タブーを避けてキャラを演じ、親友も持てない日本の若者…低投票率の背景を宮台真司氏に聞く #衆院選2021
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 週末に迫った衆議院選挙の投開票日。28日の『ABEMA Prime』では、選挙の度にメディアが指摘する若者の低投票率問題について、社会学者・東京都立大学の宮台真司教授に話を聞いた。

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■過剰さを避け、連帯できない若者たち

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 まず、“投票先がわからないから”といった意見について宮台氏は“政治に関する価値観がないからだ”と指摘する。

 「日本の政党は所属議員に対する党議拘束がキツいので、個人の公約や魅力には意味がない。つまり政党で選ぶしかないが、選ぶためには政治に関する価値観が必要だ。これは若い頃から政治についての議論をすることで醸成、ビルディングされるものだが、例えば日本の大学生の間では、15年くらい前から性愛の話題と政治の話題と、本当に好きなもの、つまり趣味の話題はタブー視され、SNSで語る場合も“裏アカ”が使われている。

 なぜこの3つのタブーが出てきたか。それはさらに時代をさかのぼって90年代後半、“イタイ”という言葉が出てきたことに関係している。つまりそれは“過剰”であることだ。例えば年の差恋愛をしているのは性愛的に過剰だから“イタイ”。オタクがうんちく競争をしているのも“イタイ”。同じように、政治的に過剰であるのも“イタイ”。だから大学生も“変な人”だとは思われたくないから。政治の話題は絶対にしない。だから、選挙に関心を持つことができない。

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 実際、数年前に安保法制反対の国会前デモや集会ですごく活躍したSEALDsがあった。でも僕が大学でSEALDsのことを聞くと、“あれってヤバいんじゃないですか”みたいな感じの反応だった。SEALDsのことについて喋らないの?と聞いても、“いや、絶対喋りませんよ”とほとんど全員が答えていた。だから“イタイのがかっこいい”というのは、そういうラベルで売り出している芸人さんなどがそっちの方面のモードが許されるというだけで、全体としては過剰であることを忌避しているということだ。

 よく“キャラを演じる”とよく言うが、これも過剰さを避けないと、自分のポジションがなくなるからだ。だから今の若い人には友だちがいない。そう言うと、“友だちはいる”と言うが、悩みを打ち明けられるような人、さらに悩みを聞いて一肌脱ぐような親友は100人に1人か2人しかいないので、やはり僕らの語法でいえば、今の若い人には友だちがいない状況だ。

 また、連帯という問題も重要だ。社会福祉学者のジョック・ヤングが言った『過剰包摂問題』というのがある。僕が若かった1970年代は地方出身者やブルーカラーは見ただけで分かる、喋っただけで分かる。そして弱者同士が“お互い弱者だよね”と連帯ができていた。ところが80年代後半以降になると、今で言えば年収2億のIT長者も年収200万のカツカツの非正規雇用労働者も、同じような格好をしてスターバックスでラテが飲めるわけだ。つまり見かけでは所属や階層、階級が分からない。

 そうなるとみんなが“足元を見られたくない”と思って、やはりキャラを演じる、ぶりっ子をする。”弱者じゃないんだ”というふうに見せたくなっちゃう。だから弱者同士の連帯もありえない。本来、連帯する中から出てくる議論、そこから出てきて固まっていく価値感というものがあるはずだが、それがない」。

■議論、コミュニケーションの機会にも恵まれず

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 また、EXIT兼近大樹が「今の若者には不安がないと思う。自分たちは“弱者じゃない”という感覚があると思う」と話すと、宮台氏「それが世代効果だ」と説明する。

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 「僕の世代は大変豊かなバブル時代を知っている。赤坂に本社がある学生企業の役員をしていたが、接待は“お祭り”だった。ディスコブームもあったし、高校生が地中海クラブに旅行するみたいなブームもあった。しかしバブルが崩壊し、97年には山一證券が崩壊するなど、不況が深刻化する。だから当時まだ高校生や大学生になっていなかった世代は日本の貧しさを実感することができず、自分たちの弱者ぶりも実感できない。特に第2次安倍政権になってからは、身軽になった既得権益層が安倍さんの要求に応えて非正規雇用の所得と雇用を改善した。昔の豊かな時代を知らない人たちは、そこでほんのちょっと待遇が改善しただけで“アベノミクスのおかげだ”と思うようになる。だから若い人ほど現政権支持が高くなるという特徴的なデータもある。

 しかし、日本だけの異様な統計数値に注目して欲しい。“ファクターX”が効いた東アジアの中でも日本は圧倒的な“コロナ敗戦国”だし、先ほども出た最低賃金、平均賃金、一人当たりのGDPはなぜこんなにも低いのか。あるいは、子どもの幸福度がOECD加盟国の中で下から2番目なのはなぜなのか。大人の幸福度も、この30年くらい90位〜40位の間を低迷している。ヨーロッパ、アメリカの一部の州ではEVの比率が2〜3割に及んでいるが、まだ日本は2%だ。それはどうしてか?そのようにして、統計を絶えず分析して、どこかおかしいんじゃないか?と考えることが重要だ」。

