自宅で家族3人を殺害した罪で死刑が確定している奥本章寛死刑囚が今年7月、収容されている拘置所での色鉛筆の使用を求めて国を提訴したことが話題を呼んでいる。
以前は色鉛筆で描いた絵画の販売収益の一部を遺族へ送り続けていたという奥本死刑囚。しかし法務省は今年2月から死刑囚が色鉛筆や鉛筆削りを購入して自室で使うことを禁止。これが「表現の自由」の侵害であり、違憲だというのが奥本死刑囚側の主張だ。
報道を受け、鉛筆削りの刃を使った自殺を防ぐためではないかとの見方も出ており、Yahoo!ニュースのコメント欄には「色鉛筆くらい使わせてあげればいいのに」「死刑囚でも犯罪者でも“人権”を主張するのは当然」といった肯定的な声もあれば、「人の命と未来を奪っといて自分の権利を主張するのはあつかましい」といった否定的な声もある。
刑事施設における被収容者の権利について、どのように考えればいいのだろうか。15日の『ABEMA Prime』では、“元受刑者”に話を聞いた。
■元受刑者「贅沢かなと思う部分も確かにある」
強盗致傷の罪で3年6カ月服役、現在はSNSを通じて逮捕から更生に至る道のりを発信している仮釈三郎さん(仮名、30代)は、「刑務官から罵詈雑言を浴びせられるのは日常茶飯事だった」と明かす。
それでも仮釈さんは「刑務所に行ったからといって全てが許されるわけではない。刑務所というのは、犯した罪の罰を受ける場所だし、更生をする準備のための場所でもある。だからそこにいる間は人権についても、そこまで必要ではないと思っている。むしろ外に出てからの方が大変だし、処遇を良くしようとするよりも、出てからのことを真剣に考えた方がいいと思う」と話した。
一方、殺人の罪で16年6カ月服役、昨年出所した高野さん(50代)は、同じく刑務官の厳しい対応に苦しんだとし、受刑者が償い・更生へと進むためにも人権尊重が必要だと訴える。
「お腹が痛いと言ってもほったらかし。夜間になると医者がいないからということで、処方された薬すら出してくれないこともあった。職員も1年目は素直だが、2年目、3年目になると内情が分かってくるし、体育会系なので“上の人からもっと厳しくしろ”と厳しい指導を受けると、その分だけこちらへの態度も厳しくなる。それが“おい”とか“コラ”といった横柄な態度になって、“すみませんけど、名前で呼んでくれませんか”と言っても“お前ら受刑者がそんな偉そうなこと言うな”という態度になる。そういったことで受刑者とのトラブルになることも多かった。そして、これは“カード”でもある。言うことを聞かない、そりが合わない者を挑発して、そこに乗っかってくれば、すぐに懲罰の対象にできる」。
一般的に被収容者が暮らす部屋には12畳程度で定員6名の「雑居房」と3畳程度で、中には監視カメラ付きのものもある「独居房」に分かれており、トイレも外から丸見え。つまり実質的にプライバシーのない生活が続くことになる。
「基本的にカメラ房に入るのは自殺しそうな受刑者、もしくは暴れる受刑者だが、これも運用は職員の決め方一つなので、何か訴えを起こしてくる受刑者を懲らしめ的に入れたというケースも見た。それから、今どき9時に寝る小学生の子もいるのかな?と思うくらい、睡眠時間は取れるが、朝早く目覚ても、決められた時間までは布団から出られないし、人と喋ることも許されない。もちろんトイレに行くことはできるが、高齢の受刑者にはきつい環境なんじゃないかと思う。一方で、コロナ禍で職を失ったシングルマザーの方などがいる中、刑務所にいれば安定した仕事もある。布団や夏物の服も年に1回は変えてもらえる。そういうことができない家庭もあるじゃないかと思えば、贅沢かなと思う部分も確かにある」。
その上で高野さんは「今回の死刑囚の方の問題に関していえば、売上を被害者の弁済に充てるために絵を描いていたという。そういう意思があるのにも関わらず取り上げるのはどうなのかと思う。死刑囚の方の場合、服役囚のように作業はないので、被害弁済はどうやってするのかと思う」と話した。
■「その人に応じた反省の仕方や刑罰があるいうこと」
カンニング竹山は「難しい問題だし、“理想論”だと言われるかもしれないが、人には生きている限り人権があると思う。刑罰として自由が奪われる部分はあっても、人権は死ぬまでないとおかしいと思う」と話す。
龍谷大学法学部・犯罪学研究センター長で弁護士の石塚伸一教授は「懲役刑や禁固刑などについて、刑法には“刑事施設に拘置し”と書いてあって、懲役刑の場合は所定の作業が義務付けられているので、それを務めればいいということだ。ただ、共同生活をするためには守らなければいけないルールがあるし、皆さんと同じで、良い奴もいれば嫌なやつもいる。加えて、閉鎖され、拘禁されている状況には特殊なメンタリティがあってストレスも大きい。それをどうコントロールするか、こっちではこういう事故があったから、と様々な技術が発展した結果、ルールでがんじがらめの刑務所ができてしまっているということだ」と話す。
「人権とは、そこでその人が生きていけるかというところがポイントになる。つまり平気な人もいれば、しんどい人もいる。だからここからは良い、ここからは悪い、と一本の線を引かずに、それぞれに応じてきめ細かく見ていけるようにできるかだと思う。僕は40年以上にわたって刑務所の勉強をしているが、始めて府中刑務所に参観に行った頃と比べれば、今は“緩い”と言われるくらいになっているかもしれない。やはり当時の学校ではボカボカ殴られていたし、徴兵されて軍隊に行けば、やはりボカボカ殴られていた。だから刑務官も殴る。ある刑務官は新人時代、受刑者を朝から並ばせて殴れと言われたそうだ。“殴らなかったらこいつらは言うことを聞かないぞ”と。しかし今は学校でも殴らないし、刑務所の中でも殴らない。外が変わったように、刑務所の中も変わった」。
そして色鉛筆の問題については「奥本さんの場合、そんなに高いお金で絵が売れるわけではないが、親戚の方に受け取ってくれる方もいるという状況だ。やはり殺害したのが奥さんと自分の子ども、そして義理のお母さんなので、被害弁済といっても他の事件と少し異なる部分がある。また、やはり彼にとって絵は表現だ。最初は稚拙だったが。だんだん上手くなり、自己の表現ができるようになっている。それにともない、彼の反省も深くなっていく。そういうふうに見れば、表現ができるようにしてあげたほうが良いと僕は思う。
その意味では、色鉛筆を持つ権利があるかないかという問題の立て方は間違っていると思う。19世紀のフランスで“刑の個別化”と言われ出したことだが、同じ鞭打ち刑でも、はすごく痛がる人もいれば、頑健であまり痛くないという人もいる。つまり、その人に応じた反省の仕方や刑罰があるいうことだ。奥本さんの場合、刑の執行までの間、つまり生きている間は拘置所にいなければならないし、そこに色鉛筆が必要だということだ。もちろん、色鉛筆がいらない人もいる。これが、それぞれの人に応じた権利だと思う」。(『ABEMA Prime』より)
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