岸田総理の“成長と分配の好循環”は「言葉遊びのようにしか思えない。日本は成長しなくてもいい国になっている」法政大・水野和夫教授
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 総裁選で「新自由主義からの転換」を唱えてきた岸田総理。就任後の会見でも「成長だけでその果実がしっかりと分配されなければ、消費や需要は盛り上がらず次の成長も望めない」と指摘、“新しい資本主義”を訴えた。

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 これについて、法政大学の水野和夫教授は「アベノミクスがうまくいったとしても、せいぜい2%成長だ。それでは資本家はとても満足できない。政府も利潤率8%、願わくは欧米企業並みにしろと言っているが、なおかつ労働分配率も上げろというのは無理じゃないか。言葉遊びと言っては失礼だが、そういうふうにしか思えない」と断じる。

 「この20年、労働生産性はゆっくりと上がっていたが、働いた人に対して、それに見合わない賃下げが行われてきた。“分配する”と言うのであれば、まずは過去20年に蓄積された歪みを元に戻してからだろう。正当に支払われてこなかった労働者の賃金や預金者の利息は累積で150兆円になる。これを所有者に戻すところからスタートしないといけない」。

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 これに対し、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「小泉政権の竹中平蔵さんによる構造改革やトリクルダウンの話はたしかに新自由主義だが、アベノミクスでは賃上げ要請を行ったりしたし、失業率や就職率も改善された。いくら労働しても稼げないというのは確かにそうだと思うし、もちろん貧困世帯の問題は深刻だが、アメリカの“オキュパイ・ウォールストリート”運動が訴えたような“1%の金持ちと99%の貧乏人”というほど、日本の中間層はまだ没落していないし、基本的には富が分配されていたとも言えるのではないか」との見方を示した上で、「結局、この30年間にわたる不況で起きたことは、グローバリゼーションで勝つためにとコスト、給料を減らし続けた結果、内需中心の国になっているにも関わらず消費ができなくなった。そしてデフレマインドが先行した結果、経済成長もせず、給与水準も欧米の半分以下になってしまった。一方で、企業は内部留保を溜め込むことになっている」とコメントした。

 資本主義の限界や“脱成長”を主張してきた水野教授。「そもそも資本主義に新しいも古いもない」とし、次のように指摘する。

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 「資本を無限大に蓄積していくというのが資本主義だ。そういう中で人々の生活水準を向上させること。もう一つは危機的な状況になったら困っている人を救済してくれるということ。それを皆で契約して作ったのが近代国家だ。しかし、かつては12歳以下の児童が1日に16時間も働かされ、病気になっても入院すらできないというような時代が続いてきた。その唯一の例外が第二次世界大戦から1970年代半ばぐらいまでの、いわゆる高度経済成長時代で、分配も成長もできたということだ。しかし新自由主義が出てきて、誰も助けないのがいい社会ということになってしまった。これは国家の否定だ」。

 その上で水野教授は「成長なくして分配なしというが、もう成長しなくてもいいような状況になっている」と主張した。

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 「資本主義というのは下から上に利益を付け替えるのが基本なので、上から下に行くなんていうことはほとんどあり得ない。むしろ貧しい人たちに惨事を引き起こして、それに乗じて利益を増やしていくわけで、過去、トリクルダウンということもなかったのではないか。結局、この20年間、成長しようと思って空回りしていただけだ。新規の投資も、せいぜいGDPの2%ぐらいすれば十分回っていく。にも関わらず、50兆、60兆円の当期純利益を毎年生み出し、それが使われないまま内部留保金という“石”になってしまっている。

 ゼロ金利というのも、あらゆるものが満ち足りた状態だということだ。日本は必要なときに必要なものがいつでも手に入る状況だ。新しいスマホが出てきても、実際は2年前のものでも十分なはずだ。パソコンだって、5年前のもので十分使える。衣食住は完全にオーバーキャパシティだ。足りないのは旅行や映画などのサービスだが、正社員は2000時間も働いているわけで、そこから解放されないために消費が伸びないという悪循環に陥っているということだ」。

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 これに佐々木氏は「でも、それができるのは豊かな人だけだ」と反論。「スマホを買い換えるのに悩んでいるのはアッパーミドルだけで、アンダークラスと言われるような年収200万以下の人たちが大量に現れてきている。そこに対する分配を考えれば、MMTが言っているように国債を増発しつづけるか、そうでなければ増税するかどちらかしかない。だから岸田さんも金融所得増税、金融所得に関しては増税するといっている。これは国民からの理解は得られると思うが、果たしてそれだけで足りるのかどうか。やはり経済成長をすれば法人税収が増えていくので分配も可能になるのだろう」と反論。

 しかし水野教授は「日本にはまだ中間層がしっかりあるとおっしゃっていたが、例えば金融資産ゼロの世帯は80年代には3%しかなかったのが、今は20%を超えている。一方で個人金融資産は2000兆円と、20年間で倍になっている。首都圏以外の地域は、ほとんど個人金融資産を減らしているし、このままいくと、アメリカのような傾向をたどっていく」と答えていた。

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 一方、慶應義塾大学の若新雄純・特任准教授は「構造上、こぼれ落ちていく人たちに対して分配するために、成長するポンプのような仕組みは残しておかないと分配することもできない。これからは“何のための成長か”のとらえ方を変え、一部の人が儲かり雇用を広げる形からいろんな人たちがチャンスを失われたと思われない形になるように経済成長続けていくというところに落ち着くのでは」と指摘した。(『ABEMA Prime』より)

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