「絶対に起こさないと思っていたのに」「“泣いてはいけない”と言われた子どももいる」交通事故の加害者と家族たちの苦悩
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 近年は減少傾向にあるものの、今も年に約30万件、2分に1回の割合で起きている交通事故。最優先されるべきは被害者への対応だが、ハンドルを握った瞬間、誰もが事故を起こしてしまうリスクを抱えていることも確かだ。

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 近畿大学理工学部の多田昌裕准教授(交通工学)は「最も多いのが“安全不確認”、次が“わき見運転”などになっているように、交通事故の原因というのは、基本的には“過失”だ。今年11月以降は国産の新型車に“衝突被害軽減ブレーキ”の搭載が義務付けられるなど、いわゆる“自動ブレーキ”の普及も急速に進んでおり、事故の軽減にも繋がっているが、事故の種類は追突が39%、出会い頭が25%となっている」と話す。

 もし自分が事故を起こしたら?家族が加害者になってしまったら?『ABEMA Prime』では、当事者らを取材した。

■“免許は絶対に取らないでおこう”と決意したのに

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 「あと1、2カ月耐えれば、もう運転しなくて済む。事故の可能性から逃れられる。絶対に事故を起こさないようにという気持ちがあった」。

 地方の生花店で配達の仕事をしていた斎藤さん(仮名、29)は去年の春、交通事故を起こして人をはねてしまった。運転に自信がないことを上司には相談していたというが、やはり退職すべきだとの決意を固めた矢先のことだった。

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 配達中、大きな交差点の左折専用レーンにある小さな横断歩道に差し掛かったときのことだった。「運転席の右手の窓に影が映って、ぶつかった音がして」。突然現れた自転車。徐行中で、慌ててブレーキを踏んだものの、間に合わず衝突してしまった。すぐさま救急車を呼び、警察にも通報した。被害者は頭から血を流し、脳しんとうを起こしていたものの、軽症で済んだという。

 「かなり徐行していたつもりだったし、気の緩みや確認が甘かったという感覚も一切無かったので、“信じられない”という気持ちが強く、現実を受け入れられなかった。それでも人が倒れ、頭から血が流れている光景を見てしまったので、本当に怖いものに乗ってるんだなと感じて、運転席に座ったら手が震えてしまって…」。

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 斎藤さんが車の運転に不安を抱いていたのは、小学生の頃、交通事故で叔母を亡くした経験があったからだ。

 「葬儀に加害者の男性が来ていたのをお見かけした。一番後ろで、ずっと頭を下げていらっしゃった。喪主が頭を上げさせようとしたが、頭を振って、ずっと頭を下げ続けていた。意識が一瞬だけ遠のいてしまい、気づいたら叔母をはねてしまっていたと聞いて、もしかしたら自分も事故を起こす側になってしまうかもしれないと子ども心に感じた。だから“恨み”というよりも、この人の人生はこれからどうなってしまうんだろうという、“心配”に近いような気持ちになったし、“免許は絶対に取らないでおこう”と決意した。にも関わらず、仕事の選択肢や住環境のこともあって免許を取らざるを得なくなった。そのうちに運転にも慣れ、日常生活でも車に乗ることもあった」。

■自分がケアされる側だとは思っていなかった

 自身が起こした事故の被害者の現在については分からないという斎藤さん。しかし「考えないようにしようと思っても、頭に浮かんできてしまった」。事故後、一度もハンドルを握ることなく免許を返納した。

 運転免許試験場で返納の申し出をする際、"受付の女性は「…ご本人が?」と目をしばたたかせ、書類を記入している時には理由を尋ねられた。「怖いからです」と斎藤さんは答えたという。

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 そうした中、番組の取材を受けてくれたのは、加害者のケアについて考える企画趣旨だったからだという。

 「正直、自分がケアされる側だとは思っていなかったので、むしろ話を聞いてみたいという気持ちになった。私も仕事中に事故を起こしてしまったので、職場の方々にきついことを言われるんじゃないかと内心では思っていた。でも、“自転車ってそういうことあるしね”とか、“運転していたらどうしても仕方ない部分はあるよね”と言ってくださる方がいて、少し安心することが出来た。当然、加害者への風当たりというのは強いと思うが、理解をしてもらえるだけでも、すごく違うと思う」。

