益若つばさ「娯楽のために欲しがっているわけではないのに」 アフターピル市販化に反対・慎重な姿勢の医師たちは何を懸念しているのか
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 性交後72時間以内に服用することで妊娠を80%以上の確率で回避できるとされ、日本でも10年前に解禁された「緊急避妊薬」(EC)、通称「アフターピル」。

【映像】アフターピル市販化 多くの若者期待もなぜダメ?益若つばさと慎重派医師が議論

 避妊の失敗や男性の避妊拒否、性暴力被害といった予期せぬ妊娠から女性を守るものだとして市販化(OTC)を訴えてきた産婦人科医の遠見才希子氏は去年7月、性教育サポートを行うNPO法人「ピルコン」の染矢明日香理事長たちと厚労相宛に緊急避妊薬へのアクセス改善を求める要望書を提出。厚労省はこれに後押しされる形で今年6月、4年ぶりに市販化に向けた検討会議を再開した。

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 ところが先月、会議を前に厚労省に提出された資料のうち、日本産婦人科医会の“医師の9割が薬局販売に反対”とするアンケート結果に疑義が生じた。同会は「暫定的なものだった」と謝罪、改めて提出された資料では「条件付き賛成」も含め、半数以上の医師が賛成したとの結果になっている。

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 現状、アフターピルを取り扱う病院はわずかで、遠見医師は「もちろん掲載されていない医療機関もあるが、対面診療が可能な機関として厚労省のウェブサイトに掲載されているのは、全医療機関の3%に過ぎないかもしれない」とアフターピル入手の困難さを指摘している。いったいなぜ、薬局での販売に反対する医師がいるのだろうか。


 これまで『ABEMA Prime』では賛成派の医師たちと議論を重ねてきたが、3日の放送ではメディアの取材にあまり応じてこなかった反対派、慎重派2人の医師を招き議論した。

■益若つばさ「娯楽のために欲しがっているわけではないのに」

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 匿名を条件に取材に応じた産婦人科医(50代、女性)は「あまり知識がない状態で使うのは危険かなという気がするからだ。簡単に手に入るようになれば、“これさえ飲めば妊娠しないんだ”、避妊に失敗しても“飲めば大丈夫”といった誤解が生じるおそれがある」と説明する。

 さらに医師は「本人が飲むのならいいが、手に入れて悪用する懸念もある」と懸念を示した。薬局で販売されることになれば、転売されてしまう可能性が考えられるため、まずはアフターピルや避妊そのものについて啓発する必要があると訴えた。

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  地域の周産期医療を支える病院長で産婦人科医の佐藤医師(仮名)もまた、市販化には反対の立場を取る。「悪用・乱用ということはあまり考えていないが、やはり“手軽に避妊ができるんだ”という思い込みは必ず出てくるのではないか。2〜30人に1人は避妊できないことが出てくるわけで、そのような誤解を招くことを懸念している」。

 佐藤医師は他国との違いも指摘する。「欧米の性教育は日本とは全く違うレベルだし、本来あるべき避妊のあり方と、どうしてもそれができなかった場合の緊急避難的な対策としてピルを、ということであるべきなのに、今は緊急避妊だけがクローズアップされていて、いわゆる経口避妊薬の普及が遅れてしまっている」。

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 一方、モデルの益若つばさは「私は市販化に大いに賛成だ。人を助ける選択肢としてあるわけだし、みんなも娯楽のために欲しがっているわけではないのに」と訴える。

 「実際に15万人の方が望まない妊娠をされているというデータもあるし、生まれてくる子どもに罪はないが、親が後悔を引きずりながら生き続けなくてはいけないケースもある。自分が10代だとして望まない、誤った性行為をしてしまったら、親にも言えないと思う。病院に行って理由を説明し、恥ずかしい思いをして薬をもらうのかと思ったら、“どうか妊娠してませんように”と祈って我慢してしまう可能性だってあると思う。

 避妊しなくてもいいという誤解を生むかもしれない、という意見もあるが、そもそもそういう教育はしていないと思うし、コンドームだって100%避妊できるとは思っていないはずだ。そして市販化されたからといって、女性が性に奔放になったりとか、好きでもない方と性交することにはならないと思う。というのも、アフターピルを使う時点で、すごく後悔していたり、やましいと悩んだりしているからだ。テレビなどを使って正しい知識を広めていけばいいだけなので、私は急いだ方がいいと思う」。

■「“緊急避妊ピルからOCへ”、ということを伝えるべきだ」

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 「私は緊急避妊ピル反対派というよりは、様々な条件を元に市販化をした方がいいと思っている方だ。益若さんがおっしゃったように、市販化されたとしても急に皆が飛びつくわけでもなく、たくさん処方されるわけでもないだろう」。

 あおもり女性ヘルスケア研究所所長の蓮尾豊医師は日本初の低用量ピル(低用量経口避妊薬、OC)専門クリニックを開院、産婦人科医として、数多くの女性に低用量ピルを処方してきた立場から市販化には慎重な姿勢ではあるが、「確かに緊急避妊ピルはより手軽に入手可能になるべきと思ってはいるが、そこで終わるのではなく”いつでも緊急避妊ピルからOCへ”、ということをしっかりと伝えるべきだ」と主張している。

