誹謗中傷を恐れ窓口にたどり着けない困窮者も…生活保護への無知・誤解がはびこる日本社会 「コロナ禍の今こそ国は情報発信を」
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 新型コロナウイルスに伴う営業自粛などによる収入減や失業で、経済的に困窮する人が増えている。一方、そんな人たちのセーフティネットである生活保護制度が縮小されていることをご存知だろうか。

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 厚生労働省は今月から一部受給者の減額(総額210億円)を実施。消費と支給金額を比較すると、全体の67%にあたる世帯が減額になる見込みで、都市部の家族世帯の場合、月に6000円減ってしまう計算になる。

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 「反貧困ネットワーク」代表世話人の宇都宮健児弁護士は「特に子どものいる世帯が引き下げられているが、実は今回だけではなく、国は2013年から平均6.5%、最大10%くらい削減してきている。しかも客観的な最低生活費を考えずに、財政的な困難を理由にしているのは非常に問題だ。健康で文化的な最低限の生活を維持するという国の責任を放棄した考え方だ」と批判する。

 妻と小学生の子どもの3人で暮らすナマポニーさんも生活保護費を減額された1人だ。新型コロナの影響でアルバイトを解雇され、貯金も底をついたため、3月から生活保護費を受給しながら就職活動をしてきた。「減額されたのは2~3000円なので、生活面や精神面への影響はそれほどないが、物価が上がると厳しくなるかもしれない」。

■「受給者が子どもを作るのは考えられない」「早く働けよ税金泥棒」ネットに渦巻く誹謗中傷

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 問題はそれだけではない。ナマポニーさんは同じような境遇にある人たちの支えになればと、Twitterで自身の生活を発信しているが、心ない言葉を浴びせられることもあるという。「“子どもを作るのは考えられない”とか、“子どもがかわいそう”とか。精神的に参ることもある」。

 収入が得られないという正当な理由があれば、生活保護の利用は国民に認められた権利だ。しかし、受給すれば批判の的になるのが日本の現実。ネット上では、“ナマポ”と揶揄され、「人間のクズ」「恥だと思わないの?」「早く働けよ税金泥棒」と、受給者を蔑む書き込みも後を絶たない。

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 「どう思っているのか友人とかに聞いたことがないし、話しにくい」。そう話すのは、保育士の櫻井さん(20代)。激務と家族とのトラブルが原因でうつ病を患い、3年前から生活保護費を受給している。「バッシングに遭うということも聞いていたので抵抗はあった。だけど選択肢がそれしかなかった」。

 恋愛や結婚など、将来の見通しにも不安を抱く。「自分のことを理解してくれる人がいるのかどうか。聞くことすら厳しい。一生死ぬまで独身なのかなって思ったりもする」。

■「受給できていない人が約80%にも上っている」

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 根底にあるのは、生活保護制度への誤解や、嘘の申告による“不正受給者”に対する不公平感だ。その額は、2017年度におよそ155億円にも達している。しかし全体の約3.6兆円からみれば、わずか0.4%であることも事実だ。また、生活保護費をパチンコなどのギャンブルに投じることが問題視されることもある。厚生労働省の調査(2016年)によれば、全国の自治体で、保護費の使いすぎなどを理由に3100件の指導・助言がなされている。

 宇都宮弁護士は「日本で生活保護を受ける権利のある人のうち、実際に受けている人=捕捉率は約20%だ。逆に言えば、受けられていない人が約80%にも上っているということ。本来、このことの方を問題にすべきなのに、なぜか0.4%の不正受給ばかりが報じられ、問題にされる。この風潮も問題だと思う」と指摘する。

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 また、「税金で生活をするのなら聖人君子のようでなければいけないと思っている人も多いかもしれないが、生活保護というのは権利だ。使いすぎは問題だが、生活保護費の範囲内でギャンブルをしようがお酒を飲もうが、基本的にはその人の自由だ。そういう裁判例もある。普通の人だって、ストレスがたまった時にはお酒を飲むことがあるだろう」と反論した。

■冷たい対応は自治体でも…「窓口に行くことすらできない人がたくさんいる」

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 生活保護受給者への冷たい視線は、自治体職員から向けられることもある。

 「僕の住む自治体の福祉課には、受給者をものすごく嫌っている人たちがいるみたいで…」。そう話すのは、リーマンショックの際にうつ病を患っていたことを理由に派遣切りに遭ったタルトさん(40代)だ。窮状を訴えても、担当者は取り合ってくれなかったという。

 「“働き盛りなのに、恥ずかしくないのか?”と言われた。そして“水際作戦”的なものだと思うが、出直してこいと。誰でも申請書をもらう権利があるはずなのに、もらえなかった」。自殺を考え遺書を用意していたところ、友人が自治体に連絡したという。「役所の人が慌ててやって来て、“診断書をもらって来なさい”と。それでやっと受給が認められた」。

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 生活保護費を受給しながら、状況を変えようとアルバイトの面接を受けているが、そこでも「保証人用意できるの?」「生活保護なんだから時給800円でいいんじゃない」といった心無い言葉を投げかけられるという。

 「コロナ禍で生活保護申請をしたいと考えている人も多いが、一方でこういう水際作戦が横行しているのも事実だ。そもそも生活保護というのは生存権を保障した憲法25条を具体化した制度。それを妨害するという役所の対応は大変な問題だと思っている」(宇都宮弁護士)。

■韓国では地下鉄に生活保護についての広告が

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 ジャーナリストの堀潤氏は「もちろん課題もあるけれど、僕の知っている受給者の皆さんからは“この制度があって本当に良かった”といった報告が寄せられる。やはり“生活保護受給者”という“大きな主語”で括られてしまいがちだが、どうすれば生活環境を整えられるのか、個々人によって特性が違う。“こういう職業訓練プログラムに”、とか、“こういう働き方だったら”といった話が行政と密にできるような仕組みを整備するべきだ」と訴える。

 また、紗倉まなは「私が年金を受け取れるようになる頃には支給額はものすごく低くなっていて、もしかしたら利用することになるかもしれない」、お笑い芸人のカンニング竹山は「生活保護はこの国の決まりだし、受けるのは権利だ。誰だって受給しなければならない状況になるかもしれない。それなのに偏見の満ちたバッシングや書き込みをしている人たちは無知だと思うし、恥を晒しているだけじゃないかと思う」とコメント。

 ハグ屋でえろ漫画家のピクピクン氏は「そもそも生活保護制度を知るためには、自分で調べるしかない。定額給付金も同様で、説明が足らなさ過ぎる。国はちゃんと“あなたがこういう状況になった時には、こういう制度があるんですよ”という説明をすべきだし、そこには予算を割いてもいいと思う」と指摘した。

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 宇都宮弁護士は「ドイツでは捕捉率が6割、フランスでは9割だが、それは恥ではなく、あたりまえの権利だという考えが浸透しているし、そのための広報と教育を徹底しているからだ。お隣の韓国でも、地下鉄に“生活に困ったら生活保護が受けられますよ”という広告がある。そういう社会が当たり前であって、特にコロナ禍の今、人の命を救うためにもそうした情報発信が大切だ」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

受給者と考える"生活保護は恥"バッシング論が根強いワケ
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