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 フリーアナウンサーの柴田阿弥が「私の場合、仕事でいろんな人と接することで勉強をする中で、政党のホームページに行くようになった。そして初めて、なるほど、こういうことかと分かった。その点、若い世代は年長の世代と比べて社会との関わりがまだ薄いし、親になることで初めて子育てや福祉に関する問題意識を持てるように成るという部分があると思う」と話すと、宮台氏は「議論をしないと無理だ」と指摘する。

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 「議論することが自分の問題にすることだ。例えば、“嘘、改ざんはどういうふうに考えればいいの?”“既得権益を軽くするだけの税制はどうなの?”といったことなどについて議論をすることだ。

 例えば過去25年間、日本では実質所得が下がっていて、すでに平均所得も最低賃金も韓国に追い抜かれているし、最低賃金はアメリカやヨーロッパの半分だ。”こうした状況にあるのはなぜなの?”と聞いても、知らない学生がたくさんいる。いろんな理由があってマスコミも報じないから、みなさん知らない。インターネットも、見たいものしか見ない”フィルターバブル”になってしまうから全然ダメだ。だから誰かとディスカッションをして、見たくないものを突きつけられる経験をしなければ、残念ながら政治の価値観のベースになるような判断もできないし、政治的な民度も絶対に上がらない。

 1950年代、先進国で中流が分厚くなったが、当時はスモールグループ、共同体の中に“床屋政談”とか“井戸端会議”と呼ばれるコミュニケーションがあった。そして“オピニオンリーダー”と呼ばれる旦那みたいなヤツがいて、ダメならダメなりに“真司くん、何も知らないでそういうこと言うんじゃないよ。実はこうなってるんだよ”“こういうふうに考えた方がいいんだよ”とアドバイスしてくれていた。

 これを『コミュニケーションの2段階の流れ仮説』と言うが、実はこれが民主主義が健全に機能するための基本なんだというのが、政治学でもオーソドックスな考えだ。しかし今、スモールグループ、共同体がバラバラになった結果、旦那衆に教えてもらうこともなくなるし、括弧付きで政治の話題はタブーだよ、みたいになってしまった。こんなことになっちゃうのは当たり前だ。その点、ヨーロッパやアメリカの一部の学校では模擬裁判や模擬議会を体験させ制度がある。日本では残念ながらほんの一部で、むしろ先生たちが政治的な話題に触れると、校長先生に怒られる。教育委員会からも大目玉を食らう。それが日本の大半の公立高校の現実だ」。

■“ネット選挙”にも課題

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 オンラインサロン『田端大学』の田端信太郎塾長は「僕が投票に行くのは、“俺が払った税金の使い道について、少しでも意見を言いたい”という気持ちがあるから。しかし20代の社会人で見てみると、確定申告しているのは他の年代よりもかなり少ないし、税金を納めているんだという意識を持っている人はほとんどいないと思う。例えば仮想通貨で儲けた20代もいると思うが、税制としては分離課税ではないので株よりも不利だ。最低賃金だって、アルバイトをしている人の生活には直結している。そういった点について、メディアは賛成か反対かを聞くべきだ。携帯電話会社にもらった牛丼一杯無料券で並んだりするんだから、それに比べて投票券1枚には一体いくらかかっているんだと、そういう意味で、ある意味では下世話にそろばん勘定の問題として考えてもいいと思う。つまり意識が高いか低いかではなく、いい意味で損得で考えてもいいということだ」と話す。

 宮台氏も「確定申告問題は決定的だ。日本ではサラリーマンをやっていると確定申告をしない。これが政治意識の低さの根源なのだと話す政治家は昔からたくさんいる。しかし政治意識が高くなっちゃうと困っちゃう与党の人たちがいるから、制度として実装されていかない」とコメント。

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 また、田端氏は「メディアも開票日の特番の視聴率を上げたいということなのか、期日前投票が便利になっていることをあまり知らせず、投票日のことばかり言っている。忙しい、遊びたいという人は前もって投票できると言うべきだ。それから、投票の機会をもっと便利にしていくという意味では、ネット選挙運動だけでなく投票自体までOKにするぐらいにすれば投票率も変わるのではないか」と問題提起。

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 宮台氏は「僕は90年代後半にネット選挙のロビー活動をしていたが、当時は与党の方が“とんでもない”という反応だった。ところが2005年の総選挙で小泉純一郎首相の自民党が都市浮動票の動員に成功して大勝すると、ネット選挙はむしろ与党に有利になるということが理解され、一気に解禁に向かって加速した。結局、政治家の利害が加速に関わっている。

 一方で、2001年にジョージ・W・ブッシュがアメリカ大統領選挙で勝った時には、南部高卒白人問題が話題になった。これは95年頃から爆発したインターネットを背景として、それまで政治に参加しなかった層が政治参加するようになった結果、こいつらはバカだからコントロールできる、都合がいいぜと、ポピュリズム的な動きが展開していった。

 これはインターネット全般に関わる問題だが、誰でもコミュニケーションに参加できることが良いことではない。そこでちゃんと価値観を醸成、ビルディングされる機会があるかどうかだ。そうしなければ、何にも考えないヤツがパッと見ただけで顔がいいからと投票するようなことを加速することになりかねない。手軽に投票できることは重要だが、条件がある」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
 

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