「次回は必ず茅葺きに…」大嘗祭で使用される建物、優先されるべきは“建設費の節約”か“日本古来の伝統”か
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 先月22日に挙行された「即位礼正殿の儀」に続く重要な儀式「大嘗祭」が今月14、15日に予定されている。新たに即位した天皇が国の安寧や五穀豊穣を祈る儀式で、1300年以上の歴史がある。ところが今回、この儀式の舞台「大嘗宮」をめぐって論争が起きていたことをご存知だろうか。

 大嘗祭のためだけに造られる「大嘗宮」は大小約40棟の建屋からなり、前回は主要の3つの建物の屋根は歴史ある「茅葺き」だった。しかし今回、宮内庁は経費削減のため、全てを「板葺き」に変更すると発表したのだ。

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 これに待ったをかけたのが、有識者や自民党の有志議員だ。務台俊介衆院議員は「1300年続いてきた。それを今回途切れさせていいのか」、山口俊一衆院議員は「日本の歴史伝統、まさに文化だ。やはりこれは守っていきたい」として、8月末、政府に要望書を提出。しかし政府は工期や職人不足を理由に、これを認めることはなかった。

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 政府の決定に対し、ネット上には 「時代に合わせ、合理的でいいのでは」「伝統にこだわる必要はない」「“質素倹約”が皇室のモットーでは」「茅葺きは燃えやすいから危険」「伝統文化に税金を使うのはムダ」と賛成の声もある一方、「予算を削るところが違うだろ」「一世一度の儀式を削減するな」「世界に日本の文化や伝統をアピールできる」「職人の技術が途絶えてしまうかが心配」といった批判的な声も投稿されていた。

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 4日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、この「茅葺き」にスポットを当て、専門家に話を聞いた。

■「ドイツでは富裕層のステータス」

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 まず「茅」とは何か。日本茅葺き文化協会の代表理事を務める安藤邦廣・筑波大学名誉教授は「屋根を葺く草の総称なので、茅という草はない。代表的なものはススキと葦で、“山のススキ”“海の葦”と言われている。戦後、小麦を増産したので、小麦藁がよく使われ、“藁葺き”と言えばだいたい小麦藁だ」と説明する。

 茅葺きは雨の音がほとんどしないといった防音効果、高い断熱効果と通気性により、夏は涼しく冬は暖かい。また、として軽いため柱や壁への負荷が少ない。そして自然材料のため環境に優しく、古い茅はそのまま肥料に利用できるといったメリットもあるという。そのため近年では「遮音性を活かしたコンサートなどの音楽イベント」「デイサービスなど高齢者にとっての癒しの空間」「外国人観光客向けの宿泊施設」などにも活用され、ドイツでは富裕層のステータスとなっている場合もあるようだ。

 「良い点は色々あるが、家の中で火を焚けるのは茅葺きだけだ。つまり、囲炉裏を使えるのも茅葺きということになる。煙が茅の隙間から自然に抜けていくし、煤が付くと虫も入って来ない。その一方、雨は入らない。また、東京で仕事に集中していると疲れるので、田舎のサテライトオフィスとして茅葺きの家を利用することも広まっている。やはり茅葺きの屋根というのはストレスがない」(安藤氏)。

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 一方、耐火性・防火性の低さ、小動物が住み着きやすく不衛生であることといった点も挙げられる。「市街化されているエリアでは火災の危険性が大きいので、東京などで新築するのは建築基準法違反になる。西日本に比べて関東や東北では過剰に線引きされているので、農村地帯でも禁止になっている地域が非常に多い。少しずつ戻していく法的な措置も必要だろう」(安藤氏)。

 また、とりわけ傷みの状況に応じて数十年の間隔で取り換えることが必要だが、すべてが手作業で行われるため、一度の葺き替えに数百万~一千万円程度の費用が掛かってしまうことも、個人での所有を難しくしている。「20年くらいの単位で葺き替えが必要だが、全てを葺き替えるということはあまりなく、一面ずつ直していくのが基本だ。例えば500万円で20年持つとすると、考え方としては年間25万円くらいだろう。昔の農村では茅も持ち合うし労働も出し合っていたので、お金をかけずに葺くことができた。やはり協同ができて初めて可能になる屋根だ。これからライフスタイルを同じくする人が集まり、ネットワークを組めばできる可能性はある」(安藤氏)。