■親が排除される様子を目の当たりにした児童も

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 犯罪加害者やその家族の支援を行っているNPO法人「ワールドオープンハート」の阿部恭子代表は「仕事中に事故を起こした方の場合、失業するというケースがかなり多く、再就職も困難だ。家族も含め社会から孤立し、悩みを溜め込んでしまうことも多い」と話す。

 「重大な結果をもたらした以上、その被害者が怒るのは当然だ。一方、加害者の側には連帯責任あるので悲しむ権利は無く、ひたすら罰を受け、下を向いて暮らし続けなさいという空気が根強いのも事実だと思う。近年では“加害者家族”という言葉がメディアでも報じられるようにはなってきたが、優しくすると加害者の味方だと思われるので、特に“支援”という形で関わるのは良くないんじゃないか、という感覚がどうしてもある。周囲の人も”、距離を置いたほうがいいんじゃないか、と感じてしまう人は少なくない。

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 また、特に顧みられることが少ないのが、加害者の子どもの存在だ。小さな子どもが交通事故の被害者になった場合は注目されやすく、世間の感情も厳罰を課して欲しいという方向に動きがちだ。しかし加害者の車に、そのお子さんが乗っていたというケースもある。事故を起こした親が怒られたり、地域などから排除されていく様子を目の当たりにした児童、あるいは学校の先生から“悲しいのは被害者の方なんだから、あなたはお父さんが刑務所に行こうが何しようが泣いちゃダメだよ”と言われ、トラウマになってしまった児童もいる。報道されること、あるいは第三者がネットで“人殺し”などの言葉を投げかけることが、弱い立場である子どもたちの心を刺すことにも繋がるということを知っておいていただきたい」。

■“私は関係ないから知りません”という選択肢は選べない

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 親子2人が死亡、9人が重軽傷を負った池袋暴走事故。阿部氏は、過失運転致死傷の罪に問われている飯塚幸三被告の家族の支援も行ったという。事故からしばらくの間、被告は“上級国民だから逮捕されない”といった厳しいバッシングに曝されていた。

 「事故直後のことに限定してお話をすると、やはり死亡事故が起きた以上、加害者の家族には様々なニュースや情報が入ってくることになるので、亡くなった方やそのご遺族に申し訳ないという気持ちになる。入院していた加害者以上に、家族は自分がやってしまったことであるかのような感覚になってしまい、寝られない。食事をすることもできない。日常生活が送れなくなってしまうという状態になっていた。

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 しかし、これは池袋の事件に限ったことではない。死亡事故など、被害の大きい事故の加害者家族は同様だ。被害者はどうなっているのか、家に住めなくなるのではないか、などと情報を調べるうちに報道やインターネットの声を無視できず、24時間監視されているかのような恐怖感を抱いてしまう。見なければいいと思われるかもしれないが、職場の人から話を聞いてしまえば、やっぱり確認しないといけないと思うし、“私は関係ないから知りません”という選択肢は選べない」。

■キーワードを検索して支援にたどり着いた…

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 その上で、阿部氏は、加害者家族には、支援への“つながりにくさ”もあると訴える。

 「イギリスなどでは実績のある支援団体があり、逮捕者の家族に対し、警察が情報を提供することもある。一方、私たちは公的な機関との連携もないので、弁護士さんがたまたま知っていたとか、取材に来ていた報道が教えてくれたとか、知人が連絡をくれたとか、そういうことがなければたどり着けないのが現状だ。つながった家族の8割が、ネットで“加害者家族支援”“家族逮捕”などのキーワードを検索してたどり着いた、というパターンだ」。

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 元経産官僚の宇佐美典也氏は「池袋の事故は裁判中なので真相はまだ分からないが、ほとんどの事故が過失、つまり交通事故を起こしたくて起こしたというわけではないはずだ。もちろん犯罪だったとなれば法に則って刑罰は受けなければならないが、報道やネットで“悪”であるかのような扱いを受けてしまうところについては何とかならないか」、パックンも「僕も長年車を運転しているので、恥ずかしながら事故を起こしたこともあるし、巻き込まれたこともある。大切なのは、“事故”である以上、どんなに頑張っていても“起きてしまう”ことがあるということだと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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