予測はまたも外れた? 大接戦の大統領選がこれからの共和党、アメリカの民主主義にもたらすものとは
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 トランプ大統領の劣勢、バイデン候補の優勢が伝えられる中で投開票を迎えたアメリカ大統領選挙。その大方の予想に反してトランプ大統領は多くの州で支持を守りきりバイデン候補を猛追。大接戦にもつれこんでいる。

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 日本時間の4日夕方に演説したトランプ大統領は、かねてから不正の温床になると主張してきた郵便投票について「我々は最高裁で争うことになるだろう。全ての集計を止めるべきだ。明け方に見つかった票を数えるようなことはやめるべきだ」と語り、法廷闘争に持ち込む構えだ。さらにホワイトハウスの前には1000人を超える反トランプ派や人種差別に抗議する人々がデモを行い逮捕者も出るなど、混乱も広がっている。

■夏野氏「娘に聞かれて、きっぱり“バイデン”とは言えなかった」

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 慶應義塾大学特別招聘教授の夏野剛氏は「今朝、家で中1の娘に“パパがアメリカ国民だったらどっちに投票するの?”と聞かれた。他人の国だと思えば、“民主主義は大事だからバイデンだ”と言えちゃう。でも僕はアメリカに住んでいたし、アメリカで学校も出ているから、他人の国だとは思えない。だから“バイ…”と出かけたけど、言えなかった」と明かす。

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 「確かにトランプ大統領のメチャクチャな政治に比べたら、やっぱりバイデンさんだろうとは思う。だけど再びポリティカリー・コレクトで綺麗ごとの政治に戻ること、社会福祉のために増税して…という大きな政府になって結果的に人々にツケが回ってくることを考えると、すんなり“バイデン”とは言えなかった。でも、外で他人に聞かれたら、“そりゃあバイデンだろう”と言ったと思う。アメリカの有権者たちも、出口調査で聞かれたら“バイデン”と言っておくのが無難だ。だけど心の底では、“つまらなさそうな大統領になっちゃっていいのかな”という気持ちもあったのではないか。この4年間、よく崩壊せずに国が持ったなと思う。それでも特に州の外にも出たことの無い人たちからすれば、“4年間、トランプも回っちゃったじゃん”みたいな思いもあっただろう。そういうところはマスコミは間違えてしまったのではないか」。

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 その上で、「これまでの大統領選で立候補してきた政治家は“ポリティカリー・コレクト”、言い換えれば、“建前”な人たちだった。しかしトランプさんは、それとは全く異なる人。本音をズバズバで言い、バイデン候補に対しても“sleepy Joe”などという侮蔑的な言葉を使う。ただ、真面目に国のことを憂いて、というよりも、トランプ大統領の言動を見ているとスッキリから、ということで投票した人もいたのではないか。実際、中国がこれだけ台頭しているのに、厳しいことを言える人はいなかった。IT業界にいる僕たちからすると、マーケットエコノミーの国でこれほどまでにファーウェイを排除するというのはありえない。でも、トランプ大統領はやっちゃった。中国には人権の問題もあるので、民主党政権になったとしても厳しい態度を取らざるを得ないと思う。トランプ大統領は国際問題にはあまり関心がないにも関わらず、そこを先回りしてやった。そういう仕掛け方も上手かったと思う」と指摘。

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 さらに民主党の候補者選びについては、「バーニー・サンダース氏よりはましだったが、バイデン候補では対立軸になり切れなかったのではないか。僕は同じ民主党でもオバマさんはすごくいい大統領だったと思う。とても良い人だし、演説もうまい。悪いところも無かった。でも、正直言ってインパクトはなかった。しかもポリティカリー・コレクトネス的に言えば、黒人だから面と向かって反論することができない。僕は“オバマの幽霊”と呼んでいるが、オバマという大統領がいたがゆえに、バイデン候補はつまんなく見えてしまった」と話した。

■“トランプ大統領でなければ満足できない人たち”が共和党の足かせに?

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 テレビ朝日平石直之アナウンサーは4年前の大統領選挙の際に現地で取材にあたった経験から、「ヒラリー候補の集会は行儀は良いがインパクトには欠けていた。一方、トランプ候補の集会は空港の格納庫で、本人が飛行機から降りてくるという演出付きでエンタメ感満載。熱狂、迫力、盛り上がりが全く違った。今回も、“コロナから復活した”というところで人々に訴えるものがあったのではないか」と指摘する。