■茅葺きに住む24歳職人「残念としかいいようがない」

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 現在、全国に茅葺き屋根建築物を含む重要文化財等が313カ所、そのうち2018年度に補助金が認められた対象は62カ所あり、12億2997万円が拠出されている。平安時代以降、修験道の地として栄えた長野市・戸隠地区の多くの建物もその対象で、費用の9割を補助金で賄っている。

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 しかし、それでも問題はある。茅葺き職人歴60年の大ベテラン・松澤敬夫氏によれば、頼りは自分の経験と感覚だけ。こうした技を持つ職人の数は現象の一途を辿り、今や全国で200人程度。高齢化も深刻だ。

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 大学で建築学を専攻し、建築と自然が一体となったスタイルに惹かれ、この世界に飛び込んだ茅葺き職人3年目の岡祐紀氏(24)は、自身も茅葺き屋根の空き家を自ら改修して住んでいる。「京都の南丹市美山町というところに家屋を月1万円で借りて住んでいる。茅葺きの新築が許可されている地区だ。メンテナンスは自費だが、温度調整が茅葺き屋根は優れていて、夏は外が暑くても中に入ればひんやりと涼しさを感じるし、冬は外が寒くても家の中に入ると、土間の中はすごく暖かく感じる。網戸などもないし、不便を感じる部分もあるが、火を焚くことで虫も外に逃げていくし、そういうひと手間かけた生活がすごい癒しで、日々バタバタ生活している中では感じられないリラックス感がある」と話す。

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 一方、「茅葺きは風に弱い屋根なので、台風の時にはやはり軒先から風が入って、すごく揺れたし、屋根が破損する心配もあった。また、残ってはいるが、そこに住んでいる方がいないという“茅葺き屋根の空き家問題”もある。だから私が住んでみて感じたことを写真に撮ったり、SNSで発信したりすることで、同世代の方が“住めるかもしれない”と思うきっかけになればと思っている」。

 また、大嘗宮の問題については「技術の継承が途絶えてしまうと心配している職人さんも多い。私もぜひ関わりたいという意思が強かった中でのこの結果なので、正直残念としか言いようがない」と話していた。

■「次は必ず茅葺きに」

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 前回の建設費が約14億5000万円だったのに対し、今回は敷地面積を8割に抑えたものの、人件費や材料費によって約19億円にまで膨らんだ大嘗宮の建設費。しかし安藤氏は、全体的に費用がかかったのであって、板葺きから茅葺きにしても2000万円ほどしか変わらないと指摘する。

 「いろいろなことを節約してもこれだけのお金がかかってしまうので、まず茅葺きがやり玉にあがったのだろうと思うが、1300年前に始まった大嘗祭は、稲作をもって国作りをするということを宣明する儀礼だ。そこで使われるのは稲を象徴するススキだ。これは稲作農耕と深く結びついた資源で、田畑の肥料にもなるし、牛馬の餌になる。やはり屋根に使われるのはそれを象徴する茅葺きであるべきだし、そうでなければ五穀豊穣の意味を成さないし、経費削減ということでは説明できない、文化的、歴史的な問題だ」。

 その上で安藤氏は「職人さんたちに確認し、台風の時期でることを踏まえ、“最低でも20~30人の茅葺き職人で2週間かかる”という試算をもとに、実施が十分可能だという要望書を出した。前回までは皇室行事で、かつ余裕もあった時代だったので非常に立派な茅葺きを葺いたが、我々は“逆葺き”とって、穂先を外に向ける古来の簡素なやり方で提案した。むしろこちらが公式なものだが、それでも経費は3分の1で済む。しかしそれでも却下されてしまった。宮内庁としては、お金の問題というよりは、限られた時間の中で計画をもう一度組み直すこと難しいということだった。また、その間に台風が来て飛ばされたり、雨が漏れたりして、儀式の準備に支障が出ることを心配していた。ただ、茅葺きの重要性が分かっているにも関わらず、工期や単価の方が優先に捉えられていることはおかしいと思う。宮内庁という、歴史文化を守るはずの経済性や工期の管理といった技術的な面で説明することはおかしいと思う」との考えを示す。

 「今回はいろいろな事情でこうなってしまったが、これを前例にしてはならない。次は必ず茅葺きに戻すことが大事だと、むしろ今訴えないといけないと思う。今年、白川郷で世界茅葺き大会をやったばかりだが、世界7カ国から集まった人たちが“日本の茅葺きは素晴らしい”と称賛して帰っていた。世界的にも復活する傾向がある。それはやはり、エコロジーという大きな問題があるからだ」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

▶映像:スタジオでの議論の模様

日本の伝統文化をどう守る?
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