学校の道徳教育、今のままでは教科書や教師に“忖度”する優等生が点を取るだけの教科に?
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 2018年度から小学校で、19年度に中学校でスタートした「道徳」の「教科化」。2011年に滋賀県大津市の中学校で起きた、当時2年生だった男子生徒がいじめを苦に自殺した事件などをきっかけに文部科学省が進めたものだが、果たして当初の目的のとおり、いじめの撲滅、さらにモラルや倫理観をめぐる教育の改善に寄与しているのだろうか。

 Twitter上には、「模範解答をすれば成績が良くなるってことでしょ」「これ、意味ある?」など、成績評価がなされる「教科」になったことでの弊害を指摘する声もある。

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 『ABEMA Prime』に出演した中央大学文学部の池田賢市教授は「教科になったことでの最も大きな変化は、文部科学大臣の検定を経た教科書が作られ、成績がつけられるようになったということだ。教科書については学校教育法で使用義務が規定されているので絶対に使わければならないが、その中身はといえば、道徳についてきちんと考えたり、議論したりすることができるような作りにはなってない。

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 また、学校教育というのは昔から子どもにある意味での“忖度”を強要する部分もあるので、評価をつけるということは、“どんなふうに答えればいいのかな”と考えさせてしまうことにつながる。このままでは、道徳という教科から学べることが“忖度の仕方”、あるいは“本音と建前の使い分け”、ということになってしまうのではないか。怖いなと思う」と話す。

 また、いじめ、さらには青少年犯罪の抑止といった観点についても、「教科化とは関係ないと思う」と指摘する。

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 「実際、学校教育でこのような道徳教育をやれば“ほら、いじめがなくなったでしょ”となるかどうかは、文科省でも証明はできていない。むしろ、そのような問題の原因を学校教育の中に求めてしまうという発想自体がどうなのだろうということにもなる。最近の統計では、いじめが少し減ったというデータもあるが、文科省はコロナで出席日数が減ったから、活動が制限されたから、といった分析をしているが、結局は学校に行かなくなったから認知件数が減ったというだけで、見えないところでは進行している可能性もある。

 もっと言えば、世論も“教科になったのだから一生懸命やってくれるのではないか”と思ってしまっているところはないか。そうすることで、社会や政治の側は免責され、“全て学校にお任せ”という話になってしまう問題が出てくる。基本的には、子どもの生活環境全般の問題で、学校教育はその中の一部だ。そして、学校で人間関係を構築していく中で、自然に学び合う部分も出てくる。その意味では、競争社会などに追われ、学校自体にそういう時間を保障してあげられるだけの余裕もなくなってしまっている。実際、小学校では道徳だけでなく英語も教科化され、学校側はもういっぱいいっぱいだ。何か問題がある時とすぐに“学校で”“教科にしよう”ということでは、かえって道徳性は培えないのではないか」。

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 リディラバ代表の安部敏樹氏は「道徳教育を本来の意味で追求していくと、つまり教員側、あるいは教科書の価値が絶対ではなく、ある種の対話的なものにするしかないと思う」と話す。

 「高校の授業の中で一番記憶に残っていが倫理の授業だ。人を殺したことがある人たちの手記などを読んだ上で、“人はなぜ殺してはいけないのか”という議論をした。ただ、こういう授業をするのは、先生としてはリスクを抱えながらになるし、実際できる人は多くないのではないか。また、英語や国語と同じようにするのであれば、教職課程の中で資格を位置づけるべきだ。そしてもっと根底を考えると、その子どもの家庭環境にダイレクトに繋がってくる部分も大きい。やはり表面的に教科書を読ませたらなんとかなるというふうに考えること自体、非常に思考停止だと思うし、学校だけに押し付けて解決させるのは現実に難しい」との考えを示した。

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 EXITのりんたろー。は「いじめに関していえば、いじめられている子の声は聞いたことがあっても、いじめている子の、何かがきっかけで改心したのか、といった話を聞いたことはない。そういう体験って生み出せないのかなって、ずっと考えている」と指摘。

 池田教授は「いじめていた側の声を聞く、というのはすごく良い視点だと思う。もちろんいじめはいけないが、厳罰化に向かうだけでなく、いじめる理由、例えばその子自身が抱えている問題を丁寧に見ていくことも必要だし、その子をハッピーにしてあげるという視点も重要じゃないか」とコメント。

 「いじめがいけない、といったことは全員がすでに知っていることだし、文科省も、考え、議論する道徳だと盛んに言っている。本当にそうだと思う。だからこそ、本気で考えさせてほしいし、本気で議論させてほしいと思う。例えば“親切”にしても、様々な家庭背景があるわけで、あの人はこうだし、この場面ではこうだ、というものがある。それが学校の中ではぶつかり合いが起こる。そこをきちんと話し合いで調整していく。そこに対して、ただ正義感とか家族愛とか、項目を列挙しても仕方がない。特にグローバル化、多文化社会と言われているが、それは多宗教社会でもある。つまり価値や生き方が宗教的な問題と相当重なってくるわけで、そこも真剣に考える必要があるということだ。そこが日本の学校教育では踏み込めてないとも思う」。(『ABEMA Prime』より)

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