中小企業が増え、事業継承問題をこのまま放置した場合、2025年ごろまでに雇用は約650万人、そして国内総生産(GDP)は約22兆円が失われる可能性があるという。

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 若新氏は「経済の規模が小さくなること以上の問題に、技術の国としての空洞化が起きると思う。今まで開発してくれた職人さんたちの持っている技術は大企業が特許やマニュアルで持っているから、当分の間は再生産できると思う。しかし、どこかで必ずアップデートしないといけないのに、新しいものが生み出せない社会になってしまう可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 岡野社長は「うちに全部図面があるけど、役所に持って行って"みんなに配ってくれ"って言ったけど、予算がないって言われたよ(笑)。うちみたいな技術は、大企業でも絶対できる。人もいる。やればできるけどやらないだけ。もし失敗したら飛ばされたり、ボーナス無くなっちゃうって思うから、できないできないって言ってた方がいい。俺は何回も何回も失敗したよ。自分は学歴がないから技術で勝たないとダメだと思っているから、失敗を恐れずチャレンジできた。大企業もチャレンジしないとダメだね。先頭に立ってる人が犠牲になんなきゃ。自分だけがいい思いしようっていうのはだめ。それだけだね」と語った。


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