9月20日、K-1横浜アリーナ大会でのウェルター級王座決定トーナメントは、誰もが望む形で決勝戦を迎えた。野杁正明と安保瑠輝也。どちらも優勝候補であり、ともにスーパー・ライト級でK-1のベルトを巻いている。安保自身、野杁との決勝を予想。野杁も安保の実力を認めつつ「負ける要素は1ミリもない」と自信を見せていた。
大胆な言動で“ダークヒーロー”とも呼ばれる安保だが、階級を上げても実力は本物。1回戦で得意の2段蹴りを決め1ラウンドでKO勝ちすると、準決勝ではKrush王者の松岡力を3ラウンドKO。大口を叩き、その上で結果を出すという自らのイズムを体現してみせた。 一方、野杁の強さも圧倒的だった。1回戦、準決勝ともに初回KO。こちらも「実力の差を見せつける」という狙い通りの闘いだった。
トーナメントとして最高の流れ。ここまでに両者が見せた闘いから、決勝への期待感は高まりきっていた。そして試合は、想像を超える結末を迎える。1、2ラウンド、野杁が圧力をかけていく。だが手数で上回ったのは安保。重そうなパンチに加えバックキック、2段蹴りも。それでも前に出続ける野杁はロー、ボディ攻撃。安保はボディを攻められるとクリンチするようになる。
3ラウンド、野杁の左ボディフックで安保がダウン。立ち上がると今度は蹴りがボディにめり込む。執念でテンカウントを聞かなった安保だが、最後もボディへの蹴りで3ノックダウンとなった。宣言通り、野杁が「引くほどの強さ」を見せつけての優勝だ。
「まさか自分がボディで倒れるとは。呼吸できなくなるようなボディ(攻撃)は初めてもらいました」
野杁の攻撃の強力さを、安保はそんな言葉で振り返っている。野杁によると、3ラウンドかけてボディかローで倒すと試合前から決めており、そのプラン通りのKOだったという。また野杁は「ここ最近、勝負してくれる選手がいなかったんで楽しかったです」とも。安保がファンの期待通りに勝ち上がり、キャリアのある野杁に対して臆せず攻めていったからこそ生まれたKOだった。
試合後のリング上、野杁は「僕と瑠輝也は世界トップの実力を持っている。瑠輝也と決勝で闘えてよかった。また這い上がって僕のベルトを狙ってくると思いますが、何回やってもまだまだ甘くないぞという内容で勝ちます。瑠輝也の復活劇も楽しみにしてください」とエール。中村拓己K-1プロデューサーは大会一夜明け会見で「MVPは瑠輝也選手だったと思います。野杁選手と瑠輝也選手、2人がいたからトーナメントが成立しました」とコメントした。
野杁と安保の間には、確かにまだ差があった。ただ“倒しにいって、倒された”闘いぶりがファンを魅了したのも間違いない。安保の評価は下がっていないと言えるだろう。試合後の言葉も安保らしかった。
「これから野杁選手に挑戦していく格闘技人生を選んでいきます。僕を好きな方は応援していただいて、アンチの方も興味を持っていただいて、注目してもらえたら」
この負けによって、安保瑠輝也という選手への興味がより増したという格闘技ファンも多いのではないか。野杁の圧倒的な強さだけでなく、そういう意味でもこの決勝戦は名勝負だった。
文/橋本宗洋
写真/K-1