政府は13日、新型コロナウイルスワクチンの2回の接種を終えた人が全人口の5割を超えたと発表した。さらに厚生労働省は3回目の接種についても専門家による議論を始めると発表した。
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緊急事態宣言、そしてワクチン接種の効果もあってか、直近数週間の新規感染者数の推移と都心の繁華街の人出の推移を比較してみると、2つのデータの間には相関関係がないようにもみえる。こうした傾向について、「山火事理論」と名付けた仮説を提唱しているのが、元陸上自衛隊医官で石本病院(茨城県笠間市)院長の中村幸嗣医師だ。
「人流抑制が感染を減らすということは間違いない。ただ、人々を山に生えている木だと考えてみると、1つ目の山で火事が起きた時、隣の山に移らないようにすれば燃え移らない。また、ボヤの段階で収まれば大事にはならないが、大火事になればある程度の木が燃えてしまうまでは収まらない。ただ同時に燃えなかった木については感染して燃えにくくなっている可能性があるのがコロナだ。また、燃えてない木にワクチンを打ち続ければ、燃えにくい木を増やすこともできる。
そのようにして、ほぼ燃え尽きて燃えにくい木しか残っていないか、あるいはワクチンで燃えにくい木が増えたから火が収まっているのではないか、という仮説だ。その意味で、初期段階では人流抑制に意味があるが、現段階では関係がないかもしれない、ということだ。また、基本的に冬の方がウイルスの寿命というものが長くなるため感染症が増えるということが言われている。今年の夏がひどかったのは、人流に加え、デルタ株が出てきたからだ。それでも東京都で1日の感染者数が5000人程度で済んだのは不思議で、僕はやはり“ファクターX”があるのではないか」。
愛知医科大病院の後藤礼司医師も「やはりコロナに関しては今までの理論だけで断定するのではなく、フラットな目で見て検証していかなければならない。中村先生の理論のような発信の仕方というのは大事だし、こういうものを吟味していくことが大切だ。初期段階の人流抑制は非常に大事だと思う。燃えにくい木のところで止まるというのが、いわゆる集団免疫だし、ワクチンが防波堤になっているという可能性はある。やはりワクチンを打てば重症化率が圧倒的に低くなるので、医療を逼迫させないという意味でも非常に大事だ。全くかからないゼロリスクは無理だろうが、ワクチンはかなり有効なのは間違いない」。
一方で、「この冬、今の第5波以上のものが出るかどうかは予測できない。もちろんウイルスにも得意な時期があるが、コロナに関しては複合的な要素が多く、検証しながら前には向かっていくしかない。それでも乾燥した時期になれば咳が出たり、飛沫の飛ぶ距離が延びたりするし、人と人との接触が増えればウイルスも増えやすくなる」とした。
また、Twitterアカウント「手を洗う救急医Taka」としても知られる、新型コロナワクチン公共情報タスクフォース副代表理事で CoV-Navi副代表の木下喬弘医師は「人と人とが接触すればうつるということには誰も異論がないと思うが、人流抑制だけが対策ではないというのは最近出てきた話ではない。西浦博先生が去年“8割接触減”と言ったのも、正確には“人流と接触機会の掛け算で8割減らせればいい”ということだった。つまり、街に出る人が増えたとしても、人と人との接触が減らせていれば感染は広がらないということだ。そのためにマスクといった要素もある。
僕の場合、家にずっとこもっているので、このまま100年経っても感染しないと思っているが(笑)、感染リスク行動を取っている人は実はそんなに多くないんじゃないか。一方で、毎日のように飲み会をしている人もたしかにいる。そういう人たちの間で集団免疫に近いぐらいの人数が感染することで、感染がある程度収束していくという可能性もあるかもしれない。ただ最もゴールに近づくのは、やはりワクチン接種者が増えることというのは間違いないと思う」との考えを示した。
■出口戦略のための“合意形成”をするタイミングに
長引く行動制限を緩和すべく、“出口戦略”として、ワクチン・検査パッケージの話が出てきている。しかし接種率が8割を超えるシンガポールでは先週末の新規感染者が1000人を超え、1カ月前のなんと10倍に。コロナとの共存に向け行動制限の緩和に切り替えてすぐの感染増。日本のコロナ対策も慎重なかじ取りが求められることになりそうだ。
木下医師は「最近のデータでは、やはりワクチンはデルタ株に対しても感染予防効果があり、何もしていない人よりもリスクが3分の1になるというデータもある。ブレイクスルー感染の場合、重症化率もかなり低いので、感染者数が増えても重症者や死亡者数が増えない、つまり医療をあまり逼迫させないというメリットがある。そうなってからもずっと自粛しようというわけにはいかないので、比較的安全に社会経済活動を再開するためにはワクチンパスポートは必要だと思うし、打ちたくない人のための代替手段として陰性証明という話だと思う。
ただ、注意点がある。それは打っていない人も行動していいと思ってしまいがちだということだ。陰性証明の人はワクチンを打った人以上に重症化する可能性が高く、医療を逼迫する可能性もあるということを考えておかなければならない。また、2回接種を終えていても、高齢者は時間が経ってくると重症化するというのがイスラエルのデータで分かっている。次の波で高齢者が重症化しやすくなり、ICUのベッドを長く使うみたいなことになることを考えると、しっかりと3回目を打てるかどうかということも重要なファクターになってくると思う」と指摘した。
