“3月で任期切れ、就職活動中”ツイートに大反響、海底遺産に取り組む「水中考古学者」が訴え
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 「来年3月で仕事の任期が…。就職活動中。拡散お願い」。昨年、約2万回もリツートされ話題を呼んだ投稿主は、水中考古学者の佐々木蘭貞(ランディー)氏(43)だ。

 同氏が専門とする水中考古学とは、水中に眠る遺跡(沈没船・水中都市など)を発掘・保護・調査することによって歴史を紐解く学問だ。とりわけ最大の発見と言われているのがスウェーデンの戦艦「ヴァーサ号」で、沈没から333年後の1961年、奇跡的にほぼ完全な形で引き上げられた。全長70mの巨大な船には、巨大な大砲64門が残っていて、17世紀の大航海時代を伝える貴重な資料となっている。また、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』の始まりの場所となったジャマイカの港町「ポート・ロイヤル」などが発見されたこともある。

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 日本でも太平洋戦争中のレイテ沖海戦で沈んだ戦艦「武蔵」「山城」の発見が大きな話題を呼び、沖縄ではアトランティスやムー大陸の遺跡と噂された与那国海底遺跡の研究も進められている。ただ、日本では行政機関の中で専属・専任として調査をしているのは佐々木氏ただ一人。アメリカの大学院で水中・船舶考古学を学んだ後、2011年に帰国。福岡市の嘱託職員になり、その後、九州国立博物館でアソシエイトフェロー(任期付き研究者)として文化庁の水中遺跡調査検討委員会からの委託事業を専任した。

 「私が専門としているのは海事考古学、海事文化で、船を使って航海に出ていった人の文化や、海と人の関わりを学んでいる。そういったものは必然的に海の中にあることが多いので水中考古学と呼ばれるが、船が山の上にあれば喜んで山にも登る。海事文化があればそこに行く。また、空気に触れると腐ってしまうものでも、とくに水の中で砂に埋れているものは、ほとんど腐らずに残っている。逆にいえば引き上げてしまうとすぐに劣化が始まってしまうので、モニタリングすれば保護できる海底に残し、そこで守っていく。研究目的がはっきりしていて、これは重要だというときには引き上げることもある」。

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 しかし、日本は関連予算も少なく、イギリスなどではこれまでに約3万件もの海底遺跡が確認されているのに対し、無数の海底遺跡があるといわれる日本では600件ほどの発見に留まっているのが現状だ。現在バーレーンで発掘調査を行っている佐々木氏も、今年3月に任期満了となり、契約更新されない見通しだ。取材に対し文化庁埋蔵文化財部門は「アソシエイトフェローは規定により任期5年と決まっている。更新はできないことになっている」と回答している。

 佐々木氏は「私のポジションは、九州国立博物館がアレンジをして作った。それ以前には行政機関に水中考古学の研究の職がなかった、そのことが問題だと思っている。海事、水中で似ている分野の職はあるが、完全にマッチしたものはない。政府に水中文化遺産に対する期待が育っていない」と訴えた。

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 こうした現状について、文化財保護に関する条約や国内法を研究する東京海洋大学准教授の中田達也氏は「日本の考古学者は陸上に特化してきたため、海や川、湖になかなか向いてこなかった。しかし水中遺跡には物語性があるし、古の人々の生活様式を示す物証として真実を語っている。敗者の歴史というのは権力者によっていなかったかのように歴史が書き換えられ、残っていないかもしれない。そういう意味では水中の何千年か前のものは重要だ。ユネスコの公表では、世界の海域で少なくとも300万もの遺跡があると言われている。日本でも見つかっていないものがかなりあるのは間違いない」とした上で、次のように話す。

 「改正労働契約法では、一般の労働者の場合は5年働けば本人さえ望めば無期に転換できるが、研究者や一定の限られた研究職に近い行政などの仕事の場合、継続雇用の期待権が発生するまで10年かかってしまう。任期付教員に関する法律が別途ある。期待権発生が10年なので、5年で切らないと次に10年になってしまう。一方、研究者としてどれだけ業績を出せるか、そして流動性を高めアカデミア全体を活性化させるというのが基本的な全体のスタンスだ。ただ、私も任期付教員の1人だが、メンタルがかなりきつい」。

 佐々木氏はSNSでの反響について「日本国内でも水中遺跡に対して興味を持っている人が増えてきているなというのは実際に感じている」とコメント。予算などの制約がなかったら何の調査をしたいかと尋ねると、「遣唐使船だ。日本人だったらみんな遣唐使船は知っている。時代も古いし、どういうものが運ばれてきたのかにものすごい興味がある」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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