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 「佐藤先生がおっしゃったように、私も緊急避妊ピルだけが注目されているということに違和感を覚えている。アフターピルは非常に有効ではあるが、そもそも服用しなくても妊娠しない時期の多くの女性に処方されており、本当に妊娠の可能性の高い時期の性行為の場合、アフターピルを服用しても2割近い女性が妊娠してしまうことも知っておかなければならない。まさに“緊急”という名前が付いているように、少しでも妊娠する確率を減らすための薬なんですよと、だからアフターピルだけに頼ってはダメなんだという情報、知識を、教育やメディアなどを通してどんどん普及させるべきだ。

 そして、それをきっかけにより確実な低用量ピルにつなげてほしい。先ほども話したがアフターピル服用後の2割近い妊娠というのはたった1回の性行為に対しての可能性であり、低用量ピルの場合は日本産科婦人科学会ガイドライン婦人科外来編によれば100人の女性が1年間に何回性行為があっても飲み忘れさえなければほぼ妊娠の可能性はゼロに近いといわれている。

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  欧米と違い今の日本で若い女性がより簡単に手に入り、より確実な避妊は低用量ピルしかない。だからこそ私は開業していた頃アフターピル処方の女性には“飲まなくてもいいから低用量ピルの1シート、1カ月分は一緒に持っていってほしい”と言っていた。それは“あなたに不安を感じながらアフターピルを繰り返して欲しくないからだ”と。“アフターピル服用をきっかけに、より確実なOC服用に繋げる”ことが重要だ。

 加えて、出血があったから生理が来た、もう大丈夫だ、というわけではない。出血がすべて生理とは限らない。だから緊急避妊ピルを服用した後には2週間後と3週間後に検査薬を使い、そこで陰性が出て、初めて妊娠を否定することができるし、アフターピル服用後に性行為があれば、最後に性行為があった2〜3週間後に再び検査が必要だ。そういうことも分かった上でこの議論をしなくてはいけないと思っている」。

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 また、低用量ピルの副作用の問題についても、「もちろんゼロではないが、多くの女性にとって問題となる副作用はまずない。むしろ長期に飲むことによって子宮内膜症や卵巣がん、子宮体がんを減らすともいわれている。ピルを飲むことによって排卵や月経回数を抑え、妊娠を希望する時に卵巣をちゃんと働かせた方が、不妊も減る。そういうことも伝えるべきだ」とした。

■避妊やピルに関する性教育の充実を

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 株式会社Culmony代表の岩澤直美氏は「性教育が必要だとはいえ、いつまで待たなければならないのだろうか。私は海外の学校に通っていたが、アフターピルの具体的な話をガッツリするかと言えば、そうではなかった。避妊にはいろいろな選択肢があるよという話であって、同時進行で行うことはできるのではないか」とコメント。

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 スピーチライター・カエカ代表の千葉佳織氏は「言かどうか迷ったが、私は低用量ピルを飲んでいる。なぜ迷ったかと言えば、低用量ピルを飲んでいると言うだけで、“遊びたいからじゃないか”、みたいな偏見を持たれる。加えて、月に3〜4000円、年に3万6000円かかっているので、アフターピルの市販化と同じような問題がOCにもあると思う。この点も変えないといけないと思う」と訴える。

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  佐藤医師は「産婦人科医としては女性主体の避妊方法としては低用量ピルを積極的に考えているし、当然、偏見を持ってほしくはないと思っている。一般社会にそのような偏見があるとすれば、まさにジェンダーギャップや女性蔑視にも繋がる感覚だと思う。やはり性教育は男女平等を進めていくためにも非常に大切だ。

 そして性教育=性交の話だと思われているが、最近では“命の教育”ということで、性行為は究極的には赤ちゃんを作るためのものだし、生まれたての赤ちゃんを見れば、どんな方でもかわいい、守らなければいけないと思うはずだ。そこから入っていくべきだということになる。赤ちゃんにとっては栄養源として非常に大切なおっぱいも、世間では性の売り物のようにされている風潮もある。そこは真っ当な性というものに向き合っていくために、小さい頃からやっていかなくれはいけない」とコメント。

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 蓮尾医師も「私は中学・高校で25年間以上性教育を続けていて、今週も中学校3校に行ってきた。中学生に対しても避妊はピル、性感染症の予防はコンドーム、コンドームでも予防できない性感染症があるので、検査の重要性もわかって欲しい、といったことを訴えてきた。手前味噌で恐縮だが、私の住んでいる青森県弘前市は人口17万人の小さな地方都市だが、婦人科外来で多くの女性にいろんな話をし、中高生への性教育でもピルの避妊以外の生理痛や生理周期の調節の役割などを伝えていった結果、ピルを飲んでいることを変に思う人はほとんどいない。むしろ生理痛にものすごくいい薬だよねと前向きに捉える市民が増えている。

 10代の女性には婦人科は敷居が高く、ピルをもらいに行きづらいという話もあるが、僕が開業していた10数年前でも、毎日10代の女性が15人、多い時には40人が、普通に制服で来ていた。要するに婦人科というのはまずは相談しにいくところで、診察(内診)ではないということを性教育で繰り返し伝えることにより、街の雰囲気、市民の皆さんの考え方も違ってくることを実感していた」と話していた。(『ABEMA Prime』より)

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