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 「前回、ヒラリー候補が有利と言われる中でトランプ大統領が勝ったことから、世論調査も内容を改善させてきた。それでも今回、僅差ではあるがフロリダ州では世論調査とは違う結果が出るなどしている。FOXニュースの世論調査でも「あなたはどちらの候補者を支持しますか」と「あなたの隣人はどちらの候補者を選ぶと思いますか」と聞き方を変えると異なる結果が出ている。前回ニューヨーク州で取材をしていた時、トランプ支持を表明することが軽蔑の対象になっていたので“言わない”という、いわゆる“隠れトランプ”に会ったことを思い出した」。

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 また、今回の大統領選挙の様子を全米14都市で取材してきたジャーナリストの村山祐介氏は「やはり、トランプ大統領の元気さが支持者を勇気付けていた部分はあったと思う。退院して3日後にペンシルベニア州で開かれた集会を見に行ったが、寒空の下、70分にわたり演説を行い、『YMCA』に合わせて踊ってみせた。その模様は翌日の新聞で『Strong again』という見出しで報じられたし、“コロナに負けずに進んでいこう”という姿勢は、トランプ大統領の選挙活動ともマッチしていた」と話す。

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 「ただ、私はこれからの共和党が心配だ。共和党のベースは白人の保守層だが、2045年までにアメリカでは白人の人口が50%を割り込むと予想されているので、多様性に気を配り、支持層を広げていく必要が出てくる。一方で、トランプ大統領に熱い期待を寄せ、トランプ大統領でなければ満足できない人たちが相当いる。今回、約120人のトランプ支持者にインタビューをしたが、二言目には“トランプは本当のこと、俺たちが思っていたことを言ってくれるし、実現してくれる”と言う。今回の選挙の後、そこをどうしていくのかが大きな課題だろう」。

■「トランプ大統領を止めることができるのもまた民主主義なはずだ」

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 東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授(国際政治学)は「次の4年もトランプ大統領に、という人がこれだけいたということだ。もちろんトランプ支持を公言しない人もたくさんいたとは思うが、ただ、4年間も大統領をやっていたのに、いまだに”隠れトランプ”がいるというのもおかしな話だ。それだけ“自分は大統領を支持する”ということが堂々と言えない国になってしまっているというのが今のアメリカだということも認識しておくべきだと思う。また、今回の選挙結果の背景には、単に“トランプではダメだからバイデン支持だ”だけでなく、左傾化していく民主党ではダメだという有権者、逆にソーシャリズムに抵抗がないという若い世代の有権者の存在もあったのではないか。そして、これから困るのは共和党だと思う。“トランプ化”した白人男性中心でやっていったとしても、いずれジリ貧になってしまうだろう」との見方を示す。

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 「バイデン候補は、どちらかといえばカピバラ的な“癒し系”。トランプ大統領によって荒れた心を癒やしてくれるのではないか、という意味で候補に選ばれた部分がある。だからトランプ的な強烈さが無いのは仕方がない。アメリカの分断が進む中、逆に同じボルテージでトランプ大統領と張り合う候補者だったとしたら、それはそれで皆が疲れてしまったのではないか。まさにバーニー・サンダースがそういう存在だったし、“AOC”、アレクサンドリア・オカシオ=コルテスのようにキャラを立てようとすると、ラジカルなことを言わざるを得なくなってくる。政治学者として言ってはいけないことかもしれないが、政治って、つまんないほうがいいと思う。トランプ大統領のような政治はスッキリして気持ちが良いかもしれない。メディアから見てもトランプはネタの宝庫だから取り上げやすい。しかし失態ばかりでハッピーなことはあまりないし、人口3億以上の多様性に富んだ国家を統治し、世界をリーダーとしてまとめていく人物は、退屈でもちゃんとした人でないといけないし、アメリカという国家が世界に誇れる国家であってほしいというのが、正論ではあるが人々の願いだと思う」。

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 さらに鈴木氏は「連邦最高裁では保守派が優勢になっていて、法律による歯止めも効かなくなりつつある。こうした状況が積み重なっていけば、手続き的には選挙で選ばれている以上、一応は民主主義でありながらも、独裁のような社会になってしまう。これはアメリカだけの問題ではなく、中央アジアやブラジルなど、世界中で増えてきている。民主主義の“総本山“的なアメリカがそうなってしまえば、世界の民主主義、民主主義のコンセプトそのものが危機に晒されてしまう。民主主義には“これが当たり前”とか、“こうあってほしい”という、それこそポリティカリー・コレクト、建前、綺麗な話に支えられているという部分もある。それが行き過ぎれば壊れてしまうが、逆に建前の部分が無くても成り立たない。また、民主主義を守るために民主主義を壊す奴を選ぶのかという問題もある。民主主義の手続きは確かに面倒くさいが、同時にトランプ大統領を止めることができるのもまた民主主義なはずだ」とも話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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