コロナ禍で「神経性やせ症」の子ども増加も…治療薬なし 臨床心理士が語る“自分と向き合いすぎ”問題
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 先月、国立成育医療研究センターが、新型コロナウイルス感染症流行下の子どもの心の実態を調査した結果を公表した。

 本調査には、全国26医療機関が参加。新型コロナ流行前の2019年度と比較し、2020年度では「神経性やせ症」の初診外来患者数が約1.6倍、新入院者数が約1.4倍に増加していたことがわかった。

【映像】コロナ禍で子どもの“拒食症” 新規患者増に(画像あり)※冒頭〜

 また、子どもの心の診療ネットワーク事業拠点病院から、コロナ禍で神経性痩せ症の患者が重症化し「入院期間が延びている」といった報告もあり、摂食障害の病床充足率について回答があった5施設のうち、4施設で病床使用率が増加していた。摂食障害を治療できる特定の施設に入院患者が集中しているだけでなく、新型コロナウィルス感染者への病床数を増やしたことで、摂食障害を持つ患者の対応ができなくなったことが影響している可能性も考えられるという。

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 「神経性やせ症」とは、一体どのような病気なのだろうか。臨床心理士で明星大学心理学部准教授の藤井靖氏は「摂食障害のひとつの病態で、一般的には拒食症と呼ばれます」と語る。

「拒食症の正式な診断名が『神経性やせ症』です。この病気はとても怖いもので、10年のスパンで見ると約5〜10%の死亡率があるといわれています。死因としては極度の低栄養に起因する多臓器不全、不整脈、感染症に加え、自死の方もいます。女性10人のうち1人が、一生のうちに何らかの摂食障害を起こすとも言われていて、特に女性の思春期や青年期は“好発年齢”といって、非常に摂食障害が起こりやすい年齢でもあります。また、近年は低年齢化が進み、小学生の発症も稀ではないことに加えて、男性の患者さんも増えてきています」(藤井靖氏・以下同)

 藤井氏は「人間関係や学業不振など学校に関する悩みを抱えている子どもにとっては、コロナ禍で休校や遠隔授業が増えて『楽になった』という声もある」とした一方、「さまざまな変化に伴うストレスや不安が多くの子供に影響したことに加えて、他人と関わらなくなった分、自分自身と向き合いすぎてしまうといった心理状態はよく見られるようになった」と明かす。

「自分の身体を鏡で見たときに『鍛えなきゃ!』と思って必要なカロリーを摂取しつつ筋力トレーニングをするなど、ポジティブな向き合い方はいいですが、実際にはやせているのに『△△ちゃんに比べたら太っている』『(身体の一部が)よく見たらたるんでいる』『自分は太っていて、体重が増えるのがとにかく怖い』『こんな体型では自分には価値がない』などと自分の身体に対して歪んだ見方や思いを強く持ってしまうと、ちょっとした気軽なダイエットから始まって、どんどんその気持ちが強くなり、食事制限や過度の運動、排出(下剤使用や食べ吐き)などの行動がエスカレートしていくことがあります」

「摂食障害に関しては、SNSの影響も以前から指摘されていて、SNS上を含むメディアで『美しい』『スタイルがいい』『理想の体型』と称賛される人の多くが、体重と身長から算出できるBMI(ボディマス指数)が18.5未満(※日本肥満学会の基準では18.5未満が低体重とされる)であるといった指摘もあります。そういった人たちが、社会的に人気があると自分でも気づかないうちに『こういう人が理想像だ。自分もそこを目指さないといけない』という価値観になってしまいがちです」

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 SNSが子どもに与えるさまざまな影響。神経性やせ症の初期症状について、藤井氏は「食事に対するこだわりが強くなる」と話す。

「外食しても『これしか食べたくない』と言って低カロリーの食品など特定の食べ物しか食べなかったり、あまり食べていないのに『今日はお腹が空いてないからこれだけでいい』とか『十分食べている』などといった言動があります。伴って一日に何度も体重を測ったり、全ての食品のカロリーをチェックしたり、やせているのにまだ自分が太っていると強く主張することも多いです」

「いわゆる摂食障害は『本人の病識(自分が病気であるという感覚)が乏しい』と言われている病気です。精神面の異常も含め、痩せて病気の症状が出ていることに自分で気づかない。低体重に伴い、自尊心がより低くなったり、体型へのこだわりもさらに強くなっていきます。もちろん前向きな気持ちで身体作りをしている子もいると思いますが、女性であれば生理が止まるなど、自分で痩せていくことが止められないのは危険です。体脂肪が減って生理が止まっていても、『(無月経が)むしろ楽です』と、身体の危険性の認識が薄い方もいます。病院では、体重を増やしたり、食生活を元に戻すといった治療が行われますが、本人が行きたい方向(痩せたい気持ち)と治療の方向が基本的には逆なので、非常に回復が難しい病気です。そのため、カウンセリング(認知行動療法)では、『変わりにくい本人の気持ち』と『変えていくべき食生活や体重』という一見矛盾する2つのことを、両方大事にしながら治療を進めていきます」

 神経性やせ症の治療薬はないのだろうか。

「現状、神経性やせ症に対する直接的な治療薬はありません。栄養失調で体重の低下が起こると、それに伴って脳の萎縮や、うつや不安が強くなったり、イライラ・集中力が落ちるなどの症状が出ます。それに対する治療薬はあっても、まずは食べる量を増やすなど栄養状態を回復しないとどうにもなりません。しかしこれは簡単なことではなく、『食べて』と言って無理やりどんどん食べさせることができるかというと、それはできません。摂食障害は症状があるのに受診に至っていない人が相当数いると考えられていますが、専門的治療の中で身体状態の管理をし、家族の理解や協力も得ながら計画的に体重を増やしていくことが重要です」

「なお日本は先進国の中でも欧米に比べて摂食障害に関する治療体制の確立が遅れている国です。海外では、専門の治療機関があり、アメリカや英国など治療プログラムや人的リソースが揃っている国もありますが、日本には摂食障害を専門に診る病棟や病院がありません。そのため、心療内科や精神科では一般的な疾患であるにも関わらず、どこの病院に行っても十分な治療が受けられるというわけではない現状があります。あまり知られていない問題ですが、命に関わるこの疾患の早期発見・早期治療のためにも、専門機関の設立は国の急務だと思います」(『ABEMAヒルズ』より)

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