人手不足が叫ばれる日本。その救世主ともいうべき会社が、東京・墨田区の倉庫にある。その名も「MUJIN」。
ランチタイムの食堂を訪れると、「ロシア出身」「中国出身。東京大学卒業」と外国出身者が多い様子。「トルコから来た」という男性は「『MUJIN』でつくられている製品は世界を変えている。そのような企業に入ることが、自分のキャリアにとって新しいチャレンジだと思った」と話す。
世界を変えたいと優秀な人材が集まるMUJIN。社員の数は去年1月（40人）から現在までで2倍以上（95人）となり、急成長を遂げている。
MUJINは人手不足の物流業界に革新を起こした企業。ロボットの頭脳であるソフトウェアーを開発している。その技術についてCEOの滝野一征さんは次のように話す。
「私たちの脳がつくことでロボットが知能化される。特に物流業界は今までロボットの参入が難しいと言われていた。その物流業界の中にやっとロボットが参入してきた、それが私たちの現時点の強みかなと思っています」
なぜ、物流業界にロボットを導入することは難しかったのか。従来のロボットは、動きをプログラミングすることで決められた位置にある箱を繰り返し運ぶことは難なくできる。しかし、箱の向きや大きさなどが少しでも変わると同じ動きができなくなり、新たにプログラミングを追加しなければならない。特に物流業界では荷物の大きさや形のパターンが無数にあり、新製品も毎日入ってくるため、その都度プログラミングを追加することが不可能となりロボットの導入は諦められていた。
ところが、MUJINのソフトウェアーを使ったロボットを見てみると、横向きに置かれた箱や縦向きに置かれた箱、小さい箱から大きい箱まで運ぶことができている。
「今までは1から10まで教えなければならなかった。ペットボトルにキャップをはめるという作業は、人間に教えると『キャップはめといて』で終わり。しかし、ロボットに教える場合は『右手を30度上げて』『第二関節を40度上げて』『Ｘ方向上に300ミリ動かして』『キャップを今つかむ』と。これを工場でやったら大変でしょう」（滝野さん）
人間が無意識に行っている動作は、ロボットにとっては難しい作業。しかし、MUJINのソフトウェアーは人口知能（AI）を搭載しており、目であるカメラで周りの環境を理解。無限にある動き方の中から、瞬時に合理的かつ最適な動きを計算し導き出す。
この技術は「モーションプランニング」と呼ばれ、ロボット業界で実用化したのはMUJINが世界初。今やMUJINの技術は日本国内の企業はもちろんのこと、中国のネット通販大手JD.COMの倉庫にも採用されている。
世界で認められているMUJINの技術。開発したのは滝野さんとともに会社を創業した、最高技術責任者（CTO）のデアンコウ・ロセンさん。ロセンさんはアメリカのカリフォルニア大学バークレー校を首席で卒業した、世界的に有名なAIのスペシャリストだ。
「小さなころはゲームを作ることとかに興味があったが、大学に行ってからはもっと世の中を良くしたいと思った」と話すロセンさん。しかし、自分の技術をどんな分野に活かせば良いのかがわからなかった。
そんななか2009年、ロセンさんは滝野さんに出会う。
「彼のビジネスセンスにはかなり魅力を感じました。表だけを見るのではなく、モノがどういう風に成長していくのか、どういうお客さんを見つけるのか、ニーズに本当にあっているのか。何か始めるのであれば、一征と一緒だなと」（ロセンさん）
そう思ったロセンさんはその後、「自分の技術を使って一緒にビジネスをやらないか？」と滝野さんに熱烈ラブコールを送ったのだ。しかし当時、滝野さんはイスラエルの工具メーカーで働く優秀な営業マン。会社に不満はなく辞めるつもりもなかったという。
「ロセンがすごくしつこかった。大阪の家まで来るくらい（笑）。まさしく根負け。『一緒にやってくれ！』と言われても、『じゃ何やるんですか？』となる。技術があるだけで、何に使えるかわからない状態。そこから『探しに行こう！』となるんですけど、そんなあやふやでヤバイ話ないじゃないですか（笑）」（滝野さん）
その“ヤバイ話”を何とか聞いてもらおうと、2人は日本のロボットメーカーや自動車メーカーなどを訪ねるが、当時はMUJINという会社すらない。
「“一征＆ロセン”ですよ。漫才師みたいなもん。『何者やねん？』と言われても一征＆ロセンとしか言えない（笑）。そこで『新しい技術があるんですよ！』なんてますます怪しい話じゃないですか」（滝野さん）
門前払いの一征＆ロセン。そこで2人が向かったのがアメリカ。日本企業のアメリカ支店や工場なら話を聞いてくれると睨んだのだ。運転する滝野さんの横で、デモンストレーションのプログラミングを行うロセンさん。そんな中、ロボットメーカーや大手自動車メーカーの工場長ともアポが取れていく。
「新しすぎる技術なので、10社回ったら6社までは否定的。『私たちが40年やってきてできなかったのに、お前たち2人が出てきて何ができんねん？』という雰囲気ですよ。それを面と向かって言われる時もありますし、オブラートに包んで言われる時もありますし、本当に僕らのことを心配して言ってくれる人もいる。それが一番たちが悪いんですけど（笑）」（滝野さん）
ダメなのかと思われた2人だったが、日本に帰国して「話を聞きたい」という企業にデモンストレーションをしたところ、展示会への出展の話が舞い込む。そして2011年、2人はMUJINを創業した。
MUJINの技術が初めて実用化された、ランダムに入った工具を認識し、持ち上げ移動するロボット。ロボットには難しい作業で、時には部品を落とすこともあるが、失敗をロボットが自分で認識し仕切り直すという。
一征＆ロセンから始まったMUJINは、創業以来様々な賞を受賞。2016年には、経済産業大臣賞である「ロボット大賞」を受賞した。MUJINの技術は、今や個別の商品を箱に詰める作業まで可能になり、洗剤や歯磨き粉、カップラーメン、お菓子まで決められた個数を詰めていくことができるようになっている。
滝野さんはロセンさんとビジネスを始めた頃についてこう振り返る。
「（ロセンさんが）『ロボットが未来なんだ』『ロボットが世界を変えるんだ！』と、そこにかける情熱は他の人とは全然違った。彼となら成功するなとは思っていなかったが、失敗してももう一回できるかなと」
失敗を恐れず前に進む「MUJIN」は、これからも挑み続ける。
「すでに自動化されているものに焦点を当てるのではなく、まだ自動化されていないものに焦点を当てる。まだ自動化されていないということはハードルが高い。難しいから自動化されていないという課題に、今MUJINが挑戦しています」（ロセンさん）
「今まで自動化されなかったものが自動化できるようになり、人の単純作業が減る。人はもっとクリエーティブな仕事をやる。みなさんの生活を長年にわたってもっと豊かにするということが、私たちができる社会貢献」（滝野さん）
（AbemaTV／『けやきヒルズ』より）
▶【映像】MUJINの“脳”によって「自分で考える」ロボット
