LGBT法案 自民党が条件つきで了承も議員たちの問題発言で浮き彫りになった“社会の理解不足”
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 超党派でまとめたLGBTなど性的マイノリティーへの理解を促進する法案について、自民党の部会は24日、怒号が飛び交う3時間半に及ぶ議論の末に国会での審議を求めることを条件に了承した。25日に正式な党内手続が予定されているが、決定できるかは不透明な状況だ。

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 会合では「今すごく傷ついている人たちが希望を見いだすことができる、それを決断できるのは今日ここに座っておられる先生方しかいらっしゃらないので、どうか、どうか、よろしくお願い申しあげます」などと訴え一任を取り付けようとしたLGBT特命委員長の稲田朋美衆院議員ら執行部に対し、「性的マジョリティーの心配に答えていない」といった強い反発も出たという。

■「単純化した結果、差別が“インフレ”を起こしてしまうことも考えられる」

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 元参議院議員で、自身もゲイであることをカミングアウトしている松浦大悟氏は「5年前から毎年“今年はやるぞ”と記者会見を開いて議論をしてきた話なので、LGBT当事者の間では“やるやる詐欺”だという声もあったくらいだ。国会の状況が変化するなど、いろいろな困難があって提出まで至らなかったが、ようやくたどり着いたか、というのが正直な感想だ。稲田議員は本当に苦労されて、ここまでこぎつけたんだろうと思う。もちろん日本初のLGBT法というシンボリックな意味はあると思うが、実際は大して機能しないだろう。なぜかと言えば、やはり“差別の定義”が書かれていないからだ」と話す。

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 「例えば2000年代初頭、当事者間で“オカマは差別か論争”というのが起きた。『週刊金曜日』が掲載した『伝説のオカマ』というルポについて、当事者団体が“差別だ”と訴えたというものだが、この“伝説のオカマ”というのは、参院選や都知事選にも出馬した東郷健さんという、ヘテロ社会に対して“ゲイで何が悪い。オカマで何が悪い”とプライドを持って訴えていた方だ。あるいは昨年公開された草彅剛さん主演の映画『ミッドナイトスワン』に対し、“トランスジェンダーの描かれ方があまりにも悲惨で、実態に即していない”“差別だ”といった批判をしているLGBT活動家がいるが、この作品を最優秀作品賞とした日本アカデミー賞は、差別を助長しているのだろうか。

 あるいは“同性婚は憲法改正でやるべきだ”と主張した日本維新の会の音喜多駿参院議員が、憲法学者の木村草太・首都大学東京教授に“差別だ”と批判された。音喜多議員は失言をしたこともあったが、その後はLGBTについてものすごく一生懸命やってくださっている議員だ。今回の法案が施行されたとして、こうした問題について立法者に“これは差別に当たりますか?”と尋ねてみても、おそらく答えられないと思う。腕組みをして“わからないですね~”と言われるのが関の山なのではないか。そもそも何が差別なのかということについて誰かが決めるのかということにも問題があるし、単純化して捉えてしまった結果、差別が“インフレ”を起こしてしまうことも考えられる。

■「山谷発言を“差別だ”と切り捨てて問題の本質から目を逸してしまうのは良くない」

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 法案をめぐっては、差別禁止の規定を盛り込みたい野党に対し、「何が差別かを規定するのは難しい」と自民党が難色を示した結果、「差別は許されない」という文言を盛り込む修正案で与野党が妥協していた。ところが先週開かれた自民党の会合では、「差別を理由にした裁判が増えて混乱する」などと議論が紛糾。簗和生衆議院議員からは「生物学的に自然に備わっている“種の保存”に背く。生物学の根幹に抗う」との問題発言まで飛び出したという。

