望まぬ妊娠も…“真剣交際”なら未成年も性行為OK? 「条例だけでは不十分」の声も
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 「ネットやSNSの普及により、子どもが見知らぬ大人が親しくなり、性行為に及んだ場合に処罰対象にならないケースが出てきている」。そんな危機感から大阪府が2月議会に提案する、「青少年健全育成条例」改正案が話題を呼んでいる。

 改正案では、脅迫するなどして性的関係を結ぶような場合や、自己の性的欲望を満足させるための対象としてのみ扱っているような場合について規制の対象とする一方、「真摯な交際関係における性行為又はわいせつな行為は規制対象ではありません」との考えを取っている。

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 大阪で児童にかかわる性犯罪事件に携わっている奥村徹弁護士は「現行の条例にも欺瞞、威迫、困惑などの要件は入っていたが、普通に知り合って性行為に及んだ場合、ほとんどが検挙できない状況にあったため、僕は“淫行特区”と呼んでいた。今回の改正はそれらに加え、婚姻等を目的としない性行為一般を含めるというもので、すでにそうなっている他の県に揃えるということだ」と話す。

 これに対し大王製紙前会長の井川意高氏は「性的欲求を満たす目的ではない性行為というものが果たして存在するのだろうか。結婚をするということイコール真摯な交際になるのだろうか。フランスでは婚外子が過半数を超えているし、その意味では従来の大阪の方が先進的だったと言えるのではないか」と問題提起すると、奥村弁護士は「手段を限定して処罰範囲を明確にしたということであり、刑罰法規としては限定している方が分かりやすいと言えるのではないか。ただ、この条例そのものが保守的な家族観・結婚観を前提としているし、そもそも福岡県青少年条例違反の最高裁大法廷判決(昭和60年)で示された“みだらな性行為”の前提を元にしているので、その意味ではかなり古く、実情に合わないところもあると思う」と説明した。

■裁判所に“真剣交際”がジャッジできるのか?

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 そして、“真摯な交際”、いわゆる“真剣交際”を、誰が、どのように判断するのだろうか。街で話を聞いてみても、「そもそも交際って、真剣以外に考えられないと思う」(16歳の男女)、「将来結婚しようとお互いに決めているのが真剣交際というものなのではないか」(21歳男性)と、若者たちは困惑気味だ。

 この点について奥村弁護士は「真剣かどうかは裁判所が決めるし、真剣かどうかというのは定義することができない。最高裁の判例についても、結局はどのような行為が真剣交際にあたるのかは分からないし、他県の条例で真剣交際と認められた例が参考になるのだと思う。その典型的なものでは、神戸地裁尼崎支部の判決(平成29年)がある。17歳女性がアルバイト先で知り合った男性にクッキーや手紙を渡して、男性の方が交際を申し込んだ。その後、カラオケボックスで性行為をしているところをカラオケボックスの店員に見つかり通報されたものだが、これは真剣交際だと認められ無罪になった」と話した。

 すると井川氏は「学生時代(東京大学法学部在学中)、憲法学の権威・樋口陽一教授(当時)の卒業試験が“淫行条例について述べよ”というものだったが、権力が人間の内面に踏み込むことに嫌悪感を抱いている私は“はっきり言って罪刑法定主義に反するし間違いだ”と書いた。いつもは成績の悪い私が、このときだけは“優”だった(笑)」と回想。「そもそも全国の自治体で条例を作るくらいなら、国会で法律を作ればいいはずだ。しかしそれをしないのは、この問題が法律に馴染まない、法律で定めるべきではないものだと知っているからではないか」と指摘した。

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 井川氏の指摘を受け、深澤諭史弁護士も「本来は法律で決めるべきことであって、条例でバラバラ決めるのはどうかと思う」とした上で、「法律というものは“最低限”を定めるものだし、国は私的領域にどんどん踏み込むべきではないし、奥村先生の指摘通り、“真剣”について裁判所が審議することになるし、捜査もしなくてはならなくになる。それは“どちらから告白しましたか?ラブレターはどんな内容だったのですか?最初のプレゼントは何だったのですか?その後、食事はどこでしたのですか?”など、2人の交際について国家が尋ね、“国家の考える真剣はこうだが、この人たちの交際は真剣ではない”と裁判所が認定するということだ。もっと言えば、男女交際は真剣でなければダメなのか。そうではない価値観もあってよいはずなのに、それを国家あるいは地方が強制して良いのだろうか」と疑問を呈した。

