変わる“出生前診断” ダウン症の息子を育てる母親「正しい内容が広がってほしい」
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 17日、厚生労働省で「新型出生前診断(NIPT)」に関する専門委員会が開かれた。新型出生前診断は、妊婦の血液から生まれる前の赤ちゃんの染色体に異常がないかを調べる検査だ。

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 委員会では「出生前検査の情報をすべての妊婦に対して知らせる」という新しい方針が示された。出生前検査に関するリーフレットなどをすべての妊婦に配り、関心を持った人には保健師などがさらに詳しく対面で説明するという。検査結果が陽性だった場合は、その妊婦や家族が適切な意思決定を行えるよう、専門医などの対面サポートも検討されている。

 厚労省は1999年に「胎児に疾患がある可能性を確率で示すものに過ぎないことなどから、医師は妊婦に対し本検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、本検査を勧めるべきでもない」という見解を示していた。つまり、22年ぶりに出生前診断の方向転換を行うことになる。

 今回の専門委員会では、安易な命の選別につながらないよう、検査を実施する施設の認証制度を作る方針が決められた。そもそも新型出生前診断は、日本産科婦人科学会の指針に基づいて十分なカウンセリングを実施できる病院に限って検査が認められている。

 しかし、現状は認可外にもかかわらず、検査をする民間のクリニックが増加。こうした問題を受け厚労省は、検査を実施する施設に対して「新たな認証制度を作る」という。国も審査に関わるとした上で、運営委員会を日本医学会の中に設ける方向で調整を進めるとしている。

■ ダウン症の息子を育てるシングルマザー「正しい内容が広がってほしい」

変わる“出生前診断” ダウン症の息子を育てる母親「正しい内容が広がってほしい」
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 政府の新たな方針について、ダウン症のある長男・ニコちゃんを一人で育てるシングルマザーの都議会議員・龍円あいりさんは「正しい内容が広がってほしい」と話す。

「公的な機関できちんと安心した運用している場所が増えることによって、悪質な民間事業者のニーズが減っていく。これをきっかけに正しい内容が広がってほしい」(以下、龍円あいりさん)

 龍円さん自身はアメリカで出生前診断を受けた。ニコちゃんは現在7歳。周りでも「出生前診断を受けてよかった」という声を多く聞いたという。

「事前にお子さんにダウン症があるとわかっていたことで、生まれる前にダウン症について調べて『心の準備と実際の準備ができたよ』という声もあった。ダウン症のある子は、本当にギフテッドだと思う。幸せをいっぱい背負って生まれてきた子供なんじゃないかと。家族もすごく幸せになるし、周りの子供たちや大人たちにも、たくさん愛されて本当に幸せな日々を過ごしている」

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 ニコちゃんが生まれたばかりのころは、ミルクを飲むことが下手だったり、合併症の手術があったりと不安が多かった龍円さん。今では、ゆっくり育つニコちゃんだからこそ、ひとつひとつの成長の喜びが大きい」と話す。

「命の選別という言葉がすごく走っていると思う。そうではなく(出生前診断は)産まれてくる子供のためにきちんと(準備を)してあげられる制度だと思います」

 このニュースに明星大学准教授で臨床心理士の藤井靖氏は「最終的に障害が受け入れられない保護者はいないのではないか」と語る。

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「新型出生前診断の新しい認証制度も『命の選別につながるのではないか』という懸念があるが、そもそも今の世の中は情報が溢れていて、科学も進歩して、いろいろなことが知れる時代になった。それを考えると(出生前検査の情報をすべての妊婦に知らせる方針は)自然な流れだ。国がきちんと仕組みを整備することは、診断・フォローの質や倫理の担保につながりうるという意味で歓迎すべきでは」

「出生前診断を受けて、何かしらの障害があるとわかったとき、なかなか受け入れられない親もいるだろう。しかし心理的背景の実態としては『思っていたのとちがう』ということでしかない。期間に個人差はあるが、最終的に障害が受け入れられない保護者は、僕はほとんどいないと思う。実際に中絶される方も中にはいるが、それは受け入れられないのではなく、受け入れる過程の中で期限がきてしまったということ。出生前診断から決断まで、当事者に与えられる時間はものすごく短い。そこで初めてダウン症のことを知ると、考えている中で期限がきて『今回はあきらめよう』となってしまう場合がある。子供を生む意志がある・ないにかかわらず、すべての人が予めダウン症の知識を持っていたり、他の方々の暮らしの実態を知っていれば、現実に直面したときも、自分たちにとってより納得できる判断につながる可能性がある」

 21番染色体が3本あることで起こるダウン症(通常は2本)。発現率は、母親の妊娠時の年齢によって異なるが、700人に1人の割合で生まれている。

「診断名がつかなくても子供を育てる難しさはたくさんある。『ダウン症だから子育てが大変になる』ということが、必ずしも言えるわけではないし、その後、子育てを長い期間していくことでいろいろな障害・疾患や、育てにくさがそれぞれにあるということは少なくない。いずれにしても、障害はその人の全てではない。ダウン症が子供の個性としてさらに認識されていってほしい」

ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)

【映像】 ダウン症の息子を育てるシングルマザーの思い
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