米アカデミー賞の前哨戦としても知られる映画の祭典・ゴールデングローブ賞。1944年に始まった賞レースで、1956年からはテレビドラマも対象となり、受賞作には世界の注目が集まる。
その対象作を投票によって決めているハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)が今月、新たに黒人6人と女性10人を含む21人が入会したことを発表。日本人会員も、3人から5人に増えている。
【映像】多様性重視で作品に影響は?現役会員に聞くGG賞の舞台裏
背景にあるのが、“多様性に欠ける”との批判の声が上がっていたことだ。今年に入り、NBCテレビが2022年度の授賞式を中継しないことを表明。また、受賞作を送り出してきたAmazonやNetflixなどもボイコットを決定していた。
現役の会員でもある映画ジャーナリストで映画監督の小西未来さんはHFPAの加入資格について「外国のメディアで定期的に仕事をしていて、南カリフォルニア在住であれば、基本的な条件は一応クリアしていることになる。ただ、現会員2人の推薦を受けた上で投票にかけられ、過半数が得られなければ承認されないので、政治的なバトルも起きる。また、ルール上、年間5人まで新たに加入できることになっていたが、亡くなった会員の分だけという感じで、1人か2人増える程度。0人という年もあった。そのため、人数としては80〜90人くらいで推移していた」と説明する。
「1940年代当時のアメリカのスタジオにとっては、海外のメディアや観客はそれほど重要ではなく、個別に取材を申し込んでも応じてもらえないことが多かった。そこでハリウッドを取材をするヨーロッパのジャーナリストたちが集まり、会見を開いてくださいと訴えたのがHFPAの始まりだ。その後、ゴールデングローブ賞として作品を選ぶようになったが、これがアカデミー賞にも影響を与えるようになると、今度はスタジオ側が積極的に取材の機会を与えてくれるようになっていった。
そしてHFPAでは、そうした会見の内容は全ての会員が共有できる。だから新しい会員が入ってくると競争が生まれると、特に自国からの新規加入を嫌がる会員も多い。僕の場合は中島由紀子さんという先輩が加入するのに苦労されているのを見ていたし、応募しようなんて考えたこともなかった。ただ、日本人会員が2人いらして、誘われて申請してみたら、スルッと入れてしまった。中に入ってみると、実際には執筆活動をしていない会員も多かったので、そこは変えていくべきだと思っていた」
一方で、人種差別があるという感覚はあまり無かったため、協会への批判に大きな激震が走ったという。
「先程ご紹介した入会の条件をクリアしているエンタメのジャーナリストは多くはなく、実際、過去に入会を申し込んだ黒人の方は1人しかいなかった。だから僕自身も差別しているという意識は無かった。ただ、“白すぎるオスカー”が批判されるなど、多様性や包括性が指摘される中で、このままではまずいのではないか、という思いがあったことは確かだ。やはり試写や取材の機会が多いのがロサンゼルスなので、それではアフリカの貧しい国のジャーナリストは活動することができず、格差が生じてしまう。
それでも昔ながらの形を守ろうという人たちが多くを占めているので、ルールを変えようという動きは見られなかった。だから今年に入ってからの批判によって大パニックが起きた。このままでは来年のゴールデングローブ賞が無くなってしまう、背に腹は代えられないということで、4月ぐらいから規定を変えるために皆を説得したり、多様性や包括性とかのセミナーを受講したりして、ようやく最終段階として新メンバーの発表を迎えたということだ。今回、アメリカに住んでいれば大丈夫ということになったり、黒人のジャーナリストを支援する団体にアプローチして応募を募ったりすることになった。先に機会を与えてしまおうということだ。
やはり、“外圧”がなければここまで変わることはできなかったと思う。年間に書かなければならない記事の本数も増え、本当にリタイアしている人は資格を維持しづらくなっているし、会員ではあっても投票権はないという形になっていく。個人的には、日本でアメリカの映画とかドラマをもっと紹介したい。でも個人の能力には限界があるので、より多くの日本人ジャーナリストに入ってきてほしいと思っていたので、これを機に新しい団体になったという感じがしている」。(『ABEMA Prime』より)
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