名古屋地裁岡崎支部は、公園のトイレで赤ちゃんを出産し、そのまま死なせたとして今年5月、元看護学生に懲役3年執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。
【映像】中絶は“22週未満”まで…彼氏の同意は必要? 学校で教えるべき「母体保護法」の中身
当時20歳だった元看護学生(※未婚女性)は昨年、愛知県西尾市の公園で生んだばかりの男の子の遺体を放置。そのまま赤ちゃんを遺棄したとみられている。
元看護学生は「相手男性から中絶の同意書にサインが得られないうちに連絡がとれなくなり、サインがないことで病院に手術を断られているうちに、中絶できる時期を過ぎてしまった」と裁判で証言。21日、これが読売新聞で報道されると、ネット上で多くの反響を呼び、Twitterでは「未婚女性」のワードがトレンド入りした。
女性が中絶できる時期は母体保護法で決まっている。12週未満の妊娠初期では15分程度の手術で済み、問題がなければその日のうちに帰宅する。一方、12週から22週未満では、出産に近い形で処置を行い、体に大きな負担がかかる。役所に死産届の提出が必要になり、さらに22週を過ぎると、中絶手術は受けられない。
婚姻関係がある男女の場合、原則として中絶手術の同意書に「配偶者のサイン」(※)が必要だ。しかし、未婚の男女の場合には、中絶の同意書に男性のサインは必要ない。ところが、訴訟などのトラブルを恐れた医療者が、男性側のサインを求めるケースも少なくない。
(※編集部注)婚姻関係がある男女でも、母体保護法では、配偶者が知れないとき、もしくはその意思を表示することができないとき、妊娠後に配偶者が亡くなったときは、本人の同意だけで足りるとも明示されている。また、厚生労働省は、DV被害などで婚姻関係が実質破綻している場合も「本人の同意だけで足りる」としている。
本来であれば“不要”の男性側のサイン――。今回の事件について、静岡大学の社会学者・白井千晶教授は「氷山の一角だ」とコメント。「妊娠が早期に発覚したある女性がいましたが、その女性は経済的に(子供を)育てられない状況でした」と過去の事例を明かす。
「女性は中絶を決意しましたが、相手の同意を得るのに何週間もかかってしまい、妊娠週数が進んでしまったんです。クリニックに行ってみたら『あなたは妊娠が進んでいる』と言われてしまった。『進んでいる』といっても、その週のときは初期中絶ができる週数でした。でも、今から予約したら何週間後になって『中期中絶になるでしょう』と。『そうなると、少し方法が変わるから、うちのクリニックではできません』と言われてしまったんです。本当は、クリニックに行ったその週、もしくは次週であれば、初期中絶ができる時期だったのに」
白井教授によると、その女性は手当たり次第に産婦人科に電話をしたという。しかし「初診はお断り」「中絶のためにくる患者は断っている」と言われ、中絶手術が受けられる病院を探すも、数十件の病院に断られた。
「その女性は自分の状況がよく分かっていました。もちろん母体保護法で『経済的理由で育てられない場合には生まないという選択肢もある』と決められています。女性はキチンと自分の状況を振り返って『今は子供を産んでも育てられない』と自分で判断できていたわけですよね。結果として中絶できる週数を超えてしまい、その女性には『産む』という選択肢しか残りませんでした。でも経済的に育てられない状況に変わりはないですから、最後は養子に託すことになりました」
■ “安全な中絶へのアクセス”は女性の権利 産婦人科医「場合によっては弁護士にも相談を」
相手男性のサインがないことを理由に処置を断る病院の対応について、産婦人科医の遠見才希子医師は「場合によっては弁護士へ相談することも選択肢の一つ」と話す。
「法律上は不要な同意なのに、医師からそれを求められて中絶できない。これは非常に法律上の問題にかかわってくることです。中絶は女性の健康にかかわるものです。重要かつ一刻を争う医療ですので、安全にアクセスできるよう、産婦人科医も対応していかなければいけません」
一般的な“中絶”のイメージとは、相反しているように見える「安全な中絶へのアクセス」。しかし、これはWHO(世界保健機関)が明言した国際的な共通認識でもある。
「中絶が必要な女性がいたら、その女性は安全な中絶にアクセスする権利があります。これが国際的な考え方であると知ってほしい。中絶する前でも、中絶した後でも、その女性自身が大切な存在であることは変わりません。妊娠は男女の性交の結果、生じるものですが、それが体に起こるのは女性です。選択するのは女性ですし、生む場合も生まない場合も、女性自身の健康や人生にすごく大きな影響があります」
「安全な中絶を提供することは、産婦人科医の役割でもあります。自分の体のことを自分で決める、身体的にも精神的にも社会的にも健康が守られる。そういった性と生殖に関する権利と健康は揺るぎないものです。必要な女性にとって、安全な中絶へのアクセスを確保していける社会になるといいなと思います」 (『ABEMAヒルズ』より)
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