気候変動問題を協議するCOP26において、イギリスやカナダ、スウェーデンなど24カ国が2040年までに全世界でガソリン車やハイブリッド車の販売をやめ、EVなど温室効果ガスを出さない車に移行することで合意した。
一方、自動車が基幹産業である日本、アメリカ、中国、ドイツなどは国としての署名を見送った。ただ、ゼネラルモーターズやフォード、メルセデス・ベンツなどがメーカーとして合意に加わり、足並みが揃わない状態での出発となっている。
11日、トヨタ自動車と共同開発した電気自動車(EV)「ソルテラ」を来年から世界各地で発売することを発表したスバルの中村知美社長は「車としての選択肢がバッテリーEVだけなのかということに対しては、まだまだいろいろなチャレンジすべき技術はあると思っている」とコメント。
また、トヨタ自動車の豊田章男社長も今年9月、日本政府が示した脱炭素化への目標について「日本の実情を踏まえて決められたものではなく、欧州の流れに沿ったやり方ではないかと思う。だから、カーボンニュートラルはそれぞれの国の事情によって、やり方が違う」との見解を示していた。
11日の『ABEMA Prime』に出演したEXITのりんたろー。は「日本の車はすごい。映画の『ワイルド・スピード』とかを見ていても、世界の名車に負けないくらい、日本車がバンバン出てくる。結局、それはエンジンを作る技術だと思う。そのエンジンに伴ういろいろな事情から変えていけないことが多いのだろうが、ここれから日本の自動車産業はどうなってしまうんだろうと思う」。兼近大樹は「“車といえば日本”、みたいなことを刷り込まれて、“全ベット”してやってきたのに、いきなり“署名しろ”と言われて変えてしまったら、それこそ死人が出てしまうと思う。ただ、地球環境も考えなくてはいけない。脱炭素をやらなくてはいけない、そことのバランスも考えないと、世界に置いていかれる、嫌われてしまう。いい感じに足並みを揃えて行くにはどうしたら…」と話す。
自動車産業に詳しいジャーナリストの牧野茂雄氏は「まさにEXITさんがおっしゃったところが問題のキモだ」と話す。
「日本は2015年頃からエンジン技術の革新的なものをどんどん発表してきた。たとえばウィーンで毎年開かれているシンポジウムがあるが、そこでも日本の研究が最も注目される状態が続いていた。ハイブリッド車に関しても、トヨタが1997年に初代プリウスを出した時、各国が買って分解し、“これはダメだ、作れない。全部特許で抑えられているし、我々がこちらに行くのは無理だ”と慌ててしまったくらいだった。そこでヨーロッパ勢はディーゼル、あるいはガソリンエンジンを小型化し、ターボで走らせるダウンサイジングターボの方向に行った。
ところが、そのハイブリッドが売れてきてしまった。今はドイツのフォルクスワーゲンも日本にハイブリッド車を入れているくらい、実はどんどん出てきている。中国はそれこそ中国全土の車の半分をハイブリッドにしようと計画が進んでいる。ただ、やはり日本のハイブリッドが売れてしまうので、各国のメーカーとしては面白くないわけだ。また、その中国は日本の約5倍にあたる、年間2500万台くらい自動車が売れていて、このままではガソリンが足りなくなるので、2017年からはEVを買ってくれた人には補助金を出すという活動をやっているくらいだ。
一方、EUでは1km走るごとに95gまでしかCO2を出してはいけない。しかもメーカーには販売台数を加味した加重平均95gという規制も出てきた。やはり米中のIT、そして中国の自動車産業が伸びてくる中、産業構造を変えなければ、このままではジリ貧に陥る、何か一発逆転の手はないか、と考えたのではないか。つまり日本を蹴落とす、という意図も確実にあると思う」。
■日本の取るべき道は…?
