「スポーツしかしてこなかった」「普通の金銭感覚が養われていない」アスリートたちの“セカンドキャリア”に立ちはだかる問題とは
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 新型コロナウイルスの影響がスポーツ界にも及んでいる。先行きの見えなさ、支援先の確保の難しさなどから、延期になった東京オリンピック・パラリンピックを一つの区切りとしてとして競技生活にピリオドを打つ選手の増加も予想されているという。

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 一方、就職や起業をして順調なセカンドキャリアを歩むアスリートたちがいる一方、新たな道を模索できる環境に乏しく、「スポーツ以外世界を知らなすぎ」「プライドが高いから失敗するんでしょ」といった見方をされ、失敗してしまうケースも少なくないという。

■「邪な気持ちを持って近づいてくる人に引っかかってしまうことも」

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 そうした問題意識から5月発足したのが、アスリートのセカンドキャリアを支援する「日本営業大学」だ。これまでのセカンドキャリア支援の多くが企業への就職の斡旋のみだったところ、日本営業大学では「社会人基礎コース」「起業家コース」を用意、ビジネスマナーからITスキル、営業トークのノウハウなどの講義を3カ月行い、インターンを経てから企業とのマッチングを行っている。

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 学長の中田仁之氏は「若くして多くのお金を手にしてしまったプロスポーツ選手には、ちょっとした投資話など、邪な気持ちを持って近づいてくる人もいて、そこに引っかかってしまうこともある。また、プライドがなかなか捨てきれない元アスリート、“受け身”のままの元アスリートも多い。例えばアルバイトをしたことがないので、1時間働いて1000円いただくということを経験することによって考え方も変わっていくが、やはり“やってられへんわ”という形で手っ取り早く商売を始めようというケースもある」と話す。

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 その一方、「フットワークは抜群に軽いし、走りながら考えるという習慣が身についているので、一旦まっさらな自分を受け入れるだけで、どんな世界でも通用するビジネスパーソンになれるのではないかという確信を持っている」とも指摘する。実際、社員のほとんどが元アスリートだという千葉電力株式会社の古川雅純社長(元プロボクサー)は「ビジネスにおける知識を与えてあげれば、心と体は普通の人よりも圧倒的に優れているので、そこからドバっと成長すると考えている」と話す。

■「高校を出ていきなり月4、50万もらったので、それが当たり前の生活に…」

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 日本営業大学には現在1期生として元プロ野球選手や元プロテニス選手など8人が参加しており、元プロテニスプレイヤーで世界4大大会にも出場した藤原里華氏は、学びの重要性を痛感したと明かす。「アスリートは自分と共通言語を持っている人としか話さないので、社会と断絶している存在。積極的にビジネスの人と関わっていく為末大さんとか本田圭佑さんと差が出てくると思う」。

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 小学生から野球一筋で育ち、高卒で北海道日本ハムファイターズに大谷翔平選手に次ぐドラフト2位で入団した森本龍弥氏(25)は、ケガの影響もあり、1軍へのチャンスはなかなか訪れず、2017年には1軍で5試合に出場するも、2018年には1軍出場ができない育成契約に。そして昨年、戦力外通告を受け、現役を引退。日本営業大学で学んでいる。

 「3年目ぐらいまではセカンドキャリアを意識していなかったが、僕はケガが多かったので、4年、5年、6年と年齢を重ねるうちにセカンドキャリアについて考えるが、どこかで野球に集中しないといけないという気持ちもあったので難しかった。球団の方からも話をいただいたが、僕はずっと野球界にいても成長はないかな、社会にも出たいと思って引退を決断した。プロ野球選手になれたことは良かった。そこに悔いはないが、去年10月に引退してからは“燃え尽き症候群”になってしまった。野球しかしたことがなく、バイト経験もなかったので、お金の稼ぎ方のイメージが全然湧かなかった。高校を出て(日本ハムに)入って、いきなり月4、50万もらったので、それが当たり前の生活になっていた。“社会に出て通用するのか?”とかそういう気持ちがあった。まずは誰かの下で働いて修行をして、いつかは起業したい」。

■「体はキツイけど競技と仕事を両方取れる選択肢は魅力的」「デュアルキャリア」を実践するアスリートも

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 引退後からセカンドキャリアに踏み出すアスリートがいる一方で、現役の間から引退後に備える「デュアルキャリア」を実践するアスリートもいる。企業に所属する選手はいても、多くは競技のみに集中。しかしデュアルキャリアは競技と仕事を両立させることにより、引退後もスムーズに次のキャリアに移行できるのだという。

 国内トップレベルのトランポリン選手・中村優希氏は、今年4月からITベンチャー企業「株式会社ジーケーライン」で働いている。同社では短い勤務時間で練習時間をしっかり確保することができ、さらに大会などの際は有給扱いで休めるアスリート休暇や、遠征費などに使えるアスリート手当が支給される。「10時スタートで19時終了のところを17時までにして、18~21時を練習に充てるというのが基本のスタイル。確かに体はキツイけど競技と仕事を両方取れる選択肢は魅力的だ」。

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 こうした取り組みは企業にとってもメリットがあるようで、株式会社マイナビのアスリートキャリア事業室の木村雅人室長は「トップアスリートになれば自社の広告・宣伝ができる」「競技で活躍する人がいると社内のエンゲージメントが高まる」「採用に苦戦している企業は優秀な人材の確保ができる」と話す。

 ただ、全ての競技で実現できるかは不透明で、中田氏は「YouTuberをしている現役選手もいるが、プロ野球選手などに関しては、なかなか選手も思い切れないところがあるのかなと感じている」と指摘した。

■日本の「スポーツさえやっていれば卒業できる」教育の変革を

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 Jリーグのアドバイザーもしている慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は「サッカーの場合、高校サッカーとユースチームの2つの道があるが、ユースチームで一番うまい選手でも、ほとんどJ1には入れない。しかも本当にサッカー漬けでやってきたので、“さあどうする?”となった時に、いきなり道がなくなってしまう。日本の場合、スポーツの指導においては100%の時間をそこに費やさなければいけないみたいな根性論、いわば終身雇用みたいな考え方、スポーツさえやっていれば高校を卒業したことにする、大学を卒業したことにするという体育会的な考え方がある。欧米では2競技同時にやることもあるし、全米大学リーグでは一定以上の成績を取らなければ競技大会に出られないことになっている。日本営業大学のコンセプトはすばらしいと思うが、子どもを一つのものに賭けさせておいて、ダメだったときにフォローしない体制、教育制度こそ変えなければならないのではないか」と話していた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)

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アスリートのセカンドキャリア"引退後の第二の人生"社会に残る高い障壁 元プロ野球選手と考える
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