日本でも普及しはじめた“社会人の学び直し”…転職活動時に「胸を張ってアピールするよりも隠しておいた方がいい」と悩む経験者も
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 菅総理も言及するなど、日本でも注目を集め始めている社会人の学び直し、「リカレント教育」。文科省の調査によれば、学び直しにより、年収が2年後には10万円アップ、3年後には16万円アップしたというデータも出ている。

 リカレント教育が生まれた国・スウェーデンでは2年以上働いた労働者には、そのための休暇と職場復帰の権利、さらには生活費の保障も。また、国民の半数近くが学び直しをしている国もあるという。

・【映像】リカレント教育の実践者が語る学び直すメリットとは?日本社会の見えない抵抗

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 日本においても、各大学がニーズに応じて社会人向けカリキュラムに力を入れはじめており、ビジネスにおけるコミュニケーションや会計財務、ITスキルなどの講座を開設する関西学院大学を取材すると、コロナ禍によって改めて自分の働き方やキャリアを見つめ直し、学び直しに取り組む社会人の姿があった。

 ビジネス・ブレークスルー大学の宇田左近副学長は「10年くらい前は電機や自動車、銀行などの企業が幅を利かせていたと思うが、今はそうした序列も変わってしまった。あるいは今の世の中は、5年前に皆さんが想定していた世の中だろうか。5年先、10年先の予測がつきにくくなった社会においては、当たり前のように大学を出て就職し、60になったらその企業を退職して年金をもらって…ということも少なくなっていくと思う。仕事をしながらも、いま起きていること、これから必要になることを考え続けていかないと、自分自身が陳腐化してきてしまう。それをサポートするのがリカレント教育だ」と話す。

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 同校のグローバル経営学科で学んだことを機に昇進、年収も200万円アップしたと話すのが、西川貴裕さん(35)だ。

 「会社が既存事業だけでは安定した成長が見込めず、新しいビジネスを必要としている状況にあり、私自身はエンジニアとして物流センターの設計業務を担当していたが、研究開発部門というところに異動した。しかし、やはり通用しないと実感、リカレント教育を受けることにした。年代的にも管理職に上がるか上がらないかというタイミングだったので、まずは会社の中でのキャリアアップを念頭に置いた。

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 内容としては英語、IT、ファイナンス、マーケティング等々、ビジネスの幅広い知識・スキルを学んだ。オンラインだったので通勤中に勉強していたが、そのままその日の業務で使えるな、という経験もしばしばした。非常に役に立ったなという実感がある。ただ、両立は大変だった。自費だし、6歳と3歳の子どもがいる。勉強はすごく嫌い(笑)。でも、今やらなかったら将来もっとつらいだろうなと想像して、この2年間は息を止めてでもやろうかなという決意だった。家族の協力があって何とか乗り切ることができた。

 年功序列、終身雇用が崩壊していく中、いつまでも同じ会社にはいられないというだけでなく、いつ首を切られるかわからないというリスクも高まっている。何があっても対応できるよう個人の価値を高める必要があると思う」。

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 一方、「うまくいくのは一部の“意識高い系”職業(職種)だけじゃない?」「キャリアのブランクにしかならない」といった否定的な意見もある。大学で心理学を学び直して3年目の新田元気さん(36)も、そうした壁に悩まされた一人だ。

 接客業を体験したことから、将来は人事マネジメント業務につきたいと会社を辞め心理学を学ぶことにした新田さん。しかし金銭的な問題だけでなく、周囲の無理解や、企業との温度差にぶつかった。

 「転職活動の面接では“半年もブランクあるんですね。仕事しなかったんですね”と言われてしまうこともあった。理解が浸透していないだけでなく、“それって、あなたの勝手でしょ?”という雰囲気もあり、胸を張ってアピールするよりも隠しておいた方がいい、伏せておいた方がいいという感じになって辛かった。それでも学ぶことで人生の選択肢が増える。それがリカレント教育の本質だと思う」。

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 前出の宇田氏は、リカレント教育に対する否定的な見方について、「この手の言い訳は常にある。いわば“やらない理由”だ。今はスマホで講義を見ることもできるし、時間の優先順位付けの問題だと思う。例えばコロナで飲みに行く時間がかなり減っているのではないかと思うが、行かなくていい飲み会にも行っていたのではないか、という実感があるのではないか。

 また、企業の中にリカレント教育など転職が可能になるような力をつけることに対して拒否反応を示すひとがいるのは確かだ。ここにあと2年、3年いても学ぶことがないと感じて出ていってしまうような人は、他の企業でも色々なことができるような人。企業を経営する立場からすれば、辞めてほしく無い人に辞められてしまうということにもなる。“あいつはけしからん”と言うのは、その企業にとっては厳しい現実だから、ということになるのではないか」と指摘した。

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 さらに宇田氏は「“意味がない”というのは、大学時代に学んだことをもう一度学ぶとか、ただ先生の言ったことを覚えていくだけということであればそうだと思う。同様に、同じ会社の中の同じ人たちとだけずっと付き合っていても、新しい学びはないと思う。オンラインでも町内会でもいいが、仕事以外の人から刺激を受けられる場所、自分で考える機会をできるだけ設けるということが大事だと思う」と話した。

 「Business Insider Japan」の西山里緒記者が「お笑い芸人の方々がリカレントしているイメージがある。ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが大学院で学ばれたり、ブルゾンちえみさんも芸名を変えるとともに留学を計画されたりしている」と話すと、宇田氏は「実際、吉本出身の卒業生もいて、海外でラーメン店を経営し、今度はアプリを作ろうとされている。元ラグビー選手、スケートのオリンピック選手だった方が、コーチだけでなく将来は事業をやりたいということで来られるケースもある」とコメント。

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 テレビ朝日平石直之アナウンサーは「20代、30代なら学び直してパワーアップし、転職していくこともあると思うが、40代、50代になると、中途半端に知識を得たり、資格を取ったりしただけでは、他の会社は雇ってくれない。そして、学び直しをしなきゃいけないなと思いながらも、それが何なのか見えなかったり、日々の実践の仕事の方が役に立つ感じていたりして、なかなか踏み出しにくい人も多いと思う。キャリアアップの道筋が見えていればいいが、その先が見えない人は、今しがみついているものを手放すのが怖いとか、今のポジションを失ってまで勉強するところに飛び込めるか、ということになってしまうと思う」とサラリーマンの思いを代弁。

 その上で、「私の場合、様々な仕事の方々と接する機会があるし、その意味では恵まれている。しかし多くの方の場合、どうしても会社だけになってしまう。学ぶことを通して会社以外のコミュニティを持つことになるというのは、会社員にとってはとても重要だと思う」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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