Appleの新サービス「デジタル遺産プログラム」が11月9日にリリースされた。
今年6月に行われた世界開発者会議で「普段はあまり考えないが、自分が亡くなった後、家族や友人に簡単に情報を引き継げることは重要だ」と発言していた同社のマイク・アボット氏。新サービスでは、ユーザーが亡くなった場合に、「iCloud」に保存した写真や書類などのデータを家族や友人に簡単に引き継げるようになるという。ユーザーの死後、登録者の要請に応じてAppleが故人のデータへのアクセスを認める仕組みで、デジタル遺産の継承を手助けする試みとして注目されている。
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画期的な新サービスと思いきや、Twitterでは「パスワードが解除できないと困るから便利」「死後に請求が来ることをとめられるのは重要」といった声のほか「ありがた迷惑」「見られたくないものが多すぎる」「死んだらスマホは海に捨ててほしい」など、賛否の声が殺到。死後のプライバシーはどこまで守られるべきなのか。ニュース番組『ABEMA Prime』では故人のスマホデータ引き継ぎの是非について、専門家らと議論を行った。
Appleが発表した新サービスについて、ネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「遺産として遺族に見てもらいたいものと、これは触るなというものは、たぶん違う。『アクセスキーを渡したら全部触れる』といった形はやめたほうがいい。遺産として『これは見ていい』といったカテゴリーを作って『そこにぶち込んだものだけ見てください』というサービスにしたらいい」と発言。
今回、9日に公開されたAppleの新サービスはベータ版だが、現状iOS15.2で、ユーザーは自分の死後iCloud上にあるデータにアクセスできる管理者を5人まで設定可能だ。管理人に選ばれると、管理者はAppleにその人の死亡証明書のコピーを提出することで、アクセスキーが送られ、故人のデータが見られるようになる。また、GoogleやFacebookでは類似のサービスをすでに始めている。
上記のようなサービスが利用できない中で故人のデジタルデータを見ようとすると、専門の業者に頼る必要がある。値段はスマートフォンのパスワードを解除に約30万円、パソコンであればパスワードの解除とデータ取り出しなど各2万円〜5万円ほどだ。
「デジタル遺品を考える会」代表でジャーナリストの古田雄介氏は「私も自分のサイトで『デジタル遺品に困った』という方から無料の相談を受け付けている。そのうちの8割、7割は『スマホのロックが開かない、どうしたらいいか』という相談だ」とコメント。Appleが始めた新サービスについて「いろいろな企業が、利用者本人のプライバシーをとにかく大切にする思いを持っている。しかし、その方が亡くなった後、遺族が困るのも忍びない。そのせめぎあいの中で、一番いい答えはどこか。それをずっと模索しているように感じる」と語った。
「家族や友人であっても見られたくない!」という声もある写真や動画、検索、購入履歴、SNSのトーク履歴などのデータ。古田氏は「デジタル機器は誰も踏み込まない俺の城みたいなイメージを持たれる方が非常に多い」とした上で、「でも少し考えてみると、自分が死んでしまったら部屋や家に、大家さんや家族が踏み込んでくる。それとデジタルは同じで、まずは『大変なことが起きたら、踏み込まれてしまうんだ』ということを想定した上で(デジタル機器を)使うという意識が重要だ」と話す。
番組の司会を務めるテレビ朝日・平石直之アナウンサーは「スマホだけロックが解除できても、それぞれのアプリごと、契約しているサブスクリプションサービスごとにパスワードがあってややこしい」と指摘。「全部同じパスワードにしてしまうと、(ハッキングなどを)やられたときに全部筒抜けになるので、それぞれパスワードを変えている。クレジットカードも1枚ならすぐ止められるが、何枚も持っていることがある。なのに、ちゃんとこの話をみんなあまりしていない。急に死んだときに、周りが大変な思いをする」と疑問を述べた。
この疑問に古田氏は「定額料金を支払って利用するサブスクはクレジットカード(の解約)で一網打尽できるようにする選択肢もある」と回答。「しかし、それをやって、クレジットカードが止まってから半年後ぐらいに『いろいろなサブスクの請求が自宅に届いた』といった相談も最近多くなっている。サブスクは料金が滞納されれば、自動的に解約されるが、滞納された分の請求は来てしまう」と注意点を明かした。また、クラウド上にデータを保存されていた人が亡くなった場合「遺族がサービスを解約してしまった後に『パソコンやスマホの中ではなく、インターネット上にデータがあった』と気づくケースもある。解約してしまうと、クラウド上のデータにアクセスできなくなってしまう。処理する手順や順番も把握しておく必要がある」とした。
一方で、遺族の声を聞いたサービス業者が規約を変えたケースも存在するという。古田氏は「例えばブログサービスなどは10年くらい前は『相続できない』という規約が一般的だった」とした上で「遺族から『亡くなったので引き継ぎたい』という声をたくさんいただいたことによって、一身専属ではなく、引き継げる、承継できるように利用規約を変えたケースもある」と紹介。「こういった議論は無駄ではない。みんなの声が集まることによって、よりいい答えに結びつくことがある」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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