後藤医師は「大前提として、我々医療者も経済活動を邪魔したいとは一切思っていないし、なんとか支え、コントロールできるよう探っている。2回のワクチン接種の後というのはリスクがかなり抑えられるため、感染者数だけではなく、病院の逼迫度とか違った指標で見なければいけない。僕らも経済を支えたいんだということを忘れないで合意形成ができたらいいなと切に願っている」とコメント。
中村医師は「2回の接種によって、イスラエルと同じぐらいの期間、猶予ができると思う。一度燃えたら、人流を抑制してもダメなので、そこはボヤにするしかない。それが尾身先生の言っていた疫学調査だ。第1波を抑えた後、保っていたのは、新宿の小さなボヤぐらいで済んでいたからだ。それが年末年始の忘年会・新年会で火事が起き、そして非常事態宣言をやっても言うことを聞かなくなってしまった。そしてデルタ株が出てきて、5000人までいってしまった。今度こそ、大火事にさせないことが大切だ。
また、口が悪くなってしまうが、特に医療者はワクチンを優先的に打たせてもらった。それこそ後藤先生のように、寝る間も惜しんで対応にあたった方々もいる。そこを少しでもフォローするぐらい、他の医療機関もやるべきだということが正直な感想だ。私のところは小さな老人病院なので難しく、地域においてはコロナの患者を診たというだけで看護師さんのお子さんが学童に行くのを禁止されてしまった。元自衛官の医師としは国も守りたいと思うが、従業員も守りたい。だから申し訳ないが、発熱外来とワクチン接種と普通の外来は一生懸命やることしかできないし、医師会の人たちの気持ちは分からなくもない」と胸中を語った。
■“今から再び潜る”ということを国民に言える人に総裁になってほしい
慶應義塾大学特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は「このまま完全に終わりという保証はないということだし、これから今回よりも大きい波がくるかどうかは別として、また上がってくる可能性は十分にあると考えると、今はチャンスだということだ。減ったと言って喜んでいるだけでなく、こういうときにGoToキャンペーンなどをやってもいいのではないかと思ったし、病院の体制を整えましょうといった議論をすべきだ。ただ、日本人は緩和と言われると全員が緩和してしまうから、計画停電のように営業再開や出勤時間のローテーションを組んでもいいと思うし、それこそ政治の役割だ」。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「渋谷の人流で言えば、マスクをして通勤で乗り換えるだけの人も、無言で買い物をしているだけの人も含まれているはずだ。本来であればマスクの装着率や会話をしている率、お酒を飲んでいる率などのデータをとって、今日のマスク装着率は60%だったくらいやらないとわからないこともある。一方で、どうしても出勤しないといけないエッセンシャルワーカー、必要があって買い物に行っている人まで抑制しないといけないのかという話になるので、そこのバランスがすごく難しい。そこでワクチンパスポートという話になっている」。
リディラバ代表の安部敏樹氏は「そこでメディアが今一番やるべき仕事は、社会全体でどこまでリスクを許容するかという合意形成を図ることだと思う。ゼロリスクはない、亡くなる人が完全にいなくなることも多分ない、とはいえ重症化率が下がって来ているし、ワクチンが行き渡れば集団免疫も部分的にはできてきているというのに、注目しているのが新規感染者数ばかりになっている。やはり重症者数や死者数に関しても、“ここまでは仕方がない”という線を引かないと、出口はずっと見えないままだ。リスクが高い仕事だが、誰かがやらなければならないと思う。そして、ワクチンパスポートが出てもリスクはゼロにはならないので、こうなったら再び緊急事態宣言のようなものが必要だ、ということを共有するのもメディアの役割だと思う」と指摘した。
木下医師は「今までずっと潜っていてしんどい思いをしていたので、今は息継ぎをしないといけない時期だと思う。ただし、この息継ぎのタイミングで経済を回していくと、必ず感染者は増えていく。そのときに参考資料として新規感染者数は大事だが、ワクチンを打っているので重症化患者があまり増えてこないということで、ある程度は許容できるよねという議論をすべきだと思う。3回目の接種で景色も変わると思っている。3回目を打った後は、2回目を打った後よりも長く続くはずだ。ずっとこれをエンドレスにやっていくという話ではないと思っている。
ただし、息継ぎから、また潜らないといけない時も来ると思う。そこの舵取りをできるかどうかだ。現時点でアメリカはそれで燃え広がってしまっている。これまで菅総理のやってきたことを見ると、ワクチン接種がかなり進んだのは素晴らしかったが、ブレーキをかけるということについてきちんと国民にコミュニケーションできなかったということだった。次の総裁に期待するのは、“今から再び潜る”ということを国民に言える人になってほしいなと思う」と訴えた。(ABEMA/『ABEMA Prime』より)
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