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 一方、山谷えり子参議院議員によるトランスジェンダーをめぐる「女子の競技に男性の方が心は女だからって参加していろいろメダルとったり、そういう不条理なこともあるので、少し慎重に」との発言について松浦氏は「多くのマスコミは“この発言が差別だ”と伝えているが、本当にそうなのだろうか」「当事者にも様々な立場の人がいて、中には政党のために動いている人もいる。決して純粋無垢な存在ではなく、ドロドロした部分もある。そこはヘテロ社会の人々と同じだ。その点、メディアの描き方が“感動ポルノ”的だったこともあり、勘違いが広がっているんじゃないか」と疑問を呈する。

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 「欧米諸国では性自認、つまり“自分がどう思っているか”で性別を変えられるようになっている中で、身体は男性のままで女性専用のスペースに入っていく人たちの問題が毎日のように報じられている。しかし、日本のメディアだけはこうした問題を伝えない。おそらく、伝えることでトランスジェンダーの人たちが悲しんでしまう、あるいはトランスジェンダーの人たちへの差別につながってしまうと捉えているのだろう。とはいえ、銭湯や温泉の事業者が入口で“この人はトランスジェンダーだから”と区別して入らせないようしてしまえば、国際標準から見て差別になってしまう。性自認について他人が判断を、入れる、入れないを決めてはダメだ。

 トランスジェンダーについて、性同一性障害と同じだと認識されている方も多いと思うが、そうではない。性同一性障害はたくさんのカテゴリーの中の一つで、例えば性自認は男性で女装家の人たちも国際標準ではトランスジェンダーだとされている。一方で、女装などをして女性になるというイメージをすることで性的興奮を覚えてしまう、オートガイネフィリアという方々もいる。こうしたことを見分けるのは、専門医であっても大変な困難だと言われている。こういう負荷を、事業者に押し付けるのはやはり無責任だし、これから考えていかなければならない大切な論点だ。

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 例えば日本学術会議が性自認で性別を変えられるよう法改正すべきだと提言をしている。もちろん、当事者の方々が自分の体にメスを入れたくないという気持ちもわかるし、その思いは尊重しながらも、みんなで暮らしていくために、自分が女だ、男だと思うだけで性別を変えることができていいのか、そういうことをみんなで話し合っていかなければいけない。山谷議員の発言はそのことをオープンにしたのだろうし、それを“差別だ”と切り捨て、問題の本質から目を逸してしまうのは良くない」。

■「物事を単純化した発言に支持が集まってしまう社会は残念だ」

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 慶應義塾大学の若新雄純氏特任准教授は「簗議員と山谷議員の発言を一括りにして“自民党議員の発言”としちゃうのはメディアのミスリードだと思う。その上で簗議員の発言については、申し訳ないけど“バカだな”“教養がないな”と思われてしまう発言だ。生物には種の保存をしようというのがある一方で、すべての個体が同じ姿・形ではないし、行動も違う。そういう多様性が山ほどあるということは、生物学的にも昔から分かっていたことだ。もう一方の山谷議員の発言だが、議論を起こしたいのであれば、そういう話の持っていき方があるはずなのに、そこが下手くそだと思う。

 いずれにしろ、みんながいろいろな方法で勉強ができる時代、物事を単純化した発言に支持が集まってしまう社会は残念だなと思うし、そういう発言をしてしまう人たちが支持されて選挙に当選し、与党の議員としていられるというのは“こんなのじゃダメだ”と思えるくらい国民の教養が高まっていないことだと思う。やはりみんなが多様さについて学ぶ前から“理念先行”で白黒を付けようとすると、様々な問題が起きるのだと思う。

 だからといって、今回のような複雑なテーマを話し合うときに、LGBTの当事者の人たちの機嫌を損ねないようにと考えた結果、萎縮してしまって腫れ物に触るようになってしまえば、議論することも難しくなる。これはみんなの問題でもあるわけで、“その言われ方は嫌だ”とか“本当はそうじゃない”といった反応をきちんと受け止めながら、堂々と向き合えるようにしていかないと」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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