 また、深澤弁護士は国が定める性的同意年齢が13歳で、結婚可能年齢が男性18歳・女性16歳となっていることについて、「同意年齢の引き上げは検討に値すると思う。そして結局のところ、処罰したところで女性や子どもの傷は癒えない。やはり教育によって十分に防ぎきれていないからこそ、真剣交際だったら良いのか・悪いのかという条例を作らざるを得ないのではないか。真剣交際であっても性病にかかることもあるし、望まない妊娠をすることもあると思う。それは真剣かどうかとは関係がないことだ」とも話した。

■未成年の性行為、幸せにつながらないケースも…

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 成人の世界でも難しい“真剣”の基準、そして価値観。そして未成年ともなれば、性行為によるリスクも付いて回る。「自分の中では2カ月くらい手をつないで、それから、みたいな感じ」(17歳女性)、「未知の世界すぎてあまりイメージが湧かないが、(交際開始から)1年は時間が欲しい」(19歳女性)など、考え方は様々だが、厚生労働省の「中絶の実施件数」(2018年度)によれば、年間の中絶件数16万1741件のうち、10代は1万3588件に上っており、未成年の真剣交際、そして性行為が必ずしも幸せにつながらなったというケースも少なくないのも事実だ。

 番組には「真剣にパパ活するのはいいの?交際や意味もよく分からない」「こんなことしたって10代は縛れない。避妊強化に力を入れた方がいいと思う」「無知な被害者のために無駄な法律を作らないでほしい。必要なのは教育だ」「男だが10代の時の真剣交際あっただろうか。好きだけど、やりたい気持ちが強かった気が」といったコメントも寄せられた。

 「通っていたライブハウスで仲良くなって、普通のカップルがするようなデートをしていた。向こうは常に金欠だったが、女遊びをするような感じではなかったし、本気だったと感じていた。私も真剣に交際しているつもりだった」。高校3年生の18歳の時、9歳上のバンドマンとの交際をスタートさせたまきさん(31)は、「避妊具なしの性行為」を要求され、付き合って半年で妊娠。「お金がないから堕ろしてほしい」と言われ、薬による中絶をした。19歳(大学1年生)の時にも妊娠(避妊具が破れていたため)し、再び薬により中絶した。

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 「揉めたりしたということはなかった。子ども自体は好きだけど、向こうが若干メジャーな事務所に入り、歳も歳なので“賭けたい”という時期だったので、ちょっとネックになってしまうと。その後、向こうはバンドの関係で難聴になってしまい、音楽を続けられなくなり地元に帰ってしまった。どちらかというと自然消滅みたいな感じで交際は終わった。私としては結婚を考えていたし、できれば子どもを産んだりもしてみたいと思っていた。ただ、やはり経済力の問題や、自分に精神的な未熟さがあって、完全に踏み切るには足りなかったかなと思う。周りの人から“止めなよ”と言われても、当時は好きで仕方なかったので、一直線になってしまう部分があった。自分は真剣でも、相手が本当に真剣だったかどうか、内心のところまでは分からない。やはり男性を見る目が足りなかったと思う」。

 10代の性問題に詳しいNPO法人「ぱっぷす」の金尻カズナ理事長は「性には“支配、快楽、生殖と、3つの側面があると思う。そのうち快楽だけが取り上げられがちだが、例えばデートDVという言葉があるが、それは支配の性であって、いわゆる真剣交際の中にも被害があるということだ。大人と子どもの年齢の格差、交渉力の格差には絶対的なものがあり、子どもが望んだから応じた場合でも、実際は格差の上に成り立っているということを前提にして考えるべきだ。真剣交際だからこそ断れない、断ったら振られてしまうのではないかと考える子は多いし、望まない妊娠や性感染症、撮影と称した児童ポルノの被害もある。不利益な立場に陥りやすいことは間違いない」と話す。

 その上で今回の大阪府の改正案については「子どもを処罰の対象にはしないと今回なっているが、補導の対象になってしまうというのは少し違うのかなと思う。緊急避妊ピルなどの処方など、妊娠を防ぐ施策が早ければ早いほど、体の負担が伴わずに済む。しかし、アフターピルは中高生にとっては高額だし、親になかなか言い出せずに時間がかかってしまうこともある。そういった意味で、補導よりも先に、望まない妊娠について相談しサポートを受けられるような仕組み作りを整えることが必要ではないか」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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