フリーアナウンサーの柴田阿弥は「米中と輸出大国の日本、ドイツなどが不参加となると、2040年までに変えていくのは現実的ではないのではないか。電力が石炭火力であれば結局のところ意味がないし、国土の狭い日本では再生エネルギーも不安定だ。結局、日本国内を全てEV車にしたとしても、全ての問題が解決するわけではない」と指摘。
さらに「日本は化石賞ももらっているし、こういう国際的な取り組みにも合意しないので、環境問題には後ろ向きだと思われているかもしれないが、自国の産業を守るのも当たり前のこと。島国だし、よそから電気をもらうこともできないし、それこそ安全保障問題につながってしまう。現実的にはガソリン車を減らしていきつつ、ハイブリット車とEV車の選択肢が増えていく未来になるのではないか」と問題提起した。
牧野氏は「私も無理だと思う。まず今、バッテリーが全然足りない。トヨタが日本でRAV4のEVの予約注文を取ったが、先に契約していたアメリカのテスラやEUに供給しているパナソニックが“そんなに作れない“ということになったため、途中でやめてしまった。EUのEVは、ほとんどが韓国製か中国製のバッテリーだ。
また、そのEUではバッテリーEV車が売れていて、今年は約100万台に到達すると思うが、それでも全体では1600万台なので、まだまだ足りない。普及しない一番大きな理由は、価格が高いからだ。最も普及率が高い国はノルウェーだが、それは平均所得が日本の3倍だからだし、ドイツで買っている人たちも、多くがメルセデスのSクラスなどを持っていて、補助金がもらえるバッテリーEVを2台目として買うという富裕層だ。しかし、ポルシェがバカ速い車種を出したら、ものすごい人気になった。結局、車は人に見せびらかすものでもあるので、どうしてもそっちに流れるという側面がある。
その意味で、最も現実的なのは中国だと思う。バッテリーEVと水素を半々にして、特にトラックには水素を使い、乗用車はハイブリッドにしましょうということで、メーカーもどんどんハイブリッド車を開発している。
一方で、EVの電池は水をたくさん使う。約1トンのリチウムを作るのに、約3万リットルの水がいるとされているので、資源問題にもつながっている。日本でも様々なメーカーや大学が一生懸命考えていて、研究開発としては一番進んでいる。ところがそこになかなかお金がつかない。自動車メーカーの経営者や経済産業省などが、環境のことを考えた発想をしてくれれば変わると思う。また、例えば12トンの荷物を積めるトラックをバッテリーだけで走らせようとすれば、バッテリーは6トンいる。そうなると、荷物は6トンしか運べず、トラックが2台必要になる。果たしてそれがいいのかという、使い方の問題も出てくる。
さらに柴田は「私は愛知県民なので、昔から多くの人が関連企業に勤めていることを知っている。一口に自動車産業といっても膨大な関連企業があって、エンジンだけでも子会社や下請け、孫請けがある。そこで一気にEVにするぞと言ったら多くの雇用が失われてしまうので、一気にシフトできなかった、山が大きすぎて動かせなかったという面もあったのではないか」と投げかける。
牧野氏は「例えばエンジンと燃料タンクがなくなっても他の部分はあるので、EVのパワートレインの方への配置転換も進んでいる。ただ、これはドイツでもフランスでも同じことなので、世界中でエンジン技術者が溢れてしまう懸念はある。一方で、日本はここ25年間給料が上がっていないとよく言われるが、その理由は経営だ。これから先、世界がどうなっていくのかをきっちり見極めて経営判断をしてこなかったために取り残されている。個人のエンジニアや組織としては非常に技術をたくさん持っているが、それが表に出てこない。
実はある自動車メーカーで電池をやっていた人がコンピュータを取り上げられ、お前、もういなくていいと言われてしまった。でも、その会社は今、EVをバンバン売っている。そういう、人を見る目のない経営者、経営判断ができない経営者が多いことも影響しているのではないか。また、日本は随分前から小さなEVを出していたが売れなかった。日本は確実なものしかお客さんに出さないので、売れなければ“やめろ”ということになってしまう。それはいい面でもあるし、悪い面でもある。中国やEUの場合、多少不安でもとにかくお客さんに使ってもらって実験しようというのが認められている。そこは日本人の気質なのかなという気がする」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
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